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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

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第三十七章:試される風

挿絵(By みてみん)

朝の「蒼鷹の庵」ギルドは、まだ夜気が抜けきらない冷たさを含んだ空気に包まれていた。

受付のミリアが柔らかく微笑み、カウンター越しに声をかける。

「おはようございます、“銀月の風”さん。」

 

ファナ、リクト、セナ。

三人は昨日までとは違う「正式パーティー」という肩書きを意識して、少し背筋を伸ばした。

 

それでもまだ慣れないのか、どこか落ち着かない面持ちで頷く。

その背後で、床板を軋ませる重い足音が響いた。

 

ギルド支部長、ザルド・ベルトラン。

無言で近寄り、その低く響く声が空気を切り裂く。

「……こっちだ。」

誰も逆らえない声だった。

三人は思わず息を呑み、そのまま無言でついていく。

 

訓練場は朝の光を受けてもなお、張り詰めた緊張を溶かさなかった。

砂地を踏む音が響く。

 

暁鋼の牙の三人も、無言で見学席に腰を下ろしていた。

ラゼルが腕を組み、バルクは無表情で観察。

 

メルは口元にいつもの軽薄な笑みを浮かべかけて、でもすぐに消した。

 

ザルドが腕を組んだまま、鋭い視線を一人ずつに落とす。

「正式パーティーだ? 口先だけじゃ命は守れねぇ。」

「お前らの甘さ、ここで全部吐き出せ。」

「倉庫整理、護衛、模擬戦――好きなのを選べ。」

 

リクトは前のめりに「護衛だろ」と声を上げたが、

セナが横で「それじゃ意味がない」と静かに制した。

 

二人の間に一瞬火花が散りそうになった空気を、ファナが深呼吸で押さえ込む。

そして、しっかり前を見据えたまま口を開く。

「……模擬戦にします。」

ザルドの口角がわずかに上がった。

「いい度胸だ。」

 

模擬戦が始まる。

ザルドはただ立っているだけのように見えた。

 

リクトが大剣を振り抜くが、わずかな体重移動で捌かれる。

「力任せだ。相手を見ろ。」

セナが詠唱を始めた途端、間合いを詰められる。

「考えすぎて遅え。」

 

ファナは短剣を握る手が震えたまま踏み込む。

だが、ザルドの視線だけで足が止まる。

「躊躇ってんじゃねぇ。」

 

砂を踏みしめる音、息が荒れる音だけが場を支配する。

ザルドの声が低く響く。

 

「声を出せ。命を守るのはお前らの武器じゃねぇ。その声だ。」

 

暁鋼の牙の三人が無言でその様子を見守る。

メルだけが小さく息を吐いて笑った。

「セナが気負いすぎだな。」

バルクが小さく首を傾げる。

「……ファナは躊躇。」

ラゼルは腕を組んだまま低い声で。

「一直線だな、リクトは。それはそれで悪くない。だが単独じゃ死ぬ。」

 

再開。

三人は荒い息を吐きながら目を合わせる。

リクトが歯を食いしばる。

「クソ……なんで通らねぇ。」

セナが自嘲気味に吐き出す。

「……俺が遅い。」

ファナが震える声で、それでも必死に短剣を構える。

「……怖い。でも、声を出さなきゃ。」

 

再びザルドが踏み込む。

セナが声を震わせて叫ぶ。

「ファナ、指示を!」

ファナが叫ぶように声を絞る。

 

「リクト、今!」

リクトが牙を剥いたように踏み込む。

セナがタイミングを合わせ魔法を撃つ。

砂塵が舞い、ザルドの動きがわずかに止まった。

その目が細められる。

 

数拍の静寂。

ザルドが手を上げて動きを止めた。

「そこまでだ。」

ゆっくり歩み寄り、三人を見下ろして言う。

 

「……上出来だ。」

三人が一斉に息を吐く。

 

だがその声はすぐに鋭くなる。

「だがな、今のが最低ラインだと思え。」

 

「お前らを鍛える理由は一つだ。死ぬな。仲間を死なせるな。」

「声を出せ。互いを信じるために必要だ。」

 

ファナが短剣を下ろし、深く頭を下げる。

「……ありがとうございました。」

 

ザルドが後ろを向く。

歩きながら声を落とす。

 

「飲め。死にたくなきゃ休むことも覚えろ。」

片手で水筒を軽く放り投げる。

リクトが慌てて受け取って、目を丸くする。

ファナがその様子を見て、小さく笑いかけて、すぐに口を引き締める。

 

ザルドが去った後。

リクトが荒い息を吐き、ボソリと呟く。

「……あの動きで本当に足やってんのかよ。化け物か。」

セナが肩をすくめて苦笑する。

 

「本当に引退してる人間の動きじゃない。」

ファナは手の中の短剣を見つめ、ぽつりと。

 

「でも……ちゃんと見てくれてた。」

リクトが驚いたように視線を落とす。

セナも少し沈黙したままだ。

 

暁鋼の牙の三人が近づく。

メルがいたずらっぽく手を振る。

「お疲れ、正式パーティーさん。」

ラゼルが真顔のまま頷く。

「悪くない動きだった。」

バルクも短く言葉を落とす。

「……成長、してた。」

 

メルが真面目な顔でファナを見つめる。

「期待してるからさ、リーダーさん。」

「今日のお前らは、確かにチームだった。」

 

ファナが顔を赤くしながらも、少し笑って。

「……今日は真面目なんですね、メルさん。」

 

メルが一瞬真顔になって、すぐに口角を上げる。

「おや、鋭い返しだね。」

「でも、そっちも真面目になったからさ。」

 

少しだけ目を細めて軽口を叩く。

「――けど、ファナ嬢はいつもの軽口の僕の方が好みかな?」

ファナが真っ赤になって視線を逸らす。

「そ、そんなこと……ないです。」

 

メルがいたずらっぽく笑って、指を鳴らす。

「ははっ、せっかくだし正式パーティー結成の祝いだ!」

「みんなで食事に行こう!もちろん、僕らのおごりで!」

 

ラゼルが渋い顔をする。

「勝手に決めるな、メル。」

バルクが短く返す。

「……だが、悪くはない。」

 

メルが指を鳴らして得意げに。

「ほら、賛成多数だ。」

 

ファナが少し驚いて、それでも笑顔で。

「……ありがとう。」

セナが肩をすくめる。

「じゃあ、お言葉に甘えよう。」

リクトがそっぽを向きつつも低く。

「……奢られる義理はねぇけど、行くぞ。」

 

メルは笑いながらも、胸の内では別のことを考えていた。

(ほんとは二人きりが理想なんだけどねぇ。)

(まあ、今はそんな段階じゃないか。)

(まずは友達面して近づくとしよう。)

(……焦らず、じっくりだ。)

 

ファナが少し後ろを歩きながら、ゆっくり深呼吸をする。

(声を出すって、戦う時だけじゃない。)

(ちゃんと話すこと、伝えること。)

(……私も、もっと強くなる。)

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