第六十章:本音を言う場
ギルドの大広間は、珍しくのんびりとした空気に包まれていた。
依頼は休み扱いの日で、掲示板は閑散としている。
冒険者たちはテーブルを囲み、酒や軽食を手に他愛もない雑談に花を咲かせていた。
扉の鈴が軽く鳴った。
「おー、今日はおデートか~?」
からかう声が真っ先に飛ぶ。
メルとファナが並んで入ってきた。
ファナは思わず肩をすくめ、耳まで真っ赤になる。
「ち、ちが……ちょっと買い物なだけです!」
慌てて言い返すその声に、別の冒険者が笑いを堪えた。
「いいねぇ、休みに二人で買い物とか!」
「お幸せになー!」
ファナは顔を真っ赤にして、メルを見上げる。
メルは無言で舌打ちし、目を逸らした。
「……うるせぇ。」
「……もう、行こ。」
ファナが小声で言うと、メルは短く頷いた。
二人はそそくさと出口へ向かう。
冒険者たちの笑い声は背中に浴びせられたままだったが、ドアが閉まる音がそれを切り取った。
静寂が落ちた。
残ったのは、銀月の風のリクトとセナ、そして暁鋼の牙のラゼルとバルクだけだった。
リクトは肘をついて机をトントンと指で叩き、不機嫌そうに吐き捨てた。
「……チッ。あの騒ぎ、ムカつくな。」
セナは小さくため息をつき、彼を横目で見た。
「でも、事実だよ。」
「もう、あの二人はそういう関係なんだ。」
短い沈黙がテーブルを覆う。
誰もがその言葉を否定できず、視線を落とした。
ラゼルが腕を組み、低く切り込む。
「……さて。」
「当人同士が決めたことだ。」
「問題は、俺たちだ。」
バルクは無言のまま頷き、視線を鋭く走らせた。
ラゼルは目を細めて、続ける。
「……あいつは変わったな。」
「今までの自分を捨ててまで、欲しいものを取りにいった。」
「……本気だった。」
リクトが噛みつくように声を上げた。
「……分かってんだよ。」
「でもムカつくもんはムカつく。」
セナは静かに目を伏せた。
「僕もだ。」
「結局、動けなかったのは僕たちだ。」
バルクが低く短く呟いた。
「……あの顔は嘘つけない。」
「本気だったな。」
ラゼルは全員を鋭く見渡し、声を落とす。
「だからこそ問題なんだ。」
「二人が組むなら、私情を持ち込まない覚悟が要る。」
「……俺たちもそれを受け止める覚悟を決めろ。」
リクトは俯いたまま、震える手で拳を握り締めた。
「……チッ。」
「分かってるけど、そう簡単に飲み込めるかよ。」
「ムカつくし、悔しいし……でも、分かってる。」
セナがゆっくりと目を閉じ、苦く吐き出す。
「負けたよ。」
「僕たちは、自分を変えられなかった。」
短い沈黙が落ちる。
日差しがゆっくりとテーブルを照らす。
その光の中で、全員が影を伸ばしていた。
バルクが視線を落としたまま、ぼそりと漏らした。
「気持ちを捨てるんじゃない。」
「自覚しろ。」
ラゼルが少しだけ息を吐き、鋭さを緩める。
「気持ちを持ったまま組めるか。」
「それを決めるのは、ここにいる全員だ。」
セナが頷き、真剣な目をリクトに向けた。
「……だから話そう。」
「本音を。」
「今のうちに。」
リクトは鼻を鳴らし、苦笑交じりに目を伏せた。
「……言わねぇと終わっちまいそうだしな。」
全員が黙ったまま、だが視線を交わした。
そこにあったのは、わずかな決意と、逃げ場のない本音。
言葉はなくても、その空気がすべてを語っていた。
設定資料ページを作成しました。
キャラや用語の確認用として少しずつ整理していく予定です。
気になる方はシリーズ一覧からどうぞ。




