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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

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第四十一章:話す勇気、受け止める心

挿絵(By みてみん)

宿の食堂の朝。

木の椅子を引く音と、皿を置く音が小さく響く。

 

ファナ、リクト、セナの三人は同じテーブルを囲んでいた。

 

昨日までより、ほんの少し空気は柔らかい。

でもまだどこか気恥ずかしく、三人とも言葉少なだ。

 

ファナはスプーンを手に持ったまま、少しだけ下を向く。

(レリアおかーさんに話して決めた。)

(ちゃんと話そう、伝えよう。)

 

ゆっくり顔を上げて、二人を見る。

「……あの、二人とも、ちょっと話したいことがあるの。」

 

リクトが眉をひそめて視線を向ける。

セナも静かに顔を上げて目を合わせた。

 

空気が少しだけ真剣になる。

三人は食事を終えると、宿の二階の小さな部屋へ移った。

木の椅子を並べ、ファナは深呼吸を一つ。

自分の胸に手を当て、言葉を探すようにゆっくり話し出す。

 

「昨日、レリアおかーさんと話したんだ。」

リクトが怪訝そうに目を細めた。

「……おかーさん?」

ファナが少し赤面しながらも小さく笑う。

 

「えっと……カイルさんとレリアさんが、私のおとーさんとおかーさんになってくれたの。」

リクトは一瞬ぽかんとしてから、少しだけ口元を引き締めた。

「……ああ。仮登録の時に一緒にいた人たちだろ?」

ファナは頷く。

「うん。」

セナは目を細め、やわらかい声で言った。

「僕は会ったことなかったから、初めて聞いたよ。」

「でも……よかったね。」

 

ファナは少しだけ頬を赤くしながら、俯いて。

そしてまた、顔を上げた。

「昨日、いっぱい話した。」

「怖いこともちゃんと話そうって決めた。」

「だから、二人にも伝えたかった。」

 

「私、リーダーなのに怖がってばかりで……。」

「でも、みんなのこと、ちゃんと知りたいし、信じたい。」

「嫌だと思ったら嫌って言ってほしいし、困ったら言ってほしい。」

「私も言うから。」

 

(リクトも、セナも、大事だ。)

(でも……どんな“好き”なのかは、まだ分からない。)

(分からないけど、大事だって気持ちは本当だから。)

(ちゃんと伝えたい。)

 

沈黙が一瞬落ちる。

リクトが視線を逸らし、唇を噛んだ。

そしてしぶしぶ吐き出すように。

 

「……オレも怖ぇんだよ。」

「お前に何かあったらって考えると、頭が真っ白になる。」

「だから強く言っちまう。」

「……でも、お前がそう言うなら、オレも言う。」

「これからは、ちゃんと話す。」

 

ファナは目を丸くして、その言葉をしっかり受け止めた。

そして視線をセナに向ける。

セナは静かに、でも真剣な目で見つめ返してくれる。

 

「僕も同じだ。」

「大事だからこそ冷静でいようとして、壁を作ってた。」

「でも、怖いって気持ちは一緒だよ。」

「ファナがそうしてくれるなら、僕もちゃんと言う。」

「怖いけど、守りたい。」

ファナは喉がつまるような感覚に息を飲み込む。

でも、涙はこらえて。

 

「……ありがとう。」

三人の間に流れる空気は、重くもあたたかかった。

 

ギルドでの手伝い。

三人はそれぞれ仕事を分担する。

さっきまでの話を引きずるような重さはなく、互いの気配を確かめ合うような静かな近さがあった。

 

リクトは無言で荷物を運ぶ。

セナは書類整理を手伝いながら職員と軽い会話を交わす。

ファナは受付近くで、年配冒険者や子供たちと小さく話をして笑う。

 

受付のミリアが笑顔で声をかける。

「ありがとう、銀月の風さん。」

ファナも少し笑って、息を吐くように。

「はい。」

(伝えられた。少し、軽くなった。)

 

夕方。

街の路地を一人で歩く。

小さな用事を終え、宿へ向かう途中だった。

そのとき、向こうから来た人影に気づく。

 

金色の髪が夕日を受けて光る。

メルだった。

「おやおや、リーダーさん。今日もお仕事熱心だね?」

ファナは少しだけ顔を赤くしつつも、覚悟を決めて足を止める。

 

「あの……メルさん、ちょっと話したいことがあるの。」

メルは軽く片眉を上げ、首を傾げる。

「ん? なになに?」

ファナは小さく深呼吸。

 

「昨日、レリアおかーさんと話して……」

「カイルさんとレリアさんが、私の家族になってくれたの。」

 

メルは最初、にやりと笑う。

「へぇ、おとーさんにおかーさん、か。」

「お姫様もすっかり家族持ちだ。」

でもすぐに表情を和らげて、真剣な声に変わる。

 

「……でも、そういう大事なことをちゃんと言葉にできるのは偉いよ。」

「簡単なようで、一番難しいからね。そういうのは。」

 

メルがファナの目をじっと見つめて、やさしく。

「でもな、ファナ。」

「俺だけじゃダメだろ。」

 

「ちゃんと仲間にも話してあげな。」

「おとーさんおかーさんができたファナを、一番欲しがってるのはあの二人だろ?」

 

ファナは小さく首を振り、でも真剣な声で返す。

「……うん、もうリクトとセナには話したよ。」

 

「でも……メルさんだから、これもちゃんと話したかったの。」

メルは一瞬目を見開き、そして優しく笑う。

 

「……そうか。」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか、リーダーさん。」

「そういうの、大事にしなよ。」

 

(メルさんも、大事。)

(“好き”が何かは、まだ分からない。)

(でも、この気持ちはちゃんと伝えたかった。)

 

メルがまた軽口を混ぜて、そっと視線を外す。

「――じゃ、リーダーさん。そろそろ帰りな。」

「仲間を待たせるなよ。」

ファナは小さく頷いて。

「……うん。ありがとう、メルさん。」

 

夕暮れの道を一人歩く。

夕日が落ちていく空は、赤く滲む。

風が少し冷たくて、でも心が少しあたたかい。

 

(ちゃんと話せた。)

(リクトにも、セナにも、メルさんにも。)

(怖いけど、伝えることをやめたくない。)

(好きって……まだ分からない。)

(でも、大事だってことは分かるから。)

(……それを、ちゃんと大事にしたい。)

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