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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

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第五十九章:分かってるだろ

挿絵(By みてみん)

朝霧がまだ地面を薄く覆っていた。

冷たい空気が張り詰め、乾いた砂を踏む音と、鋭く風を裂く剣の音が響く。

 

リクトはひたすら剣を振っていた。

呼吸は荒く、額を伝った汗が顎から落ちる。

それでも止めなかった。

止めたら負けだと、どこかで思っていた。

 

木陰から歩いてくる影があった。

セナが冷めたカップを手に、軽口を交えるように言った。

 

「おはよう。……今日は随分、荒れてるね。」

 

リクトは振り返らなかった。

肩越しに吐き捨てる。

 

「うるせぇ。」

 

セナは肩をすくめ、だが目線は鋭くなる。

少し間を置き、声を落とした。

 

「昨日さ、メルは自分の部屋に帰ってないみたいだよ。」

「……もうファナのところに居るんだね。」

 

リクトの肩がピクリと動く。

ギラッと睨むが、すぐに目を逸らし、また剣を振った。

 

「……うるせぇって言ってんだろ。」

 

(分かってる。分かってるけど……クソが。)

(もう、あいつの隣は埋まってるんだよ。)

 

セナは一歩進み、木漏れ日の中でリクトを見つめた。

その声は今度は静かで真剣だった。

 

「……そんなに荒れるくらいなら、どうして早く動かなかったのさ。」

 

リクトの動きが僅かに止まった。

セナはあえて間を置き、わざと自嘲気味に笑う。

 

「……まあ、僕もだけどね。」

 

リクトの手が止まり、剣を握る指に力が入った。

荒い息を吐く。

 

「……チッ。」

 

(本当は分かってるんだろ、お前も。)

(俺も、同じだ。)

 

セナは鋭く視線を向け、核心を突くように低く告げた。

 

「……ファナが、あいつを選んだ理由。」

「君は、気づいてるんじゃないの?」

 

リクトの目がギラリと光った。

だが声は震え、低く搾り出すように。

 

「……知らねぇよ。」

 

セナは目を細め、真顔で告げる。

言葉は重く、鋭く、優しさを帯びながら胸を刺す。

 

「あいつ、最初はいつも芝居がかったことばかり言ってた。」

「軽口で近づいて、それが通じないと分かると……」

「あいつは、自分のやり方を捨ててまで本音で迫った。」

「それが……どんなに勇気がいるか、分かるだろ。」

 

リクトは唇を噛み、剣の切っ先を砂に突き立てた。

声が掠れる。

 

「……チッ……ムカつくんだよ。」

「分かってるからムカつくんだ。」

「なんで……あいつだけ……。」

 

セナも目を伏せ、深く息を吐いた。

その声は、苦味を伴いながらも真剣だった。

 

「……メルは、いままでの自分を捨ててでも彼女を求めた。」

「僕たちは……自分を変えることができなかった。」

「この差は……大きいよ。」

 

(クソ……分かってんだよ、そんなこと。)

(俺は……何も変われなかったくせに。)

 

リクトは唇を噛み、目を逸らした。

吐き捨てる声はかすれ、震えていた。

 

「……クソが。」

「……分かってるよ。」

 

セナは少しだけ笑った。

だがその目は真剣で、どこか切なかった。

 

「僕も同じだよ。」

「結局、あいつほど踏み込めなかった。」

 

リクトは深く息を吐き、視線を落とした。

吐き捨てるように呟く。

 

「……分かってる。」

「分かってるけど……クソが。」

 

少しの沈黙。

朝の冷たい風が二人の間を抜けていく。

 

リクトは剣を肩に担いだ。

くるりと背を向け、歩き出す。

 

「……やっぱ落ち込むよな。」

 

セナも一歩、後を追いながら苦笑した。

だが目は真剣で、優しさを含んでいた。

 

「……負けて落ち込まないやつなんていないよ。」

 

二人は無言で、少しずつ歩を進めた。

朝日が強くなり、長く伸びる影を並べていく。

 

やがて二人の影は交わり、また離れて、ゆっくりと遠ざかっていった。

挿絵(By みてみん)

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