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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第三部

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198/226

第六十五章『銀猫、帰還す──けれど噂は先に』※挿絵有り

挿絵(By みてみん)

数日をかけて、山の街から拠点の街へと戻ってきた。

 

変わらない城壁。変わらない街路。

──けれど、門をくぐった瞬間、ファナは寒気にも似た直感に身を強張らせた。

 

「……なんか……おかしくない?」

「ああ、お前の顔が描かれたタペストリーがかかっている時点で、まず異常だな」

 

広場に続く石畳の道、その両脇の露店では──

「銀猫様特製カチューシャ〜!猫耳付き、数量限定!」

「今だけ!祝・神の使いご帰還まんじゅう、無料配布中!」

 

ぬいぐるみコーナーに至っては、豪華装飾でファナを再現した“銀猫様フィギュア”まで売られていた。

「わ、わたし帰ってきただけなのにぃぃ……!!」

絶望の声を漏らしながら、ファナはフードを深くかぶった。

 

「……お前の方が先に帰ったつもりだったが、噂の方が早かったようだな」

メルは楽しそうに微笑みながらも、手に取った銀猫様まんじゅうを、そっとポケットに忍ばせていた。

 

──その時。

広場から、どよめきが上がった。

「御使いが!御使いが神の座にお戻りになられたぞ!!」

「おお、銀猫様……!!」

 

人々の視線の先――広場の中央には、白く塗られた木組みの像があった。

白い羽衣のような布をまとい、両手を差し伸べる銀髪の猫耳の少女。

どう見ても、ファナを模した急ごしらえの神像だった。

 

「な、なんでわたしの像があああああああ!!?」

 

しかもその像の頭の上で、ファニャン本人が得意げに座っていた。

片足を少し上げ、尻尾をくるんと巻いて、澄ました顔で広場を見渡している。

 

挿絵(By みてみん)

 

「にゃっ!」

 

可愛く一声鳴くと、拍手と歓声が巻き起こった。

「銀猫様の御使いが、神威を示されたぞ!!」

「ありがたや〜!」

 

ファナは叫んだ。

「もうムリぃぃぃ!!!!!」

その場でUターンして逃走を開始。

だが群衆はあっという間に押し寄せ、ファナは再び取り囲まれる。

「神の加護を!」

「祝福を!」

「神託を〜!」

 

「ち、ちゃんと上着を着てたのっ!羽衣じゃなかったのにぃぃ……!」

ファナは必死に抗弁するが、逆効果だった。

 

「やはり清らかなるお方……!」

「真の信仰を得た者は衣を超越するのだ……!」

「う、うわああああああああん!!」

 

メルが、そっとファナの耳元で囁いた。

「もはや何を言っても逆効果じゃないか?」

メルの冷静な指摘に、ファナは泣きながら頷いた。

 

──その瞬間だった。

白塗りの木像の上にいたファニャンが、もう一度鳴いた。

 

「にゃっ!」

 

次の瞬間、ぴょん、と跳ねた。

着地した小さな前足が、木像の頭部を踏み抜く。

 

ばきんっ。

 

広場に、乾いた音が響いた。

バランスを失った木像はぐらりと傾き、崇拝の対象が、がらがらと音を立てて倒れ込んだ。

人々は沈黙し、白く塗られた木片の上でくるりと尻尾を巻いて座るファニャンを見つめた。

 

「……御使いが……神像を……?」

「こ、これは……っ!」

「神を形にすることが、むしろ冒涜では……?」

 

誰かの呟きが、波紋のように広がっていく。

「像を刻むことが、信仰ではない……?」

「真の信仰とは、心にこそ宿すもの……!」

 

──そして、騒ぎは急速に収束した。

「……まさか、これを狙って?」

「……ファニャン、ありがとう……!」

ファナはそっと呟き、ぐしゃぐしゃになった顔を少しだけ上げた。

 

その場の神像騒動は、ファニャンの一手で強制的に終幕された。

 

以後、“銀猫様信仰”は、像を作らない一派を中心に妙な方向へ再構築されていくことになる。

──だがそれは、また別の話。

 

***

 

「ただいまぁぁぁ……」

 

ようやく帰宅したファナとメル。

 

広場の騒ぎのあと、いつの間にか姿を消していたファニャンは、どうやら先に戻っていたらしい。

門扉をくぐると、黒い影が勢いよく家の中へ飛び込んでいく。

 

そしてすぐ──

「バリバリバリバリィ!!!」

「ちょ、ちょっと!? 柱!? 柱ぁああああああ!!」

「……神の聖域化だな」

「どこがぁああああ!!」

 

だが柱を抱いて爪を研ぐファニャンは、どこか満足げだった。

 

***

 

その夜。

「……でも、帰ってきたって感じ、するね」

「ああ。ここからまた、新しい日常が始まるんだろうな」

 

メルの穏やかな声に、ファナは微笑んで頷く。

足元には、丸まって眠るファニャン。すぅすぅと規則正しい寝息が聞こえる。

ファナはそっと、その背を撫でて囁いた。

「……おかえり、ファニャン」

黒猫の尻尾が、ふにゃりと揺れた。


『雷来々抄・外典』より

「──神を刻まずとも、語り継がれる者がいた。

銀猫と金雷の傍らに、影のように寄り添う黒き者。

その爪が導くは、かの者の願いのままに──」

ファニャン、しれっと大活躍でした。

 

実はこれまでの挿絵の中にも、時々「ファニャンらしき黒猫」がこっそり紛れているものがあります。

ただの黒猫だったのか。

それとも、ずっとファナのそばにいたのか。

 

よければ、過去の挿絵も少し見返してみてください。

 

黒猫は、しれっといるタイプです。

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