第三話 勝負の日
千円札四枚と小銭。
それだけのはずなのに、俺の胸の奥は今までになく熱かった。
「……やれる」
十分後の未来を見る力。
たったスクラッチ一枚で証明された。
翌朝、俺は競輪場に戻っていた。
昨日とは違う。
闇雲に買うんじゃない。
金属片を握り、十分後の自分を覗く。
三連単、8-2-4。
払い戻し窓口で、笑顔の自分が札束を受け取っていた。
「マジかよ……」
試しにその番号を買う。
数十分後、レースは未来の通りに決着した。
馬鹿みたいに跳ねた配当。
気づけば俺の手には十万円近い大金があった。
それからは早かった。
「十分後の自分」が選んでいる券を、そのまま追う。
躊躇は不要。未来の通りに券を買えば、当たりは確実だ。
昨日まで、帰りの電車賃にすら困っていた俺が、今は十万円を握っている。
いや、これはまだ序章にすぎない。
競輪場には一日に12レース。
つまりチャンスは12回もある。
金属片を握りしめ、十分後を覗く。
それを繰り返すだけで、俺の財布はみるみる膨らんでいった。
昼過ぎには五十万円。
夕方には百万円。
最後のレースで大穴を当てたときには、手元に積まれた札束は三百万円を超えていた。
「はは……嘘みたいだ」
たった一日。
200円のスクラッチがきっかけで、俺の人生はここまで跳ね上がった。
駅の改札を抜けるとき、俺は笑いをこらえきれなかった。
昨日は電車賃がなくて立ち尽くしていた男が、今日は財布の重さに肩を落としている。
未来は変えられる。
俺はその証明を、自分の手で掴んだのだ。
「次は……もっと大きな舞台だな」
競輪だけじゃない。競馬も、株も、ギャンブル以外だってある。
十分後の未来を見る力があれば、世界を相手にだって戦える。
俺は改札を抜け、夜風を吸い込んだ。
始まったばかりの新しい人生の匂いが、胸を震わせていた




