第八章『家族のように』
ギルドの掲示板の前に、人だかりができていた。
紙に大きく書かれた文字が目を引く。
「交流会開催のお知らせ」
Velvet Radianceの帰還祝い。
新人たちの試験・模擬戦お疲れ様会。
そして、先輩後輩の交流を深めるための催し。
リクトが腕を組んで、少し渋い顔で言った。
「……行くのか。」
セナが冷静に答える。
「行った方がいい。顔をつないでおくべきだ。」
メルは肩をすくめ、いたずらっぽく笑った。
「俺はもちろん行く。彼女たちと話しておきたいしな。」
ラゼルは深く息を吐いて、視線を前に向ける。
「……仕事だと思え。交流も大事な仕事だ。」
ファナは少しだけ頬を染めて、小さく、でもはっきり頷いた。
「……うん。行きたい。」
ギルドの広間は、普段より少しだけ柔らかい空気に包まれていた。
テーブルには料理や果汁酒が並び、普段は無骨な彼女たちも、今日は少しラフな格好。
ギルドマスターがカウンターから声を上げた。
「お疲れ様だ。今日は気楽に交流してくれ!」
笑い声が漏れ始め、少しずつ場が温まっていく。
扉が開く音がして、みんなの視線が向く。
「よう、遅くなった。」
カイルがぶっきらぼうに言いながらも、どこか照れたような目。
レリアは落ち着いた声で微笑む。
「お呼ばれしちゃったからね。」
ファナの瞳がぱっと輝き、笑顔がこぼれた。
「おとーさん! おかーさん!」
カイルが一瞬肩を落とし、頭をかく。
「……外ではその呼び方は……」
でも最後は照れたように、ファナの頭をぽんと撫でた。
レリアが優しく笑う。
「いいのよ、ファナらしくて。」
ファナは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑った。
「えへへ……。」
少し離れたところから、その様子を眺める先輩パーティーの面々。
フィオナは腕を組んで、小さく息を吐いた。
「……血がつながってなくても、ああやって家族になるんだな。」
セニアも視線を外さずに頷いた。
「……そうだな。」
リシアは口角を上げて笑う。
「悪くないな。」
マイゼルも優雅に微笑む。
「素敵なことね。」
セリナはそっと声を添えるように。
「支え合うって、そういうことよ。」
アリシアは言葉を発さず、ただ静かに頷いた。
バルクは無言のまま周囲を見渡し、フィオナとファナのやり取りに小さく耳を動かした。
カイルがセニアに近づき、目礼する。
「世話かけるな。」
セニアは揺るぎない声で応えた。
「後輩を導くのは、私たちの役目です。」
「まだまだ未熟だ。頼む。」
カイルが真剣に言うと、セニアも少しだけ柔らかい声になる。
「承知しています。目は離しません。」
レリアがその横で微笑んだ。
「見守るって、素敵なことね。」
交流会は和やかに進んだ。
テーブルの上には料理が並ぶ。
薄い果汁酒や果実水、そして大人向けの強い酒も次々運ばれ、ファナは目を輝かせながらかぶりつく。
「おいしい!」
リクトが呆れた顔をしつつも、少し笑って言う。
「食いすぎだ。」
セナは穏やかにフォローした。
「いいことだよ。」
メルが目を細め、少しからかうように。
「その顔、嬉しそうだな。」
フィオナが目を細めて呼びかける。
「おい子猫、尻尾の毛並み乱れてるぞ。次会うときは整えて来い。」
ファナは思わず顔を赤くして、小さな声で答える。
「……はい、フィオナおねーさん。」
フィオナがその言葉に顔を赤くし、口を尖らせる。
「……ま、いいけどさ。」
マイゼルがそれを見てくすくす笑った。
「ふふっ、本当の姉妹みたいね。」
ファナは慌てて首を振る。
「えっ、そ、そんな……!」
フィオナが照れ隠しのように睨む。
「やめろマイゼル、照れるだろ。」
メルが落ち着いた声で続けた。
「でも、いいじゃないか。」
セナも静かに頷く。
「素敵だと思うよ。」
ふとしたハプニングもあった。
ファナが間違えて大人用の酒を一口飲んでしまった。
「……ん、ちょっと苦い……?」
メルが慌てて声を上げる。
「ファナ、それ酒だ!」
ファナの頬が一気に赤く染まり、目がとろんとしてくる。
「あつい……なんか……へへ……」
そして、フィオナを見つめて甘えるように笑った。
「へへ……フィオナおねーさん……だいすき……あったかい……」
フィオナが顔を真っ赤にして声を上げる。
「お、おいバカ子猫、そういうのはシラフで言え!」
でも頭をぐしゃっと撫でて、ふっと笑う。
「……ったく、しょうがねぇな。」
セリナがそんな二人を見て、優しく微笑む。
「本当、姉妹みたいね……いいものだわ。」
フィオナはさらに赤面し、視線を逸らして小さく呟いた。
「……やめろ、照れるだろ。」
みんながそんな様子を見て笑い合う。
メルが笑みを深めて。
「でも、いいな。」
セナも穏やかに。
「素敵だよ。」
リクトはぶつぶつ言いながらも、口元を緩める。
「……なんだよそれ。」
カイルが低く笑い、渋い声で。
「子供か……まあ、子供だな。」
レリアは柔らかい声でまとめた。
「ふふ、いいじゃない。」
バルクはそんな場面を少し離れたところから見守り、誰にも気づかれないほど小さく頷いた。
交流会もひと段落し、カイルが腰を上げた。
「そろそろ俺たちは帰るか。」
レリアがみんなに向けて手を振る。
「みんな、またね。」
ファナが少し寂しそうに、それでも笑顔を見せて。
「うん……おとーさん、おかーさん、またね。」
カイルが大きな手でファナの頭をぽんと叩く。
「しっかり食って、しっかり生きろ。」
レリアがそっと言葉を添える。
「風邪ひかないようにね。」
フィオナも真剣な表情で頭を下げた。
「お気をつけて。」
カイルとレリアがギルドの扉を開け、外へ出ていった。
ファナはその背を目で追いながら、小さく息を吐いた。
人が減ったギルド内で、メルがそっとファナの横に寄り添う。
「……俺たちも帰ろうか。」
ファナは少しだけ頬を赤らめ、眠そうな声で。
「うん……メル、一緒に帰ろ……。」
あたたかい声に背を押されながら、二人はギルドを後にした。
ギルドは戦う者たちの家。
そして今日、少しだけ“家族のように”なった。




