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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

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第五十三章:もう一度、話したい

挿絵(By みてみん)

朝の宿屋前。

 

ファナは小さな包みを胸に抱え、ぐっと深呼吸をした。

レリアが優しく声をかける。

「行くんでしょ?」

ファナはこくりと頷く。

「……うん。今日こそ、ちゃんと話す。」

カイルは腕を組んでむっつりとした顔をしていたが、視線を少し逸らす。

「……それでいい。」

深く息を吐きながら、ぼそりと。

「大丈夫だ。お前なら、きっと伝えられる。」

「……変な顔すんな。」

レリアがそっと背を撫でるように。

「ちゃんと、話しておいで。」

 

(もう逃げないって決めた。)

(泣くだけで終わらせたくない。)

(メルさんに、ちゃんと……話したい。)

 

ギルドの朝は、少しざわついていた。

受付のミリアが心配そうに眉をひそめる。

「メルくん、もう大丈夫なのかしら。」

 

冒険者たちが小声で噂をしていた。

「ファナちゃんが毎日通ってたって有名だぞ。」

リクトが不機嫌そうに腕を組む。

「……余計なこと言うな。」

セナが隣で苦笑しながら肩を軽く叩く。

「気になるなら、素直に言えば?」

 

近くのテーブル、暁鋼の牙も静かに会話を交わしていた。

ラゼルは短く吐き捨てる。

「放っとけ。メルはそうされるのが一番楽だ。」

バルクが小さな声で呟く。

「でも、気にしてる。」

ラゼルが小さくため息をつく。

空いた椅子が、寂しさをにじませていた。

 

ギルドの片隅。

ファナは包みを抱えたまま、小さく俯く。

周囲の視線が気になる。でも、もう下を向くだけでは終わらせない。

 

(みんな知ってる……毎日通ってたことも、私があの人を想ってたことも。)

(笑われたっていい。迷惑だって思われたって構わない。)

(あんな顔、もう二度と見たくない。あんな風に辛そうにさせたくなかったのに……結局泣くのは私だ。)

(だから……今日は絶対に言う。逃げない。私の言葉で、ちゃんと伝えるんだ。)

 

テーブルに戻ったメル。

まだ青白い顔で水を飲み、深く息を吐く。

視線を落としたまま、短く息を吸い込む。

 

(もう来ないのかって……思ったのに。)

(……なんで来るんだよ。) 


ファナがメルを見つけて一歩踏み出す。

その瞬間、ギルド全体の空気が少し変わる。

近くの冒険者がひそひそと。

「来たぞ。」

「シーッ、黙れ。」

「……頑張れって思っちゃうな。」

 

セナが柔らかく背中を押すように。

「……行っておいで。」

リクトは口をへの字に曲げて低く。

「……言いたいこと、あんだろ。」

 

(今しかない。)

(怖い。でも、もう逃げないって決めた。)

 

包みを抱きしめたまま、ファナは足を踏み出す。

でも手が震えて、椅子の脚にぶつかる。

「あっ……!」

コトリ、と小さな音を立てて包みが落ちた。

ギルドが静かになる。

メルが拾い渡す。

 

(近い……!)

(心臓、止まりそう……。)

(でも、落ち着く……この腕の中……。)

 

メルはぶっきらぼうに包みを押し返す。

「……ちゃんと持っとけよ。」

でもその腕は優しく支えていた。

視線を少し落とし、真剣な顔で。

「……ほんとに、かわいいな。」

「危ないっての。こんなふうに抱きとめたら、離したくなくなるだろ。」

少し息を飲み、低く続ける。

「でも……俺は、お前の気持ち、ちゃんと聞くまで待つって決めたから。」

そっと腕を離し、でも視線は逸らさない。

「……大丈夫か?」

 

ファナは涙目になり、一瞬俯く。

でも震える手で包みを差し出す。

「……これ……薬と……食事……。」

「……お願い……ちゃんと食べて……。」

「だって……また倒れたら嫌だから……。」

「……もう、怖いの……。」

声が震え、涙が溢れる。

 

メルは受け取ると、少し俯き、ぶっきらぼうに。

「……泣くなって。」

頭をぽん、と軽く叩くように撫でる。

「そんな顔、見たくねぇ。」

 

照れくさそうに小声で。

「……俺のために、こんな……。」

「薬、安くなかっただろ。」

深く息を吐き、ぐっと声を落とす。

「……ありがとな。」

「ちゃんと食うから。」

 

ファナは包みを渡したあと、一瞬俯き、声を絞り出す。

「……いなくならないって、約束して……。」

ボロボロ泣きながらメルにしがみつく。

メルは目を見開いて一瞬固まるが、すぐにそっと背中を抱く。

「……泣くなって。」

優しく頭を撫でる。

「どこにも行かねぇよ。」

 

周囲は最初息を呑むように見守っていたが、誰かがふっと笑った。

「……まあ、応援したくなるだろ。」

 

ラゼルが短く目を伏せて小さく笑う。

バルクがわずかに頷く。

セナが小さく拍手をし、リクトは赤い顔をしてそっぽを向いた。

 

ファナは涙を拭き、顔を上げてメルと視線を合わせる。

二人は小さく、でもはっきりと頷き合った。

 

(もう、逃げない。)

(ちゃんと話す。ちゃんと伝える。)

(メルさん……私、あなたが好きだよ。)

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