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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第三部

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第十一章『可愛くなりたい理由』

挿絵(By みてみん)

宿屋の共用スペースの隅、火の落ちた暖炉の前。

 

ファナは椅子に腰かけ、目を伏せながら、ずっと小さく尻尾をそわそわ揺らしていた。

やがて、そっと声をしぼり出す。

 

「……レリアおかーさん。」

本を閉じていたレリアが、すぐに微笑みを向ける。

「なあに、ファナ。」

 

ファナはもじもじしながら視線を落としたまま、小さな声で続けた。

「……ちょっと、相談したいことがあって……。」

「もちろんよ。」

レリアは椅子を少し寄せて、優しくファナの膝に手を置いた。

「どうしたの?」

 

ファナは頬を赤くし、猫耳をぺたんと伏せて、震える声で言った。

「……もっと、可愛くなりたいの。」

「メルに……似合うって思ってもらいたくて。」

 

レリアは一瞬目を細め、それからふんわりと柔らかい声を返す。

「……そう。」

「ふふ、素直でまっすぐな子ね。」

(メルくんもきっと大切に思ってるもの……。)

 

そして優しく頷いた。

「じゃあ今日は二人でお出かけしましょう。」

ファナは驚いたように目を丸くして、それから小さく笑って頷いた。

「……うん。」

 

昼下がりの街は人通りも多く、石畳を歩く靴音が心地よく響いていた。

人間用の服屋を横目に、ファナはちらちらと覗き込みながら歩く。

 

「人間用のも素敵だけどね。」

レリアが穏やかに言った。

「尻尾のことを考えると加工が必要なの。」

「加工……?」

 

ファナが首をかしげる。

「後ろにスリットを入れるの。獣人用のお店なら最初から可愛いデザインで尻尾スリットがついてるわ。」

 

ファナは真っ赤になって尻尾をそっと抱え込むように触りながら、小さな声をしぼった。

「……そっちがいい。」

「メルに……可愛いって、思ってほしいから。」

レリアはその様子を優しく見つめて、目を細めて微笑んだ。

「ふふ、素直でいい子ね。」

 

獣人用の服屋に入ると、鈴のような音がして店員のお姉さんが笑顔で迎えた。

「いらっしゃいませ。可愛いお嬢さん、初めてかしら?」

 

ファナは真っ赤になって、小さく頷いた。

「……うん……。」

「尻尾の毛並みも綺麗ね。」

お姉さんは軽く覗き込むようにして、さらに続ける。

「こちらのスカートはスリットも調整できるし、トップスも色々あるわよ。」

 

ファナは目をきらきらさせながら、尻尾をそわそわ揺らす。

「……すごい……たくさんある……。」

「焦らなくていいの。」

レリアが隣でそっと背を押すように言った。

「ゆっくり選びましょう。」

ファナは真っ赤な顔で、でも確かに頷いた。

「……うん。」

 

試着室の中。

「尻尾をゆっくり通して……はい、上手。」

店員のお姉さんが慣れた手つきで支えてくれる。

 

鏡の中に映る自分を見て、ファナは耳を伏せたまま、尻尾を抱え込みそうにしながら真っ赤になる。

「……これ……メルに似合うって、思われるかな……。」

「え……これも可愛い……! えっと……二つとも、欲しい……。」

レリアはくすっと微笑んで、その頭をそっと撫でた。

「ふふ、素直に選びなさい。どれも似合うわ。」

ファナはさらに赤くなって、小さな声でこくりと頷いた。

「……う、うん……。」

店員のお姉さんも笑顔で見守っていた。

 

購入後、ファナは袋を大事そうに抱え込んだまま、しっぽを小さく揺らして歩く。

「……ありがとう、レリアおかーさん。」

 

レリアは立ち止まり、優しく頭を撫でた。

「ええ。メルくんもきっと喜んでくれるわ。」

ファナは目を細め、頬を染めたまま「……うん」と小さく答えた。

 

その頃。

別の路地の獣人用アクセサリー屋では、メルがむっつりとした顔で扉を開けていた。

「まあ、また来たの? 今日は彼女さんは一緒じゃないの?」

店員のおばさんがにやっと笑う。

 

メルはむっとしたまま、頬を赤くして目を逸らした。

「……いない。」

「はいはい。で、何をお探し?」

おばさんが耳飾りのコーナーを指しながら尋ねる。

メルは一瞬視線を落とし、それから真剣な顔で言った。

「……耳飾りを。」

「似合うのを。」

 

おばさんは目を細め、満足そうに頷いた。

「お任せ。彼女さんにぴったりのを探しましょうね。」

 

メルは赤い顔を伏せたまま、小さな声で息を吐いた。

(……ファナに、もっと可愛くいてほしいなんて……。)

(でも……あいつ、嬉しそうに尻尾飾りつけてたし。)

 

「……明日、渡そう。」

(俺が選んだって言ったら、また真っ赤になるんだろうな。)

おばさんは棚からいくつかの小箱を差し出し、にやにや笑いながら言った。

「はい、彼氏さん。気合い入れて選びなさいよ。」

 

メルは赤面したまま、でも真剣に手を伸ばした。

その目は、きっとファナだけを映していた。

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