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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第三部

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第十章『尻尾飾りと、恋人の手』

挿絵(By みてみん)

ギルドの朝。大きなテーブルの前で、ファナとメルが出発準備をしていると、

暁鋼の牙の面々がニヤニヤしながら寄ってきた。

 

「おいおい、完全にメロメロじゃねえか、ファナ。」

リクトが意地悪そうにからかう。

「ち、ちがっ……ちがうもん!」

ファナは真っ赤になって慌てて手を振る。

セナがメモ帳を閉じながら微笑む。

「でも、ちゃんと告白はしたんだろ?」

「なっ……そ、それは……っ!」

声が裏返ってさらに赤くなるファナ。

 

バルクが無表情で言葉を足す。

「……してないのか。」

その瞬間、メルの眉がピクリと動き、低くむっとした声を漏らす。

「……余計なことを言うな。」

「メルもなんか言ってよ!」

 

ファナが泣きそうな目で振り返るが、メルはそっぽを向いたまま。

「……行くぞ。」

そう言って一歩踏み出す。

「ちょっと待ってよ!」

ファナは慌ててメルの背中を追いかけた。

 

街へ出ると、賑やかな人通りと屋台の匂いが広がった。

焼き菓子の甘い香り、肉串の香ばしさ、色とりどりの花飾り。

二人は肩を並べて歩くが、どこか気まずそうで。

 

ファナは時々メルの横顔を盗み見ながら、小さくそわそわする。

「……なんか、緊張する。」

メルは少し息を吐き、視線を前に向けたまま返す。

「……落ち着け。」

「だって……尻尾飾り、買うって……すごく、恥ずかしい……。」

声がどんどん小さくなる。

「……恥ずかしがる必要ない。」

メルの声もわずかに低く、けれど優しかった。

「でも……メルに選んでもらうなんて……。」

 

頬を真っ赤にしてうつむくファナに、メルは少し目を伏せた。

「……似合うの、選ぶ。」

その言葉は短いけれど、不器用な優しさに満ちていた。

 

目的の店は、路地裏の小さな獣人用アクセサリー店だった。

木製の看板に描かれた猫耳のマーク。

中は落ち着いた灯りと、獣人向けの首輪や耳飾りや尻尾飾り、ブラシ、オイルが整然と並んでいる。

 

「いらっしゃい、初めてかしら?」

店主は優しそうな獣人のおばさん。しなやかな尻尾がゆらりと揺れる。

「……う、うん。」

ファナは耳を伏せて真っ赤な顔で答えた。

「何を探してるの?」

にっこり笑うおばさんに、ファナは視線を泳がせながら小さな声で。

「……し、尻尾の……かざり……。」

語尾が溶けるほど小声で真っ赤。

「そう、可愛い子ね。はいはい、こっちよ。」

店主は軽快に案内し、棚の前に二人を立たせた。

 

だが、飾りを見る前に店主がファナの尻尾をちらっと見てため息をつく。

「ところで、手入れはしてる?」

「……持ってない、そういうの。」

 

ファナは恥ずかしそうに視線を落とした。

「そうなのね。なら最初にこれも必要。」

小さなブラシを手渡す。

「尻尾は大事にしなきゃ。せっかく綺麗な毛並みなんだから。」

「……フィオナおねーさんに、といてもらった時、こういうの……。」

 

記憶を思い出しながら小さく呟く。

「……買っておけ。」

メルの低い声が真剣に響く。

「……うん。」

ファナはブラシを胸に抱え、頬を染めたまま頷いた。

 

店主が笑顔で色とりどりの飾りを並べた。

「尻尾の飾りもいろいろあるわよ。編み込むタイプ、輪っかのタイプ、ビーズや宝石飾りもあるし。」

ファナは尻尾を抱きしめるようにして、顔を真っ赤にする。

「……た、たくさん……。」

「どれでも試せるから選んでごらん?」

 

促す店主に、ファナは震えながら横目でメルを見る。

「……メルは……どれが、似合うと思う?」

声がかすれた。

メルは視線を落とし、一瞬唇を噛むようにしてから、飾りを真剣に見渡した。

 

そして小さく息を整え、指を伸ばす。

「……こっち。月の飾りのついた細い編み込みのやつ。」

店主がにっこりと目を細めた。

「お目が高いわね。それは獣人の毛並みを邪魔しなくて、つやを引き立てるデザインよ。」

 

ファナは尻尾をそっと差し出しながら目を潤ませた。

「……それ、にする。」

メルはわずかに口元をほころばせ、頷いた。

「……似合う。」

ファナは目尻に涙を滲ませながらも、嬉しそうに微笑む。

「……ありがとう。」

 

店主はさらに小瓶を手に取った。

「艶出しオイルもおすすめ。香りも選べるのよ。」

「……彼氏さんが塗ってあげてもいいのよ♡」

 

その声にファナの顔は真っ赤を通り越して真っ蒼になる。

「~~っ!!」

思わず声にならない悲鳴。

 

(……そ、そんなの……メルが……私に……?)

(だ、だめだよ……恥ずかしすぎる……!)

(でも、メルが……私の尻尾を……。)

さらに頬が赤くなる。

メルも一瞬目を見開き、すぐにそっぽを向いた。

赤面して低くむっと唸る。

 

(そんなこと……俺が……。)

(……ファナまで想像して赤くなってるし。)

(……からかうな。余計なことを。)

(……俺が塗る、だと……。)

顔を逸らしながらも頬が熱かった。

 

「あらあら、仲良しさんねぇ。」

店主の声が追い打ちをかける。

「~~~~っ!!!」

ファナは耳を伏せ、しっぽを抱きしめ、俯ききった。

メルは低く、小声で店主を睨むように。

「……黙ってろ。」

 

「香りはこれがおすすめ。」

店主が小瓶をいくつか差し出した。

「彼氏さんが選んであげなさい。」

 

メルは眉を寄せ、でも逃げずに真剣に瓶を選んだ。

指先が少し震えるのを、ファナは見ていた。

「……これだ。」

メルが差し出す。

ファナは小さく喉を鳴らし、目を潤ませて受け取った。

「……うん。」

声が震えていた。

 

店主は最後に、小箱の中身を見せてからそっとメルに渡す。

「それと、これもどうぞ。特別なお客さん用の品よ。」

 

ファナはオイルを抱えたまま夢中で香りを嗅ぎ、気づかない。

メルが店主に促されるように箱を受け取った。

「……ああ。」

小さく頷く。

「大事にしてあげてね。」

店主が目を細めた。

メルも一瞬視線を落として、真剣に頷いた。

 

「お幸せにね♡」

店主のにやにやした声を背に受けて。

 

「~~っ!」

ファナは頭を下げ、尻尾を抱えたまま逃げるように店を出た。

メルも顔を赤くしたまま、無言でその後を追った。

店を出た二人は、しばらく無言で歩いた。

人通りが少ない、夕日が差し込む石畳の路地。

ファナはオイルの瓶と飾りの袋を抱きしめるように持って、赤い顔を伏せていた。

 

尻尾は緊張でふるふる揺れる。

メルも横で、視線を正面に固定しながら頬を染めている。

喉仏が小さく動いた。

沈黙が少し苦しくなったころ、ファナが小さな声で切り出した。

 

「……メル。」

メルははっとして横を見る。

「ん。」

ファナは俯いたまま、声が震える。

「……つけてほしい。」

 

メルは息を飲んだ。

目を見開いたあと、真剣な目をしてファナを見つめる。

「……いいのか。」

ファナはゆっくり頷いた。

頬が真っ赤で、でも瞳は揺らぎながらもしっかりしていた。

「……お願い。」

 

メルは小さく深呼吸し、顔を赤くしながらもファナの後ろに回った。

尻尾をそっと持ち上げると、ファナが小さく息を呑む。

「……じっとしてろ。」

 

メルは震える指先で、買ったばかりの月の飾りを編み込むように装着した。

尻尾の毛並みを優しく整えながら。

 

挿絵(By みてみん)

 

ファナはぴくっと震えた。

「……ふぁ……。」

メルは仕上げを確認しながら、低く絞り出すように呟いた。

「……似合ってる。」

 

ファナは顔を真っ赤にしながらも、ゆっくり振り返って微笑んだ。

目尻に涙を溜め、けれど確かな笑顔。

「……ありがとう。」

 

少しの沈黙。

そしてメルは、小さく息を吐くようにしてから、真剣な目でファナを見た。

喉が鳴った。

「……ファナ。」

ファナも真剣な目で見返す。

尻尾の飾りが月光を受けて、かすかに光った。

メルの声は震えていたけど、はっきりしていた。

 

「好きだ。」

ファナは目を見開き、呼吸を止めた。

目尻が潤む。

メルの声が続く。

「……俺の彼女になってほしい。」

 

ファナの瞳から涙がこぼれた。

でも泣き顔のまま、笑った。

「……あ……うん……。」

声がかすれて、それでも必死に言葉を繋ぐ。

「私も……好き。」

「……メルの、彼女になる。」

 

メルも目尻を赤くしながら、小さく笑った。

「……ああ。」

 

メルがそっとポケットから、小箱を取り出した。

ファナが瞬きをして見つめる。

「……もう一つ、これ。」

「……それ、何?」

メルは少し目を逸らしながら、赤い耳を伏せるようにして。

「……首輪だ。」

 

ファナは一瞬目を見開き、それから顔を赤くして目を伏せた。

声が震えた。


「……それ、知ってる……? 番の証、だよ……」


メルははっとして目を見開いた。

手の中の小箱を見下ろし、ほんのわずかに息を呑む。


「……そうなのか。」


思ってもみなかった、という顔だった。

ただ似合いそうだと思って選んだ。

でも、今さら手放す気にはなれなかった。


「……別に、その……」

「お前に似合うと思っただけだ。」

「……かわいいだろ、これ。」

 

ファナは真っ赤になって目を潤ませながらも、少し震えた声で笑った。

「……ありがとう。」

「でも……今は、つけられない。」

メルが息を呑む。

「……いつか、ちゃんとつけてくれる?」

メルはゆっくり、真剣に頷いた。

「……ああ。大事に持ってる。」

 

ファナがそっと、差し出した手を握りしめる。

メルもそれを見て、ゆっくりとその手を取った。

恋人繋ぎ。

ファナの声が震えながらもあたたかい。

「……あったかい。」

メルも小さく笑った。

「……俺の彼女だからな。」

ファナも小さく、でもはっきり頷いた。

「……うん。」

 

二人は手を繋いだまま、ゆっくりと夕暮れの街を歩く。

石畳に長く伸びた影が、重なるように寄り添っていた。

ファナの胸の中に、あたたかさが溢れていく。

(前よりもずっと、あったかい。

これが……恋人の手なんだ。

恥ずかしくて、でも幸せで、胸がぎゅっとなる。

メルと一緒に歩いていけるように、私もちゃんと頑張るんだ。)

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