第五十四章:伝えたいこと、聞きたいこと
ギルドの朝は、いつもより少しだけざわついていた。
ファナは胸元に小さな包みを抱きしめて、深呼吸を繰り返していた。
ミリアがカウンター越しに目を細めて笑う。
「もう公認ね。あの子もだいぶ顔つきが変わったわ。」
周りの冒険者たちが小声で囁く。
「なんかいいよな、あの二人。」
「泣かされるのも泣かせるのも下手同士。」
ファナは聞こえないふりをして、それでも頬が赤くなる。
(……これくらい、私にできること。)
(昨日みたいに泣いて終わらせたくない。)
メルはテーブル席に座っていた。
まだ少し青白い顔だけど、苦笑を浮かべる。
「今日はサボんねーよ。」
ファナは包みを差し出す手を小さく震わせながら、視線を落とす。
「無理しないで。」
「……ちゃんと食べて、薬も飲んで。」
(もう……こんなことでドキドキしてちゃダメだ。)
(ちゃんと伝えるって決めたんだ。)
(怖い。でも、メルさんに言わなきゃ。)
メルは受け取った包みをじっと見つめる。
(ほんとに……真面目だな。)
周囲からはくすくす笑い声が漏れる。
「見せつけやがって。」
「落ちたな、あれは。」
ファナは耳まで真っ赤になって
「ちょ、ちがっ……!」
と小さく叫ぶ。
少し離れた席で腕を組むリクトは眉をひそめた。
セナは本を閉じて、ため息をつきながら横目で見やる。
やっと少し静かになったギルドの中で、ファナは包みを渡し終え、そっと座る。
メルはその包みをじっと見た後、ふっと口元を緩めて視線を上げる。
「……またこうして持ってくんのか?」
「……面倒見いいな。まるで彼女みたいだな。」
ファナはびくっと肩を揺らす。
(やめて……そんなこと言わないで……。)
(恥ずかしい、でも、ちょっと嬉しい。)
(でも、誤魔化したくない。)
「そ、そんな……っ!」
視線を逸らし、顔を真っ赤にしてから、ぎゅっと拳を握りしめた。
(みんな見てる……声が震える。)
(でも……もっと知りたい。)
小さな声で震えながら吐き出す。
「……もうちょっと、二人きりで話したい。」
(言っちゃった……どうしよう……。)
(でも……後悔したくない。)
ギルド内の空気が一瞬止まった。
「おおっ……!」
誰かが小声で呟く。
メルは目を見開いて少し黙る。
(この距離、心臓に悪い。)
(でも……見てたい、この顔。)
「おいおい、可愛いこと言うじゃねぇか。」
ふっと笑い、低い声で、でも真剣に。
「……わかった。どこでも付き合うよ。」
(そんなこと……ちゃんと言えるようになったんだな。)
(……もう泣かせねぇよ。)
ファナは真っ赤な顔のまま、小さく頷く。
「……ありがと。」
(恥ずかしいけど……ちゃんと話すって決めたんだ。)
(もっと知りたい。もっと伝えたい。)
周囲がざわつく。
「お幸せにー!」
ミリアはカウンターの奥で微笑む。
「若いっていいわね。」
リクトは顔を逸らし、赤くなった耳を隠すように腕を組む。
セナは柔らかく目を細め、くすっと笑う。
ファナとメルが静かに視線を合わせる。
小さく、でもしっかりと頷き合った。
(恥ずかしいけど……ちゃんと話すって決めたんだ。)
(もっと知りたい。もっと伝えたい。)
(怖いけど、逃げない。)




