表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/143

第三章『分担と分断』

挿絵(By みてみん)

ギルドの大部屋には、昼過ぎの柔らかな光が差し込んでいた。

けれど、その空気はどこか重苦しかった。

 

ファナたち6人は、いつもの机を囲んでいた。

ここ数日、毎日こうして集まっては作戦を考えている。

だが今日も――話は噛み合わなかった。

 

セナが広げた地図を指で押さえ、低い声で提案する。

「こことここの経路を抑えつつ、二手に分かれる形が現実的だ。」

すかさずメルが顔をしかめる。

「分けたら狙われるだろ?」

「分断されるってわかってるのに、何でそんなバカなこと――」

リクトは苛立ちを隠せず、机を軽く叩いた。

「うるせえな! じゃあどうすりゃいいんだよ!」

 

ラゼルが口を開く。

「待て、落ち着け。どっちの言い分も――」

だがメルとリクトは互いににらみ合ったままだった。

 

バルクは視線を落とし、無言で地図を睨んでいた。

その指先がわずかに震えているのを、ファナは見逃さなかった。

 

そして自分も、言葉が出なかった。

「まとめなきゃ」「何か言わなきゃ」と頭で繰り返すのに、喉が詰まる。

誰も彼も、張り詰めている。

(どうして……)

(考えなきゃって決めたのに……)

(みんながこんなに……)

(どうすればいいの……)

ファナは唇を噛みしめた。

 

その空気を切るように、別の声がした。

「……行き詰ってるみたいだね。」

柔らかい声だったが、棘もあった。

みんなが一斉に振り返ると、カウンターで飲み物を受け取ったフィオナが近づいてきた。

深い青の長い髪が艶を帯びて揺れる。

エメラルドグリーンの瞳が6人を見渡す。

猫耳がピクリと動き、いたずらっぽく片口角を上げた。

 

「そんな顔してるよ。」

メルが苛立ちを隠さず吐き捨てた。

「関係ねえだろ。」

 

フィオナは肩をすくめて、笑みを浮かべた。

「まあね。でも先輩としてつい見ちゃうんだよ。」

「“全員同じ動き”しようとしてない?」

「分断が怖いからって一緒に動こうとするのは、逆にバラバラだよ。」

 

「分担って、役割を分けるって意味だからさ。」

そう言って、手にしたカップを軽く振った。

「じゃ、頑張ってね。」

そしてくるりと背を向け、軽い足取りで去っていった。

 

残された6人は黙り込んだ。

空気が一瞬止まったようだった。

でも、誰も目を逸らせなかった。

その言葉が、深く刺さっていた。

 

 

 

夜。

再び、同じ机を囲む。

今日も帰ることなく、話し合おうとしていた。

けれど空気は変わっていなかった。

 

ラゼルが低い声で切り出す。

「……前衛を決めよう。」

セナがすぐに続ける。

「支援をどう分けるかを整理する。」

 

だがメルが顔をしかめる。

「お前ら、そんなに分けたがるけど、分断されたら意味ねえだろ!」

リクトも声を荒げた。

「だったらどうすりゃいいんだよ!」

二人の声がぶつかる。

 

地図が揺れる。

バルクは目を伏せたまま無言だった。

拳が小さく震えていた。

ファナは口を開こうとした。

でも声が震え、言葉が出ない。

(分担って……)

(分けるって……)

(なのに……どうしてこんなに……)

(みんながバラバラになるの……)

喉が詰まった。

声を詰まらせたまま、目を伏せた。

沈黙が落ちた。

冷たい空気が、ギルドの片隅を満たした。

 

そんな時だった。

ゆっくりとした足音が近づいてくる。

ファナが顔を上げた。

セニア、フィオナ、マイゼル。

彼女たちがテーブルへ歩いてきた。

 

セニアは静かに、しかし冷たくない目で全員を見渡した。

大きな手をテーブルに置き、声を落ち着かせて響かせた。

「考えるのはいい。」

 

「だが、同じ場所で同じ顔を突き合わせるだけじゃ、同じ答えしか出ない。」

「行き詰まったら、他人の知恵を借りろ。」

「それを恥じるな。必要なことだ。」

 

その声は低いけれど、逃げ場を与えた。

ファナは息を呑み、目を見開いたままセニアを見つめた。

セニアは視線を外さずに続ける。

「今日はそれを教えに来た。」

「“分担”ってやつを、見せてやる。」

 

フィオナが口角を上げ、茶化すように笑った。

深い青の髪が肩先で波打つ。

猫耳がピクリと動いた。

「言葉で分からないなら、戦い方で覚えてもらおうか。」

 

マイゼルは宝石を弄びながら優雅に視線を流す。

金銀グラデーションの長い髪がランタンの光を反射してきらめく。

アメジストの瞳が、微笑むように細められる。

「授業料は高くつくわよ。」

「ちゃんと見て学びなさい。」

 

そして、フィオナが少し視線を落とした。

でもすぐにいつもの軽い笑みを浮かべた。

エメラルドの瞳が真っ直ぐに、でも柔らかく光る。

「ほんとはさあ……行き詰まったら、自分から“教えて”って言ってきてほしかったんだけどね。」

「……ま、そういう素直じゃないとこも可愛い後輩ってことで。」

 

挿絵(By みてみん)

 

ファナたちは、悔しそうに、でも黙ってその言葉を受け止めた。

目を伏せ、でもまた顔を上げる。

その目には弱さも未熟さも滲む。

でも、確かに決意が宿っていた。

(分担……分断……)

(私たちも……できるようにならなきゃ。)

(絶対に。)

 

彼女たちはギルドの空きスペースを指し示す。

机を片付ける音が響き、立ち位置を決める声が交錯する。

準備が、始まる。

セニアが振り返り、低い声で告げた。

「よく見て、学べ。」

「これが“分担”だ。」

 

ファナたちは真剣な目で頷き、その光景を見逃すまいと前を見据えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ