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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第三部

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200/226

第六十七章『銀猫、神の名を背にして──けれど私は』※挿絵有り

挿絵(By みてみん)

朝の光が、やわらかに差し込んでくる。

 

ファナが目を開けた時、まず視界に入ったのは──黒くてまあるい後頭部だった。

「……あ、ファニャン。おはよ」

 

ふわふわの毛並みは今日も艶やかで、そしてその口元には、いつものように……干し魚。

「それ、どこから持ってきたの?」

問いかけると、ファニャンは魚を“ぽとっ”と落とし、くるりと振り返って“ふにゃ”と一鳴き。

彼の背後──玄関先の供物台には、今日もずらりと並んでいた。

干し魚、ミルク、小魚の煮付け。ついには猫用の高級クッションまで加わっている。

 

「……これもう完全に、ファニャンのための台だよね……」

布団の中でぼんやりと呟く。

ファニャンは満足げに魚を咥え直し、枕元にゴロンと寝転がった。

“まったく異常がない”という顔で。

 

***

 

その日の昼過ぎ。

「よっ。元気そうじゃねえか」

「ふふ、会いたかったわよ、ファナ」

 

玄関に立っていたのは、懐かしい二人だった。

カイルとレリア。ファナが“おとーさん”“おかーさん”と呼ぶ、優しい義父母。

「うん、こっちも……元気、だよ」

 

笑顔を見せながらも、少しだけ照れくさそうに目を逸らすファナ。

テーブルにつくと、レリアが一通の手紙を取り出す。

「前に送ってくれたこの手紙……何度も読み返してたの。すごくファナらしいなって思って」

「わ……! そ、それは、見ないでええぇ……!」

ファナが顔を真っ赤にして身を乗り出す。

 

メルが横でくすっと笑って、そっとお茶を差し出した。

カイルはというと、家の中をちらちらと見渡していた。

「……なあ。あの猫、なんか神扱いされてないか?」

「う……うん、まあ……色々あって……」

ファナは苦笑いを浮かべながら供物台を指差した。

 

そこには新たに“祈願札”まで増えており、メッセージの一つには「膝乗りの御加護を……」と書かれていた。

「神の膝乗りって何……?」

ファナは頭を抱えた。

 

レリアは優しく微笑みながら、静かに彼女の肩に手を添える。

「信じてくれる人がいるって、素敵なこと。でも、無理はしないでね」

 

***

 

家族が帰ったあと、ファナは自室で一人、ベッドに座っていた。

「……私は、神様なんかじゃないよ」

ぽつりと呟いた声が、空気に溶ける。

 

──銀猫様信仰。

──そこから生まれた、白衣(びゃくえ)銀猫教。

──銀猫の使い。

──神の巫女。

 

ありがたいけど、怖い。

微笑みを向けられるたび、胸が苦しくなる。

「私……誰かに“すごい”って言われるようなこと、してないのに……」

 

信じてくれる人を、突き放したくない。

 

でも、応えられない自分が、情けなくて。

 

「みんなの“信仰”が、ファニャンに向いてくれたら、楽なのにな……」

心の奥に、そんな弱音がぽつりと滲む。

 

その時だった。

「ふにゃ」と短く鳴き、ファニャンが彼女の隣に座った。

じっと、見上げる。

「……慰めてくれるの?」

そう尋ねた瞬間、彼は音もなく姿を消した。

「え……?」

戸惑う間もなく──廊下の向こうから、ごそごそと音がして──

 

挿絵(By みてみん)

 

「────っっっ!?」

 

ファナの悲鳴が家を揺らした。

「ま、ま、またああああああ!? ネズミいいいいいっ!! しかも今日の大きいぃぃっ!!」

大きな山ネズミを咥えて戻ってきたファニャンは、うやうやしくその獲物をファナの足元に“ぽとり”と捧げた。

「いやあああああああああああああっっ!! ちがうちがう、それじゃないぃぃ!!」

逃げるファナ。追うファニャン。

ネズミをくわえて“プレゼント”しようとする姿勢に一切の悪気はない。

 

そして。

ネズミを置き去りにしたファニャンは、何事もなかったかのように供物台の干し魚を食べ始めた。

 

***

 

「……もう、あんたの方が神様っぽいよ」

 

夕方。

ようやく落ち着いた空気の中、ファナはぽつりと呟いた。

ファニャンは“にゃっ”と鳴いてファナの膝に飛び乗り、丸くなってゴロン。

手をそっと伸ばして、柔らかな毛を撫でる。

「でも……ありがと。ネズミはイヤだけど、でも、優しさは、ちゃんと伝わったよ」

ファナの声に応えるように、ファニャンが喉を鳴らす。

温もりが、心を満たしていく。

 

──今日もまた、“神のような猫”と共にある。

 

でも私は、神様なんかじゃない。

 

それでも、信じてくれる誰かの笑顔に、背を向けたくはないと思う。

 

小さく、でも確かに。

 

そんな想いを胸に抱きながら──ファナは目を閉じた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけましたら、感想や評価などで応援していただけると、とても励みになります。

これからもファナたちを見守っていただけたら嬉しいです。

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