64話私兵との戦闘
ヘンゲルの私兵の1人がまるで紙のように空を飛ぶ。私兵は、重力によってそのまま落ちていく身体のあちこちが変な風に曲がり生きていないのは誰の目からもわかった。
「さぁ、次に死にたいのはどいつだ?」
私兵を飛ばした異様な鎧を着た襲撃者がこちらを見て言い放つ。1人はまるで、暗闇をそのまま宿したような鎧を身につけドラゴンの顎をモチーフにした兜をかぶっている。右手には己を身長を超える大剣を持ちその大剣も鎧と同じ黒色に染まっていた。もう1人はボロボロの革鎧を身につけた女だ。私兵たちは、その男と女を囲むように陣取りしているが逆にそれ以上に動くことができなかった。
「数ではこちらが有利なんだ!!まとめてかかるぞ!!」
そう数では圧倒的に勝っている。相手は2人だ。普通なら簡単に終わる。
「援槍の陣で行くぞ!!」
兵の1人の掛け声に兵たちは即座に対応する。4人1組の即席のパーティを作り前に2人後ろに2人の並び襲撃者たちに向かう。援槍の陣とは、前の2人が最初に槍で攻撃しそれを防がれた場合に後ろの兵が即座に槍で攻撃する。最初の攻撃に気を取られた相手は対応できず攻撃を受けて死ぬ。賢者の二つ名を持った英雄が帰国した後に考案された。ペンドラゴンの攻撃の陣である。たが、ペンドラゴンはその後、中立を維持し続けたため、戦争になるようなことは無く。他国にはあまり知られていない。
男は、前の兵の槍を掴むことで防ぐ。すぐさま後ろの兵が槍で攻撃する。男は、対応できずに串刺しになるだろう
なるはずだった。
「ふん!!」
男は、槍を掴んだ両手で兵ごと持ち上げ槍で攻撃しようとしていた兵にぶつけた。槍は、前にいた兵を刺し貫き後ろの兵は突然の衝撃に受け身を取ることができずに首の骨を折って絶命した。
「援槍の陣か。確かに戦争のような多人数の闘いでは非常に強いだろう。だが、相手が少人数の場合だと簡単に対応できる。」
兵たちの空いた口が塞がらなかった。何故、この男は援槍の陣を知っているのかかの英雄が考えそして、他国には知られていない陣を。そう考えた後に身体に恐怖が走った。私兵たちはこう思った。
自分は、この化物に殺されてしまうだろうと。
「どうした?生まれたての子鹿のように足がプルプル震えているぞ?」
顔が見えたなら嘲るような顔をしているに違いない。憤りも私兵たちは感じない。いや、感じることができない。
「雇われの身とはいえ、戦士だろ?もう少し気概を見せたらどうだ?」
呆れた声で男が言うが私兵たちは動かない。既に、彼らに戦士としてのプライドなど存在しない。彼らにあるのは、目の前にある死への恐怖とこんな場所で働いていることへの後悔だった。兵士たちの反応を見て男はため息を一つ吐くと大剣を肩に担ぎ大きく一歩足を運ぶ。その時、何が風を斬る音がしたと思うと男が大剣を思いっきり振るう。大剣がその何かを弾く音がして男の足下に短剣が落ちる。
「言ってくれるじゃねぇの。侵入者さんよぉ?」
屋敷の奥から体に多くの短剣を装着している髪を短く揃えている男が出てくる。
「ゼルさん!!」
兵士の一人がその者の名前を言う。ゼル。ランクAに近いと言われていた元ランクB冒険者で三年前に来た飛竜を風の如く駆け短剣で倒した。その時に疾風のゼルという二つ名を手に入れる。その功績でこの屋敷で護衛隊隊長としての職についていた。
「ゼルさん!!」
「疾風のゼルがこれば、こっちのもんだ!!」
ゼルが来たことにより絶望していた兵士たちにも希望が見え始めていた。もしかしたら殺されずにすむかもしれないと。
「おめぇら、手ェだすなよ。こいつはおめぇらには荷が重いぜ。」
ゼルは、そう言って男の前に立つ。男は、黙ってゼルを見ている。
「よう。侵入者さん。ウチもんが世話になったな。」
ゼルはそう言って両手に短剣を構え。
「んじゃ、とっとと死にな!!」
両手の短剣を男に目掛けて放つ。男は大剣を盾のように構え短剣を防ぐ。防せがれたのを見るやゼルはすぐさま、後ろに回り込み短剣を放つ。男は大剣を大きく振るい弾く。
「へぇ・・・やるじゃねぇの?だったらこれは!!」
短剣を二本放つ男が、大剣で弾こうとした時に間髪いれずに後ろに回り新たに二本放つ。四本の短剣が男を挟みそむ形で襲いかかる。大剣は威力出せるがその分に振るのにどうしても遅くなる。ゼルは、その弱点を利用した。どちらからを防いだとしても反対側に対処はできない。瞬投。ゼルが最も得意とする技だった。女が悲鳴をあげてうずくまる。
「ふん!」
男は前に来る短剣を弾くと大剣では出せない速度で後ろから迫る短剣を弾き飛ばした。兵士たちに沈黙が走る。ゼルも驚愕を隠せずにいた。ナイフが落ちる音がやけに大きく響き渡る。
「ば・・・ばかな。このおれの瞬投が・・・」
自慢の技が目の前であっけなく打ち破れた現状にゼルは驚きを隠せない。
「いまの冒険者の実力を確かめようと思って手加減したが・・・」
手加減。その言葉でゼルは相手が自分を脅威として考えていなかったことを理解した。ゼルの中でプライドにヒビが入る。
「まさか、ここまで弱くなっていたとは。まぁ、今まで、戦争しなかったんだ。弱くなるのも仕方ないことか。」
「ふ・・・ふざけるな!!おれは元ランクBだぞ!そんな中でもランクAに近くにいたんだ!」
「・・・それで?」
「ひっ飛竜を殺したこともある!!」
男は、答えるのも面倒になったのか大きくため息をついて女の頭を殴る。
「痛った!」
「いつまで、蹲っているんだ。少しは働け。全部、おれがやってるじゃないか。」
女は、頭をさすりながら涙目で男を睨みつける。
「あんな、数無理にきまってんじゃない!!私はあんたみたいに化け物じみた力もってないの!!か弱い女なの!!」
「きさま、元軍人だろ。」
舐められている。ゼルの中で沸々と怒りが込み上げる。
「ふざけるなァァァァァァァァァ!!」
声を荒げながら短剣を手にかける。そして会話している2人に向けて短剣を放つ。
いや、放とうとした。
ゼルが、放のうとした瞬間にゼルの目の前に男が突如現れた。
(バカな!さっきまで話して・・・)
「怒りで何も考えることをやめた時点で弱い。最後にその屈辱感を憶えて死んでいけ。」
ゼルの最後の光景は大剣を振り上げている男の姿はある物想像させる。
「死神・・・」
それが元ランクB冒険者ゼルの最後の言葉だった。ゼルの身体は縦に裂け切断面から出た血しぶきが男の身体に被りおぞましい化物のように私兵たちは見えた。




