30.滲み出る"影"と魔の誘い
本日更新2話目です。
(前話から数日後、鈴宮 昴視点)
……ハァ……
「どうして、アタイは夢を諦めなきゃいけなかったんすかね……」
アタイは組織の拠点近くの公園で1人、黄昏れてたっす。
そんなアタイの脳裏に浮かぶのは、かつての記憶。
『いや~、本当に昴は速いなぁ!』
『この感じ、将来は陸上選手かしら?』
パパとママから足の速さを褒められた、大切な思い出。
……というのも、アタイは幼い頃から風を切って走るのが好きだったっす。
それこそ、パパもママも誰も彼も……その全てを置き去りにして走り抜ける感覚は、今思い返しても興奮する程の快感だったんすよね~。
そんで、アタイはその快感を味わい続けるためにより速い人が集う陸上競技の選手になる事を夢見て、ひたすら努力して頑張ったっていうのに……
『鈴宮 昴……貴女には魔法少女へと変身する適性がある事が分かりました。……なお、これは決定事項であり拒否権はないものと思ってください』
……その努力も、高校生の時に強制的に受けさせられた魔法少女の適性を調査する身体検査で水の泡と化したっす。
いやまあ、普通に考えて魔法少女の身体能力で陸上なんてやったらズルっすから、出場資格を失うのは理解出来るんすけど……
あ~あ、本当に嫌な思い出っす。
「……いやはや、どうしてアタイは魔法少女なんて続けてるんすかね~?」
出来る事なら辞めたいっすけど、辞めるに値する動機が見つからないっす。
……それこそ、引退年齢にも達してないのに辞めたりしたら、世間から何を言われるか分からないっすし……
「……魔法少女なんて、クソ食らえっす……」
改めて他の皆には悪いっすけど、アタイは魔法少女になんてなりたくなかったっすよ……
ふと、そんな事を思い浮かべた直後だったっす。
「ヒヒヒ……なら、あの神魔の誘いを受けてみるのも良いんじゃないッスか?」
「……やっぱり、何か仕込まれてたっすか……」
……アタイの目の前に黒い影の様な人影が現れて、不穏な事を言い出したっす。
「ヒヒヒ……アタイは神魔ゲミニの〈神罰〉、【英雄の裏面】で生み出された人格ッス。……あ、一応言っとくッスけど他の人にアタイは見えてないッスからね?」
そういう"影"の顔はアタイそっくりになって、次第に姿形もアタイそっくりになっていったっす。
……そのクオリティは凄まじく、全体的に薄暗いって以外の違いが見つからないレベルには瓜二つだったっす。
「……本当に、勘弁して欲しいっすね」
「ヒヒヒ……とはいえ、実際のところ主人格が望まない限り、聖別巫女にはなれないんスよね~」
「ふ~ん……で、どうやってアタイをその気にさせるつもりっすか?」
「んん?……え、魔法少女へクソ食らえって言う割に、聖別巫女になる気は起きないんスか?」
……靡いちゃ駄目なのは分かってるっすけど、それはそれとして魔法少女やその責務を強いた世間は恨んでるっす。
でも……
「……アタイは、アタイが夢見た陸上選手への道を絶った魔法少女が嫌いっす……でもだからって、聖別巫女とやらになったところで陸上選手への道に舞い戻れる訳じゃないっすよね?」
アタイはそう、自分に言い聞かせる様に吐き出したっす。
……そうでもしなきゃ、この誘いに乗ってしまいそうだったっすから。
「ヒヒヒ……そんな無理すんなッスよ?……いくら陸上選手に戻れなくても、魔法少女やその責務を強いた世間を皆殺しにするぐらいはしたい筈ッス」
「そんな事、アタイは思ってなんか……」
「本当に、そう言い切れるッスか?」
「むぅ……」
アタイの"影"は、アタイの顔面スレスレに顔を持って来て話しかけて続けていたっす。
……そして、アタイは何故か、その誘いが魅力的に感じられて来て……
「……ま、あんまり急かすのも悪いッスから一旦引くッスけど、ちょっとは考えててくれるとありがたいッス!」
「っ!?……ちょ、待つっす!」
「待たないッス!……それじゃあばいばいッス!」
ードプン!
「なっ……まさか、押して駄目なのを確認する前から引いてみるんすか?……それに何の意味が?」
……うん、何がしたかったんすか?
とまあ、アタイがひたすら困惑していると……
「うげっ!?……す、昴さんじゃないですか……」
「Oh!……奇遇デスね~!」
「時子、そこまで嫌そうな顔を浮かべたら失礼なのだわよ?……躾、されたいかしら?」
ーペチン!
「ぶひぃぃぃ♥️!」
最近話題になってる、例の新人3人組が背後から話しかけて来たっす。
……あ、さっき"影"が簡単に退いたのって、この3人が来てたのに気付いてたからっすか!?
「……って、アタイの前とか以前に公共の場所で変なプレイに興じないで欲しいんすけど!?」
「あ、ごめんなさい……つい、お尻を叩かれたら豚みたいに鳴くクセが……」
「すぐに矯正した方が良いっすよ、そのクセ……」
「お、おっしゃる通りで……」
ハァ……
……最初に話を聞いた時点では、アタイにとって時子ちゃんは救いにも思えてたっす。
例の時子ちゃんを起点とした、不可思議な力……
もし、その力で本当に神魔を皆殺しに出来たら……
その時は、アタイも魔法少女という苦行から解放させて貰えるんじゃないかって……
……でもまあ、現実はそう甘くなさそうっす。
上からの情報が正しいと仮定したら、少なくとも力の行使には時子ちゃんと恋人になる必要があるらしいっすからね~。
そんなの無理ゲーっす。
「……で、何か用っすか?」
「あ、いえ……3人でデートしてたら、偶然昴さんに会ったって感じでして……」
「そうっすか~。……なら、アタイはこの辺で」
「え、もう行ってしまうんですか?」
……へ?
あれれ?
アタイ、てっきり時子ちゃんには嫌われてるかと思ったんすけど……
意外と、そうでもない感じっすか?
「……アタイの事、嫌ってないんすか?」
「嫌う?……どうしてですか?」
「だってこの前、アタイからウザ絡みしようとしたじゃないっすか!」
「でも、結局は菜々乃コーチに分からされて何事もなく終わってませんでしたっけ?」
……まあ、それはそうっすけど……
「それで良いんすか?」
「そうですねぇ……実際、私が昴さんの事を苦手に思ってるのは事実です。……何というかこう、闇を感じるといいますか……」
「時子、ぶっちゃけマシたね!?……ま、私も同じ事を思ってマ~シたが」
「私もなのだわ。……見るからに、無理して明るく振る舞ってる感じがするというか……」
……ありゃりゃ、上手く隠してるつもりだったっすけど結構バレバレじゃないっすか。
そりゃまあ、アタイの経歴とか夢を諦めたって話は割と有名っすけど……
これでもアタイ、上手く気にしてない風を装ってたつもりだったんすよ?
「……私は詳しい事を知りませんし、下手に過去を詮索するつもりもありません。……ただ……」
「ただ……何すか?」
「ただ……何かしら、昴さんの力になれたらと思う事はあります。……後、よろしければ昴ちゃんと呼んでも良いですか?」
「……いやサラッと邪な望み混ぜ込んだっすね!?」
……何でっすかね……
ちゃん付け呼びとか、普通なら微笑ましい望みの筈なんすけど……
時子ちゃんが言うと、変な意味が隠れてる様に感じちゃうっす。
「いやいやいや、ちゃん付けは健全ですよ!?」
「そ、それはそうなんすけど……」
「時子、日頃の行いデ~ス!」
「日頃の行いなのだわ」
「納得出来ません!」
……うぅ……
多分、時子ちゃんが悪い筈なんすけど……罪悪感がエグいっす。
「……い、良いっすよ?」
「え?」
「時子ちゃん、アタイをちゃん付けで呼んでも良いっすよ……」
「本当ですか!?」
「お、女に二言はないっす!」
……な、何すかね……
明らかに、大きな選択をミスった気がするっす……
「す、昴ちゃんと呼んでも良いと……ぐ、ぐふふふふふ……こういうアスリート系のスポーツガールは健康的な肉体美が良くて……しかし、夜の公園をスッパで徘徊ってシチュも大変好ましくて……」
「Oh ……王魅、後はお願いしマ~ス」
「分かったのだわ。……そういう妄想は時と場合を考えてしろなのだわ!」
ーペチィィィン!
「ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ♥️!?」
……馬鹿馬鹿しいっす。
こんな子に、アタイは何を期待してたんすかね?
こんな、何処にでも居る女の子に……
「……にしても、スッパで公園徘徊っすか……」
……何だか、1周回って魅力的に思えるっすね。
「ふぁっ!?……主人格、考え直せッス!」
「……ん?」
何だか、"影"の声が聞こえた気がするっすけど……
気のせいっすかね?
「気のせいじゃねぇッスよ!」
「……うん、やっぱり気のせいっす!」
「「「っ!?」」」
「あ、今のは独り言っすから気にしないでくれると助かるっす!」
おっと、いけないいけない。
……時子ちゃん達にバレるところだったっす。
「主人格~?……聞こえてるッスよね~!?」
「……ま、1回試してみる価値はあるっすかね?」
「え、期待しても良いんですか!?」
「Oh ……時子、そこは止めるべきところデスよ?」
「昴さん、間違っても気の迷いだけは起こさないで欲しいのだわ!」
……そうと決まれば、今夜にでも結構するっすかね~。
そんな事を考えながら、アタイは"影"の声を無視し続けたっす……
ご読了ありがとうございます。
昴にとって、時子の妄想>"影"の誘惑というレベルで魅力度は違いました。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




