第17話:決闘! vs 王子様
俺が生徒会長をぶっ飛ばしてから、二十一日後。
選挙結果は俺の要望した「旧式の制服も可とする」が勝利した。
体育館はざわめいている。
勝者を見る視線。
期待と、好奇心と、そして――
「本当に終わるのか?」という疑い。
その全部が、俺に向けられている。
通常なら生徒会長が俺におめでとう、といって新しい校則として登録されるわけだが…
今は生徒会長はいない。
なので代わりに副生徒会長である王子様が立っている。
【王子】
「新校則発起人、ヴァトリナ・リンドストレーム」
【王子】
「おめでとう」
王子の表情は読めない。
いや――違う。
読ませる気がない。
本当に総書記長の言う通り決闘を仕掛けてくるんだろうか?
総書記長が言うには、廃嫡をせまるのに踏みとどまれる最後の一線だとはいっていたが。
【ヴァトリナ】
「どーも」
本来なら、飛び跳ねて喜びを表現したい所だが
状況が状況だ。
王子の動きに集中する。
【王子】
「そして、この新校則」
【王子】
「制定を賭けて余と決闘せよ」
――来たか。
総書記長の最後の一線を踏み越えたな。
【ヴァトリナ】
「どういうつもりだ?」
【王子】
「この選挙結果、決闘にて覆す」
【ヴァトリナ】
「選挙はアンタが決めたルールだろ」
【王子】
「決闘も余が決めたルールだ」
【ヴァトリナ】
「言っただろ?
防御力も、価格も、格好良さも全部ウソだ、と」
【王子】
「ルールだ」
【ヴァトリナ】
「ふん。俺と同じか…
俺が旧制服を着せたいのと
アンタが新制服をきせたいのは」
【ヴァトリナ】
「ただの我がまま」
【王子】
「…余は違う」
【ヴァトリナ】
「なら、言ってくれよ。
全校生徒の前で、その理由とやらを」
【王子】
「……」
【ヴァトリナ】
「そうか。じゃあ決闘に俺が勝ったら、理由を言え」
【王子】
「余が勝てば、この校則は廃案だ」
とうとう、か。
戦って頭を冷やさないとならんとは面倒な王子様だ。
【ヴァトリナ】
「OK」
【ヴァトリナ】
「じゃあ決闘場へ行こうぜ」
一応、決闘場に誘う。
まあ決闘場にも罠は仕掛けてあるので、そっちでも問題はないがな。
【王子】
「不要だ」
【王子】
「この場で勝負する」
王子は演台を降り、体育館の中央へ歩いていく。
生徒達はそれを避けてスペースが出来た。
【王子】
「ヴァトリナ・リンドストレーム、そなたも来い」
俺は誘いに乗って体育館の中央で王子と向き合う。
【王子】
「総書記長。結界を張れ」
【総書記長】
「はっ」
総書記長が体育館に魔法で檻のような物を作り出す。
【ヴァトリナ】
「全校生徒の前で戦うのか?」
【王子】
「ああ、最高の舞台であろう」
【ヴァトリナ】
「どうだかな」
ここまでは――
予定通りだ。
だが。
それで終わる相手じゃない。
【王子】
「風紀委員長」
【王子】
「合図を」
【風紀委員長】
「では」
一呼吸。
【風紀委員長】
「レディ――ファイト!!」
決闘が始まった。
――その瞬間。
空気が、変わった。
――
俺は王子の使う魔法を知っている。
だが、使ってくる気配がない。
両手を広げ、こちらを見据えているだけだ。
だったら――
距離を詰める。
迷う理由はない。
俺は走り、拳を振りかぶり――
王子の頬へ叩き込んだ。
【王子】
「くっ…」
拳が当たり王子は倒れこむ。
【ヴァトリナ】
「どういうつもりだ?」
王子はダウンした状態で答える。
【王子】
「なに。これは――余の流儀だ」
【王子】
「まずは受けてやる」
【ヴァトリナ】
「たいした余裕だな」
王子は、笑った。
【王子】
「風紀委員長。バフ魔法を」
【風紀委員長】
「はっ」
風紀委員長は王子を強化する魔法をかけ始める。
【ヴァトリナ】
「はぁ?それは卑怯じゃねぇか?」
【王子】
「ルール違反ではない」
【ヴァトリナ】
「おい!ムスカール!本当なのか?」
【ムスカール】
「確かに書いてない」
ムスカールは生徒手帳の校則の部分を開き俺に見せてくる。
【ヴァトリナ】
「はあ!?なんだそのクソルール」
俺は風紀委員長に向かって水の弾丸を打つ。
【風紀委員長】
「ひぇえ」
だが結界によって弾かれてしまった。
【総書記長】
「観客への攻撃は禁止です」
その言葉に風紀委員長はニタリと笑う。
【風紀委員長】
「そういう事だ。不良生徒め、年貢の納め時だ」
【ヴァトリナ】
「ルールに守られた不良はお前だろうが!」
【イーシア】
「風紀委員長。さすがにそれはドン引きよ」
【ムスカール】
「これは酷い。筋肉もつっている」
【風紀委員A】
「やはり、リコールに失敗したのは風紀委員の恥だ」
風紀委員たちの軽蔑の声が風紀委員長に刺さる。
【総書記長】
「うるさい!殿下の為だ!お前らも忠義を見せろ」
【ヴァトリナ】
「そんなもんが忠義なもんか」
俺の忠義という言葉を聴いた王子は笑う。
【王子】
「くっくっく。はっはっは。あーはっはっは」
【王子】
「では、改めて始めよう」
【王子】
「幻獣変化。ドラゴン」
王子の姿がドラゴンに変化していく。
【ヴァトリナ】
「させるかよ」
俺は王子に向かって水の弾丸を放つ――
が、王子の変化は止められない。
王子は巨大なドラゴンになった。
【風紀委員長】
「やった。これで勝つる」
【王子】
「ドラゴンの力。とくと味わえ」
ドラゴンのシッポが薙ぎ払いをしてくる。
俺は水を棒状にし高跳びの要領で飛び越える。
そして水の回転ノコギリを作り落下の勢いに任せてドラゴンの背中に叩きつける。
【王子】
「……器用な」
たいしたダメージになっていないようだ。
【ヴァトリナ】
「そっちが不器用なだけじゃないか?」
床は水を逃がさない。
だから――
ここは、俺の領域だ。
散った水が、床を滑るように広がっていく。
足元。
壁際。
影の中。
視界に映らない位置へと、静かに配置されていく。
【ヴァトリナ】
「――包囲殲滅陣」
あの時と同じだ。
ヴェーラにやられた、
“見えない場所からの一撃”。
どこから来るか分からない恐怖。
気付いた時には、もう遅い攻撃。
――なら、使わせてもらう。
床に潜ませた水が、一斉に跳ね上がる。
全方向からの弾丸。
【王子】
「ぐ……っ!」
避ける暇はない。
視界の外から叩き込まれる衝撃に、
王子の体勢が崩れる。
肉体だけじゃない。
意識が――削られる。
【風紀委員長】
「殿下ー!」
風紀委員長は慌てるが、これもあまりダメージにはなっていないようだ。
固すぎだな、このドラゴン。
王子は右手を振り上げてから、俺に振り下ろす。
だが、余裕で躱せる。
鈍重だ。
【王子】
「……鬱陶しい」
このまま、削り切ってしまうのもアリだが、王子はそれを許さんだろう。
【ヴァトリナ】
「そのまま、ゆっくりと沈め」
【王子】
「舐めるな!」
アレが来る。
【王子】
「幻獣変化! ファイヤードラゴン!!」
王子の色が赤く変わる。
【王子】
「ファイアーブレス」
王子は火炎の息を吐く。
俺は水の盾を展開し、それを防ぐ。
水が蒸発していく。
【王子】
「そなたは水を液体の状態でのみ操れる」
【王子】
「このように気化してしまえば無力だ」
【王子】
「そうだろう?」
【ヴァトリナ】
「そうだな、液体の水が無ければ俺の星は輝やかん」
【王子】
「そうだ、そなたは万能の星ではない」
【王子】
「いくら強く輝こうとも」
【王子】
「余の希望の星になりえない」
【ヴァトリナ】
「ヴェーラには輝く場所を与えようとした癖に」
【王子】
「ヴェーラには相反する星はなかった」
【王子】
「だから余を照らす夜空の星に置けるのだ」
それはサーブルを退かして、って事は突っ込まないでおこう。
後々面倒になりそうだしな。
それより。
【ヴァトリナ】
「相反する星?」
【ヴァトリナ】
「誰だよ?それは」
【王子】
「知る必要はない」
【王子】
「そなたには、な」
王子は炎を吐く。
水が気化していく。
もう水筒が空になりそうだ。
【ヴァトリナ】
「王子様よ、俺は個の才能ではアンタに負けるかもしれんな」
【ヴァトリナ】
「だが、人間ってのは才能だけじゃないんだぜ?」
【王子】
「なにを言う」
【王子】
「人は才能が全て」
【王子】
「そなたは余に敗れるのだ」
王子はさらに激しく炎をまき散らす。
【ヴァトリナ】
「おーい、イーシア」
【ヴァトリナ】
「この体育館、熱くねーか?」
【イーシア】
「はぁ?そんな事言ってる場合じゃー」
【ヴァトリナ】
「みんなの為にも氷で冷やしてくれ」
【イーシア】
「……そういう事ね」
【イーシア】
「≪ダイアモンド・ダスト≫」
イーシアは魔法で大気中の水分を氷にして降らせる。
【王子】
「これは…」
【ヴァトリナ】
「ああ、氷が王子様の熱で水になってしまったな。」
【風紀委員長】
「こんなの卑怯だ。認められない」
【ムスカール】
「そんなルールはないようだが」
【風紀委員長】
「うむむ。」
【風紀委員長】
「それでも!風紀委員のみなさん!イーシアをとめるんだ」
【ムスカール】
「暑くて筋肉が困っていた所だ。もっと冷やしてクールダウンさせて貰いたい」
【イーシア】
「そうね。この暑さは観客への攻撃なのかもね」
【風紀委員A】
「ならばルール違反は存在しないな」
【風紀委員長】
「黙れ!決闘者の片方に有利になるような事は辞めろと言っている」
【風紀委員A】
「片方にバフ魔法を使うような男が何を言うか」
【風紀委員B】
「やはり、リコールしておくべきだった」
【風紀委員C】
「もう、この男についていけない。私はイーシアさんを守るぞ」
風紀委員50名の内、23名が離反した。
【風紀委員長】
「お前ら~!」
【???】
「風紀委員長。まだ我らがおります」
【風紀委員長】
「そうだ。風紀四天王、風の将ピューイ。そして炎の将ジュレン」
【風紀委員長】
「お前らが居れば勝てる」
【ムスカール】
「ふん。風紀四天王最弱という汚名は返上させてもらうぞ」
【ムスカール】
「ヴァトリナと共に鍛え直した新しい筋肉でな」
観客席で乱闘になった。
【王子】
「ヴェーラ!」
【ヴェーラ】
「はっ」
【王子】
「イーシアを止めよ」
【ヴェーラ】
「……」
ヴェーラは迷っている。
【王子】
「どうした!?ヴェーラ」
俺を見ている。
【ヴァトリナ】
「行ってやれ」
【ヴェーラ】
「良いのですか?」
【ヴァトリナ】
「王子様の希望の星なんだろ?」
【ヴァトリナ】
「お前くらいは王子様の味方してやれ」
【ヴェーラ】
「はい…」
ヴェーラはイーシアに向かって飛んでいく。
しかし、それを銃弾が妨害する。
【ヴェーラ】
「何?」
【サーブル】
「ふははは!!我々、士官学校組はヴァトリナの援護に回る」
【ヴェーラ】
「あなたは私に完膚なきまで負けたでしょうに」
【サーブル】
「それは一対一での場合だ」
【サーブル】
「俺が指揮する部隊で我らの強さをお前に認めさせる」
【ヴェーラ】
「やってみなさい」
観客席が――割れた。
一斉に動く。
風紀委員。
士官学校組。
そして――
ただの生徒たち。
それぞれが、それぞれの意思で動き始める。
王子は乱闘している生徒たちを見る。
【王子】
「……何だ、この混乱は」
【ヴァトリナ】
「これが――人の輝き」
【ヴァトリナ】
「お前が切り捨てた輝きだ」
【王子】
「……これは輝きではない」
【王子】
「ただの雑音だ」
【ヴァトリナ】
「それでも、輝きだ」
一歩、踏み出す。
【ヴァトリナ】
「この輝きで」
【ヴァトリナ】
「お前の間違いを、ぶっ壊す」




