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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

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第三十六章:銀月の風

挿絵(By みてみん)

蒼鷹の庵ギルドの木造の扉を押すと、涼しい空気と古い紙の匂いがした。

 

ファナ、リクト、セナの三人は、少し緊張した面持ちで中へ入る。

受付カウンターにはミリアが控えていて、彼らに気づくと優しい笑みを浮かべた。

「おはようございます。最近、いいチームになってきましたね」

 

三人は思わず顔を見合わせる。

ファナが頬を赤らめて、小さな声で

「……おはようございます」と返した。

 

ミリアは柔らかく続ける。

「そろそろ正式パーティー申請、考えてみませんか?」

 

リクトは腕を組んだまま

「正式、ねえ……」と呟き、

 

セナは穏やかに

「……いい機会かもしれない」と頷いた。

 

ファナも、胸の中に小さく生まれた期待と不安を抱えながら

「……うん」と頷いた。

 

カウンターに広げられた申請書の前で、ミリアが真剣な顔になる。

「正式パーティーになると、いくつかの規約があります。

 

代表者――リーダーの登録。

パーティー名の登録。

報酬分配責任、信用ランク管理、トラブル時の全員責任、脱退・解散の申請義務。

 

仮登録とは違って、大人として扱います。

信用も上がりますが、その分責任も重いです。」

 

そして、一瞬間を置き、ミリアは少しだけ表情を和らげて続けた。

 

「あと一点。獣人や魔族の方がいるパーティーは、うちのギルドではトラブル防止のために支部長面談が義務です。でも、怖いものじゃないから安心して。」

 

ファナは小さく息を呑んで俯いたが、セナがそっと肩に手を置いて

「正式な手順ってことだね」とフォローした。

リクトは

「面倒だが仕方ねえな」と、そっぽを向いたが、声色は落ち着いていた。

 

申請を預けたあと、三人はギルドを出て近くの小広場のベンチに腰掛けた。

陽射しが少し眩しくて、誰も最初に話を切り出せずにいた。

リクトが口を開いた。

 

「……お前がやれよ、ファナ。」

「む、無理だよ!」

ファナは思わず立ち上がりそうになり、慌てて座り直した。

セナが落ち着いた声で言った。

 

「じゃあ僕? でも君のほうが周りを見てる。」

リクトも渋々頷く。

「意外と冷静だしな。」

「でも……」

ファナが戸惑うと、セナが真剣な目で彼女を見つめた。

「だからこそだよ。背中を預けたいって思える。」

その言葉が、胸に深く落ちた。

 

「……怖いけど、二人がそんな風に思ってくれるなら。ちゃんと応えたい。」

 

そして次は名前を決める番だった。

 

リクトが自信満々に

「暁の血風団!」

セナが呆れて

「却下。」

 

セナが少し得意げに

「夜想詩的冒険団……」

リクトが即座に

「長ぇし意味わかんねぇ!」

 

ファナは小さく笑って、それから少し恥ずかしそうに言った。

「……私、風が好きで。銀色の月みたいな名前が……あったら、いいな。」

リクトとセナが黙った。

セナがゆっくりと言葉を探すように

「『銀月の風』……いいね。」

リクトも頷いた。

「……悪くねえ。」

ファナは小さく、でも確かに笑った。

「私が決めた名前なのに、二人が受け入れてくれる。……なんだか嬉しい。」

 

再びギルドに戻った三人をミリアが迎えた。

「リーダー、ファナさんですね。パーティー名は『銀月の風』。」

 

「……いい名前だと思います。おめでとうございます。」

三人はちょっと照れながら声を揃えた。

「よろしくお願いします!」

ミリアが穏やかに笑ってから

 

「じゃあ、支部長室へ。面談っていっても、あなたたちを知りたいだけだから大丈夫。」

ファナが深呼吸をした。

リクトが「ビビってんじゃねえぞ。」

セナが「自分が一番顔こわばってるよ。」

三人は軽く笑い合って、分厚い扉をノックした。

 

支部長室は木の香りがする重厚な部屋だった。

壁に古びた剣が飾られ、机の向こうに座るのは大柄な男。

ザルドは無言で三人を見つめた。

 

ファナは喉が詰まるような感覚で言葉を失った。

「なるほど。これが正式登録したいってガキどもか。」

彼は書類を手にとって目を走らせると、低く笑った。

「……まったく。俺も歳取ったもんだな。こうして面談する側になるとはな。」

 

「ザルド・ベルトラン。ここの支部長だ。元はAランクだが、足をやって引退した。」

リクトが思わず

「Aランク……」と呟き、セナが真剣に頷いた。

 

ファナも目を逸らさずに聞き入った。

「俺は見りゃ分かる。目が濁ってるかどうかくらいな。」

「……お前の目、まだ濁っちゃいねぇな。」

 

ファナは少し強張った声で

「……はい。」

 

「それで充分だ。リーダーが曇ったら終わりだぞ。」

「やる気があるならとことん協力してやる。名前は? リーダーは?」

 

ファナは背筋を伸ばした。

「ファナ・ラムゼリアです。リーダーです。」

セナとリクトも力強く

「よろしくお願いします!」

ザルドが満足げに鼻を鳴らした。

「よし。承認だ。失敗しても逃げんな。それが冒険者だ。」

 

部屋を出た三人は、息をついたように顔を見合わせた。

ファナが小さく笑った。

「ちょっと怖かったけど……ちゃんと見てくれる人だね。」

リクトは頷いて

「言葉は乱暴だが、本物だな。」

セナは目を細めて

「これからが本当のスタートだね。」

三人は自然と歩幅を合わせて、ギルドを後にした。

 

「銀月の風。

 

私たちの名前。

 

リーダーだからって、全部分かるわけじゃない。

でも、二人が背中を預けてくれるなら。

 

ちゃんと悩んで、

決めて、

伝えられる私になりたい。

 

これが私たちの、新しい物語のはじまり。」

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