65話心の距離
グレンの持つノートゥングが滴る血だけが辺りに響く。それ以外の音を出すのを許さないかのように。私兵たちも目の前に起きたことが信じることができず戸惑っている。無理もない自分たちの上司でありその実力もこのペンドラゴンでもトップレベルのヒトがあっけなく殺されたのだから。
「・・・逃げよう。」
1人の私兵がほそぼそしく呟く。
「ゼルさんがあんな簡単に殺されるんだ!そんな化物おれたちが勝てるわけないだろ!!」
そう言うとその男の一声に突き動かされ私兵たちは背を向けて走り出そうとする。
「逃すと思うか。」
その声が聞こえたと思うと1人の私兵の身体に巨大な剣が生える。
「きさまらには罪はない。だが・・・飼い主が悪かったな。恨むなら愚かなことをした飼い主を恨んで死んでゆけ。」
声には何の感情もなかった。だが、誰1人も生かしはしないという意思はヒシヒシと感じられた。その言葉をキッカケに私兵たちは我先にと走り出す。
「ギャアァァァァァァァァァ!」
「嫌だ!嫌だ!死にたく・・・」
「うぼえぇぇぇぇぇぇ!!!?」
次々に聞こえる悲鳴を聞きながら私兵たちは走り続ける。誰も助けようとは微塵にも思わなかった。彼らが思っていることは自身がこの地獄から逃げ延びることだけであった。
ミリーは、グレンが私兵たちを殺すところを目にしなていた。恐怖しグレンの行動に疑問を抱いた。
(いつものあいつなら、ここまで無意味な殺害はしない。)
ミリーは初めて会ったあの戦場を思い出した。確かにあの戦場では多く殺していたがそれは敵対した者だけで戦意を無くした相手には手を出していなかった。
(既にヘンゲルの私兵たちの戦意はどん底。それなのにあそこまでする理由は何?)
疑問を考えれば考えるほど疑問が浮かび上がってくるばかりだった。
また次、次とグレンは作業のように淡々とこなす。しかし、その内面では怒っていた。かつての仲間の血を繋ぐヒトを己のプライドのために殺そうとするヘンゲルに怨みにも近い感情があった。そんな屑の下で働く奴殺すのに何の躊躇いもなかった。気がつくと私兵の生き残りが門の近くまで近づいていた。
「逃がさんと言っただろう!」
グレンはノートゥングを槍を投擲するように構え、投擲した。投擲されたノートゥングから風を切る音が鳴り凄い速さで私兵に迫る。そんなノートゥング回避する間もなく背中に突き刺さりその威力を衰えることなく壁に激突しそこでようやく止まった。グレンは壁に突き刺さったノートゥングを回収し屋敷を見て足を進める。
「ミリー。悪いが先に帰ってくれないか?」
「いいけど、あんた大丈夫?」
「問題ない。どこにも怪我をしてないだろう?」
「そうじゃない!今日のあんた何か変よ!」
ミリーは、今日感じていた疑問をグレンに投げつける。
「どうして、そんなに怒っているの?ステロが殺されかけられたうえにその母親を攫らわれたから?でも、他人のためにそこまで怒れるとは思えない。教えなさいよ。あのヒトたちとあんたには関係は・・・」
「きさまには、関係ない」
それは明確な拒絶だった。とても冷たくそれ以上聞くのを許そうとはしない。
「・・・闇ギルドの残党がステロを襲うかもしれん。先に帰ってステロを守ってくれ。」
グレンは、それ以上は何も言わずヘンゲルの屋敷に向かう。
「・・・わかったわ。」
ミリーは、唇を噛み締めながら苦渋な声でグレンとは反対の方に足を向けた。




