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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

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四十章:選ぶこと、伝えること

挿絵(By みてみん)

朝の宿屋の部屋。

 

ファナはベッドの上で、毛布に包まりながら小さな声を絞り出した。

「……おはよう。」

レリアがすぐに優しく応える。

「おはよう、ファナ。」

カイルは椅子に座ったまま、ぶっきらぼうに頷いた。

「……ああ。」

 

ファナは目を伏せたまま、少しだけ呼吸を整える。

(昨日、ちゃんと話せたから少し楽になった。

でも、まだ考えたいことがある。)

やがて三人は身支度を整え、市場へ出かけることになった。

 

外の空気は少しひんやりしていて、朝の街道を行き交う人々の声が早くも響いている。

市場に入ると、朝から活気でごった返していた。

人波の中で、ファナは少し気後れして歩幅を落とす。

 

その瞬間、横から荷物を抱えた男性客が勢いよく割り込んできた。

「あっ」

 

カイルがすぐさま手首を掴んで止める。

「……危ねぇ。」

ファナは驚いた目でカイルを見上げた。

「人が多い。気をつけろ。」

ファナの頬がほんのり赤くなる。

「……おとーさん。」

 

カイルは視線を逸らしながら短く返す。

「……ああ。」

レリアが横でクスッと笑った。

「カイルらしいわね。」

ファナは少し照れくさそうに俯く。

「……ありがとう。」

 

(ちょっとびっくりしたけど……嬉しかった。おとーさん、ちゃんと守ってくれる。)

 

市場を回るうち、買うものの都合で三人は一時的に分かれることになった。

「お前ら、あっちを見てこい。俺はこっちだ。」

レリアが頷きながらファナに声をかける。

「分かったわ。ファナ、こっちへ行きましょう。」

 

カイルは無言で二人を見送ったが、その視線はどこか優しかった。

(ちゃんと話したいな。今度こそ、逃げないで。)

レリアとファナは市場の少し静かな小道を歩いた。

レリアがかごを持ちながら横目でファナをうかがう。

 

「昨日の続き、話す?」

ファナは小さく首を振ったが、真剣な目を向ける。

 

「昨日はありがとう。今日は……おかーさんに、みんなのこと話したい。」

レリアが柔らかく首を傾げる。

「みんな?」

 

ファナは言葉を探すように視線を落としながら。

「リクトも、セナも、メルさんも。」

「暁鋼の牙のみんなも。」

 

「みんな、いろいろ言ってくれて、助けてくれて、でも分からないこともいっぱいある。」

 

レリアは歩調を合わせ、静かに相槌を打った。

ファナは少し俯いて、真剣な声を出す。

 

「リクトは真っ直ぐすぎて、怖いくらい。」

「セナは落ち着いてるけど、一人で抱え込みそう。」

「メルさんは軽口ばっかりだけど、でもちゃんと見てくれてる。」

「バルクさんは無口だけど、周りをちゃんと見てる。」

「ラゼルさんは厳しいけど、ちゃんと見てくれる。」

 

ファナはぎゅっと自分の手を握った。

「私、リーダーなのに、ちゃんと分かってないのかなって思う。」

レリアが優しく微笑みながらも真剣な目で言葉を返す。

 

「分かろうとするだけで十分すごいと思うわ。」

「みんなを信じるって、ただいいところを褒めることじゃない。」

「良いところも、難しいところも分かった上で、一緒に進もうって思えるかどうか。」

「それが、リーダーなのかもしれないわね。」

 

ファナは涙を溜めた目で、でも笑顔を見せた。

「……おかーさん、ありがとう。私、もう少し頑張る。」

レリアがそっと頭を撫でる。

「ええ。ゆっくりでいいのよ。」

 

その後、買い物を終えた二人が戻ると、カイルが無言で荷物を受け取った。

「……貸せ。」

ファナが少し戸惑いながらも手渡す。

「……ありがとう、おとーさん。」

「……ああ。」

 

レリアは少し後ろを歩きながら、二人を見守るように微笑む。

帰り道。

少しの間、三人で並んで歩く中で、ファナが勇気を出して声をかけた。

 

「あの……おとーさん。」

カイルが短く返す。

「……ん。」

ファナは俯きながらも、言葉を選びながら必死に続けた。

 

「おかーさんには、みんなのこと話した。」

「でも、おとーさんにも、ちゃんと話したい。」

「リクトも、セナも、メルさんも、暁鋼の牙のみんなも、大事な仲間。」

「でも、ちゃんと信じられるか、怖いこともある。」

「それでも、私……リーダーだから、ちゃんと考えたい。」

「怖いけど、逃げたくない。」

 

カイルは無言のまま、歩みを止めずに相槌を打った。

「……そうか。」

 

ファナは少し涙ぐみながらも、笑った。

「おとーさん、聞いてくれてありがとう。」

 

カイルが短く息を吐き、無言で手を伸ばす。

ファナが一瞬驚いたように目を見開くが、すぐに赤くなった頬を少し下げて、その大きな手に小さな手を重ねる。

 

カイルは何も言わずに、ファナの手を包み込むように握り、ゆっくりと歩き出す。

ファナはその隣で、小さく笑った。

後ろを歩くレリアが、二人の背中をそっと見つめて優しく微笑んだ。

 

(怖いけど、話せた。)

(ちゃんと聞いてくれた。)

(おかーさんも、おとーさんもいてくれる。)

(一人じゃない。)

(だから、もう少し前を向こう。)

(リーダーとして、仲間と向き合いたい。)

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