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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第三部

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第九章『抱えるもの、伝えるもの』

挿絵(By みてみん)

「お願いします。」

ファナとメルが声を揃えて言った。

 

ギルドの訓練場の端で、水を飲むフィオナとマイゼルを見つめる。

フィオナは意外そうに目を瞬き、それから口元を上げて笑った。

「お前ら、素直だな。」

マイゼルも軽く顎を引いて優雅に微笑む。

「成長する気があるなら、喜んで教えるわ。」

 

軽い訓練が始まった。

 

フィオナが腰に手を当て、鋭い目でファナを見つめる。

「敵の目を読む。それを意識しろ。」

ファナは姿勢を正し、真剣な声で返す。

「はい。」

マイゼルは杖を軽く振り、メルを見据える。

「最適解を選ぶのは技術。精度を上げなさい。」

メルは一度目を伏せ、深呼吸して頷いた。

「……分かった。」

 

フィオナが手を叩き、声を上げる。

「よし、今日はこのくらいで休憩だな。」

 

水筒を手に取って水を飲む。

火照った体を冷ますように、静かな時間が流れる。

そんな中、フィオナがじっとファナを見た。

「おい、子猫。」

ファナは首を傾げる。

「……何?」

フィオナは真剣な目で言葉を選ぶようにしてから口を開いた。

「時々変な目をするな。」

「……寂しそうな目だ。なんだ、それは。」

 

ファナはびくりと肩を揺らし、目を伏せる。

手の中の水筒をぎゅっと握りしめる。

「……何のこと、って言っても……分かるんだね。」

 

一度深呼吸して、小さな声を震わせた。

「……えっと……ラゼンの森、っていうところ。」

「……全部、なくなっちゃった場所、なの。」

 

フィオナがわずかに目を細める。

「ラゼンの森、か。」

「帝国に焼かれて住人は皆殺しになったって聞いた。」

 

ファナは唇を噛んだ。

「……うん。」

「全部、なくなった。でも……忘れたくない。」

「忘れたくないのに、思い出すのが怖い。」

 

しばらくの間、声が詰まった。

メルは何も言えず、ただ見つめていた。

 

ファナはしぼり出すように続ける。

「……でも、一人だけ……弟がいるの。」

「逃げる時に、知り合いの部族に託した。」

「それから、どうなったのか……わからない。」

 

メルが目を見開いた。

「……弟、いたんだ……。」

「それ……初めて聞いた。」

 

ファナは小さく首を振った。

「……言えなかった。」

「怖くて、言えなかったんだ。」

メルはそっと、でもしっかりとファナの肩に手を置いた。

「……いいよ。」

「今、話してくれてありがとう。」

ファナの目が潤み、ぽろりと涙が落ちた。

 

フィオナは腕を組み、難しい顔をしていたが、やがてため息をついた。

「……いいさ。」

「忘れたくないなら、覚えてろ。」

「でも、それで潰れるな。」

 

声が少しだけ柔らかくなる。

「抱えて生きろ。」

「泣きたい時は泣け。受け止めてくれる奴は、いるだろ。」

「生きろよ、子猫。」

 

ファナは鼻をすする音を立て、袖で涙を拭った。

「……うん。」

メルが肩を抱き寄せるようにして寄り添った。

ファナはその肩に軽く額を当て、落ち着こうと深呼吸をした。

 

しばしの静寂のあと、フィオナが水筒を口に運びつつ目を細める。

「……そういや。」

「この前の懇親会の時さ。」

「お前、“おとーさん”“おかーさん”って呼んでたな。」

 

ファナは驚いて、でも少し照れたように視線を落とした。

「……うん。」

「ラゼンの森から逃げた後、助けてくれたの。」

「“おとーさん、おかーさん”になってくれるって言ってくれて、嬉しかった。」

「前から一緒にいたけど、そうやって呼んでいいって言ってくれて……。」

 

フィオナはそれを聞いてふっと目を細める。

「……そっか。」

「血が繋がってなくても、家族ってやつだな。」

 

ファナは涙ぐみながら、でも今度はちゃんと笑った。

「……うん。」

メルも少し目を伏せ、真面目な声で言った。

「いい家族だな。」

 

空気が少しだけ落ち着いたところで、フィオナがいたずらっぽく口角を上げる。

「お前ももう家族みたいなもんだろ。」

「……彼氏さん、なんだし。」

 

ファナは反射的に顔を真っ赤にして、目を大きく見開いた。

「か、か、か、彼氏じゃない……っ!」

 

フィオナが更ににやっと笑う。

「そーかー、彼氏じゃないのか。」

「……じゃあ私が誘惑してもいいんだな?」

ファナは耳まで真っ赤にして叫んだ。

「な、なんでそうなるの!?///」

 

マイゼルが涼しい声で口を挟む。

「フィオナ、からかいすぎよ。」

フィオナは肩をすくめ、けらけら笑った。

「へへ、冗談だって。」

「でも、そうやって大事にしろよ。」

 

メルは少し赤くなりながらも真面目に頷いた。

「……もちろん。」

ファナは泣き笑いのまま、少し強く頷いた。

「……うん。」

 

ギルドの石壁に反響する笑い声が、小さく、でも確かにあたたかく響いた。

冷たい夜気を忘れるように、火灯りが優しくゆらめいていた。

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