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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第三部

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第五章『信頼を繋ぐ』

挿絵(By みてみん)

昼下がりのギルドの訓練場は、いつもより静かだった。

冒険者たちの話し声が消え、みんなが訓練場の中央を注視していた。

誰も笑わない。

空気は張り詰めていて、呼吸すら控えめになる。

 

ファナたち6人は、少しだけ肩を寄せ合うようにして立っていた。

視線の先には、Velvet(ヴェルヴェット) Radiance(レイディアンス)の6人が無言で並んでいる。

ファナは尻尾が重く垂れるのを感じた。

心臓が早鐘を打つ。

でも、目を逸らさなかった。

 

彼女たちは口を開かず、ただこちらを見ていた。

鋭い目。

でも、どこかで何かを測っているような目だった。

その沈黙を切ったのは、セニアだった。

 

深紅の長い髪を後ろでまとめたセニアが、一歩前に出た。

琥珀と金が混じる瞳が、全員を射抜くように見渡す。

そして、低く、でも明瞭に告げた。

「今日からお前たちに教える。」

「Fランクのままじゃ死ぬ。生き残りたきゃ学べ。」

その言葉に、ファナは喉がきゅっと締まった。

視線を落としそうになるのを必死にこらえた。

 

 

訓練場の隅。

砂埃の匂いが鼻をつく。

ラゼルは剣を握りしめ、真正面に立つセニアを見つめていた。

額に汗が滲む。

唇を固く結ぶ。

セニアは構えも取らずに、腕を組んでいた。

だが、その視線は逃げなかった。

 

「全部背負おうとするな。」

「お前は全部自分が見るって思ってるだろ。」

ラゼルの目が揺れた。

拳がわずかに震える。

「……仲間に何かあったら、俺のせいだ。」

「リーダーなんだから……」

 

セニアは首を横に振った。

表情は冷たい。

でも声は少しだけ柔らかかった。

「怖いなら、なおさら決めろ。」

「お前が前線の目になるんだ。」

「任せるところは任せろ。自分が見て、指示して、最後に責任を取る。」

「それがリーダーだ。」

ラゼルは黙った。

でも目は伏せなかった。

「逃げるな。怖いと思ったならなおさら考えろ。」

「お前の指示一つで仲間が生きる。」

「それを忘れるな。」

ラゼルの喉が動く。

短く、でも確かに頷いた。

「……分かった。」

 

 

ギルドの壁際、日が傾きかけた窓から柔らかい光が射す。

セナは地図を抱え、真剣に俯いていた。

眉が寄り、口元が固い。

セリナはその前に座り込み、同じ目線に合わせた。

長い銀髪が揺れる。

落ち着いた黒の瞳が、ただセナを見つめる。

 

「支援は回復するだけじゃありません。」

「崩れる場所を読む目、崩れる前に支える口になりなさい。」

セナの指がわずかに震える。

地図を握る手が白くなる。

「……分かってるつもりでした。」

「でも、仲間が勝手に飛び込んで、どう支えろって……」

 

セリナは微笑んだ。

だがその瞳は鋭かった。

「支えたいなら、理解しなさい。」

「仲間を知ること。」

「その人の動き、その考え方。」

「そして崩れそうな時に、崩れる前に声をかけること。」

 

「……そんなこと、俺にできるんですか。」

 

「できます。」

「あなたは考える人でしょう。」

「分からなくなったらいつでも来なさい。」

「時間が許す限り教えてあげます。」

「あなたが学ぶ気があるならね。」

 

セナは息を吐いた。

そして、ゆっくり頷いた。

「……お願いします。」

 

 

訓練場の中央で、剣を握りしめるリクト。

頬が赤い。

悔しさと、苛立ちと、負けん気。

向かい合うリシアは長剣を肩に担ぎ、軽く笑っていた。

黒髪をポニーテールに束ね、灰色の瞳が鋭く光る。

 

「勢いだけで勝てるなら誰も苦労しねえ。」

「戦場は生き物だ。その時その時で形を変える。」

リクトは歯を食いしばった。

「……分かってるよ!」

「でも止まったら、怖いだろ!」

 

リシアは歩み寄り、リクトの肩をぐっと掴んだ。

「先頭を切るお前はな、敵をぶっ倒すだけじゃない。」

「時には一番厄介な敵を潰し、時には数を減らして流れをこっちに傾ける。」

「“動ける先頭”が崩れたら、全員崩れる。」

 

リクトの目が揺れる。

手が震える。

リシアは少し声を落とした。

「怖いなら、なおさら動け。」

「お前が止まったら全員が止まる。」

 

「……分かったよ。」

「絶対、止まらねえ。」

リシアは笑った。

その笑みは少しだけ、誇らしげだった。

 

 

訓練場の端。

壁に射す夕陽の色が濃くなる。

ファナは震える手で短剣を握っていた。

目を伏せそうになるのを必死でこらえる。

フィオナはその前で腕を組み、猫耳をぴくりと動かした。

深い青の髪が影を落とす。

エメラルドの瞳が鋭かった。

 

「あんた、6人の中じゃ一番弱いよ。」

「力もない、スピードもない。魔法も遠隔攻撃もない。」

「私みたいに気配を消すこともできない。それが、今のあんた。」

ファナは泣きそうになった。

でも唇を噛んだ。

涙がにじむ。

「……分かってる。」

 

フィオナは息を吐いた。

腕を組み直し、視線を刺すように向けた。

「じゃあどうする?」

「それを認めた上で、どうやって生き残る?」

「どうやって仲間を助けるの?」

 

ファナは目を閉じ、涙を一筋だけ落とした。

でもすぐに拭った。

顔を上げた。

「……教えてください。」

 

フィオナは猫耳を伏せ、少しだけ目を細めた。

そして、笑った。

それは厳しくも優しい笑みだった。

「……いい目してるじゃん。」

「泣いても諦めてない目だ。」

「よし、じゃあ最初に教えるのはこれだ。」

「敵の視線を読む。誰が、いつ、どんな殺意で狙ってくるか感じ取れ。」

「それが分かれば一歩でも逃げられる。」

「それができたら、次は速く動くコツを叩き込む。」

「途中で投げ出したら首根っこ掴んででも続けさせるからな。」

ファナは涙を拭い、小さく笑った。

「……はい。」

 

 

ギルドの隅、薄暗い場所で向かい合う二人。

バルクは砂色の髪をわずかに乱し、鋭い瞳を伏せるようにしていた。

狐族特有の長い耳がぴくりと動く。

アリシアは背筋を伸ばし、クロークを揺らしながらバルクを見下ろす。

瞳は鋭く、でも冷静だった。

 

「お前、動きはいい。でもそれだけじゃ不十分だ。」

バルクは無言のまま目を上げた。

瞳がわずかに光を反射する。

「戦いながらでも周りを見ろ。」

「味方が崩れる前に埋めろ。」

バルクの手が腰のダガーに触れた。

だが握り込むことはしなかった。

 

アリシアはさらに間を詰めて言う。

「ナイフは得意だな。」

「遠隔は?」

バルクが短く答えた。

「……持ってない。」

 

アリシアは顎を引いて鋭い声を返した。

「投げナイフでもいい。間を埋める手を持て。」

「距離を選べない斥候はただの肉壁だ。」

バルクはわずかに目を伏せた。

爪が軽くカリカリと鞘を引っ掻いた。

 

「フォローするなら、分かる形で動け。」

「無言で飛び込んだら、敵じゃなくて味方が邪魔をする。」

「見せろ。読ませろ。活かせ。」

「それが自由行動枠の仕事だ。」

バルクは息を吐いた。

瞳が揺れて、でも鋭く戻る。

「……分かった。」

 

 

訓練場中央の端。

日が落ち、ランタンの光が揺れる。

メルは杖を支えたまま俯いていた。

髪が影を作り、表情は見えない。

マイゼルは微笑みながらも厳しく見下ろした。

金銀グラデーションの長髪がきらりと揺れる。

宝石のティアラが微光を放つ。

 

「無理だよ。」

「……あんたみたいに次から次なんか撃てない。」

「手数が最初から違う。」

 

マイゼルは肩をすくめて優雅に笑った。

けれど瞳は鋭い。

「それは違うわよ。」

メルが顔を上げた。

 

アメジストの瞳がこちらを貫いた。

「私が即詠唱できるのは宝石にストックしてるから。」

「でも一度使ったら再使用には時間がかかるし、魔力も無限じゃない。」

「魔法は数を撃つものじゃない。選ぶものよ。」

メルは言葉を失った。

杖を握る指がわずかに震えた。

 

「あなたは頭が回る。」

「なら自分の魔法を選べるはず。」

「何をいつ使うか、どれを切り札にするか。」

「それを決められる魔術師になりなさい。」

 

メルの瞳がわずかに潤む。

でも涙は落ちなかった。

「……分かった。」

 

 

空気が落ち着いた頃、セニアがゆっくりと声を上げた。

みんなを中央に集める。

ファナたちは、先ほどまでの指導で顔が赤く、息も荒かった。

でも誰も下を向かず、目を合わせた。

 

セニアは一歩前に出て、全員を見渡した。

その目は鋭く、でもどこかで優しかった。

「分かったか。」

「お前たちは未熟だ。」

「だが、それを認めたからこそ変われる。」

一瞬の静寂。

みんなが飲み込むようにその言葉を受け止めた。

 

彼女たちがそれぞれ一言ずつ言葉を落とす。

 

リシア

「泣き言はここで済ませろ。」

「明日からは通用しねえ。」

 

フィオナ

「でもまあ、悪くないんじゃない?」

「素直に痛がれる奴は伸びるから。」

 

マイゼル

「少しは頭を使えるようになりなさい。」

「それが生き残る鍵よ。」

 

セリナ

「支えるとは、共に戦うことです。」

「その覚悟を忘れないで。」

 

アリシア

「……甘えは死を招く。」

「次は死なないために学べ。」

 

ファナたちは、息を飲み込むようにして頷いた。

その目は赤く、でも決して濁ってはいなかった。

 

 

沈黙の後。

セニアが鋭い声で告げた。

「次は全員でだ。」

「今度は私たちが相手をする。」

「お前たちの学びが本物か、見せてもらう。」

その言葉にファナたちは息を呑む。

緊張で喉が乾く。

でも誰も下を向かなかった。

 

互いに視線を合わせる。

リクトもメルも、バルクもセナも、ラゼルも。

そしてファナも。

全員が、揃って頷いた。

「……はい!」

 

先輩たちは無言で頷き、少しだけ口角を上げた。

荷物をまとめ、武器を背負う。

「明日からが本番だ」とでも言うように、無言のまま視線を交わす。

ファナは呼吸を整えた。

胸の奥が熱くて、苦しくて、それでも前を向いた。

(怖い。まだ怖い。)

(でも、やるって決めた。)

(逃げないって決めた。)

(絶対に、変わる。)

 

訓練場の空気は、夜の風で冷たかった。

でもファナたちの心は、確かに熱を帯びていた。

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