62話残忍
「先生・・・」
ステロが今にも泣きそうな顔をしておれを呼ぶ。見たところ怪我をした箇所は見られなかった。それを確認するとおれは、目の前にいる黒装束の奴らを見る。目しか見えないが明らかに怪しんでいる気配を出している。
「何のつもりだ?」
手を掴んでいた方の黒装束がおれに言ってくる。その言葉をよく言えたものだ。
「何のつもりだと?」
おれは、手に力を入れる。黒装束の腕がミシミシと音を立ているが黒装束は目を少し歪めるだけで声を出さない。
「おれの教え子を襲ってタダで済むと思ってないだろうな?」
「ツ!?」
黒装束は咄嗟に掴まれていない手で懐からナイフをもう1本取り出して鎧と兜の隙間を狙い突く。おれの喉を突く前に空いていた左手でナイフごとそいつの腕をへし折る。
「ぐ!!」
後ろに下がろうとするがおれが手を掴んでいて下がれない。逆に手を引っ張っる急な動きに合わせることができない黒装束は足が宙に浮いておれのところに飛んでくるのを右手に持っていたナイフを奪い取って黒装束の顔に刺す。顔にナイフを生やした黒装束はそのまま力を失い倒れる。
「チィ!」
残った黒装束は1人では勝てないと踏んだのか逃げようと走りだす。だが、誰1人として逃すつもりはない。おれは足に力を入れて思いっきり地面を蹴る。走る度にヒビが入っていくがそのことを気にすることはなく黒装束を追いかける。徐々に黒装束の背中が近づいきそして黒装束を追い抜き対面するように立ちはだかる。
「!?」
鎧を着た奴に追い抜かれるとは思っていなかったのかだろう走るのをやめてしまう。その隙に一瞬で黒装束まで近づき腹を殴って気絶させる。なぜ、気絶させたのかはこいつから情報を聞き出すためだ。グッタリした黒装束を肩に担ぎステロのとこ戻る。ステロはさっきと変わらない格好で地面に座っていた。
「大丈夫か?」
おれが声をかけると枷が外れたように涙をながす。男が泣いてはいけないと言わない。ただ、落ち着かせるために頭を少し撫でておく。頭を撫でながらこいつをどこで聞き出す場所を考えて自分たちがいるボロ倉庫にしようと決める。
「一体、何があった?」
おれが事情を聞くとステロは母親が連れ去られてしまっと泣きながら言う。母親を連れ去るとはとんだ外道だが、その行動にいささか疑問を持つ。
(母親を殺すのはわかる。だが、何故、連れ去った?・・・)
ステロを殺そうとして調べたら相手にとって母親も何か関係があった。そして、連れて去ったのだろうか。だとしたら、ステロの母親はまだ、生きている可能性が高い。おれの推測を話すとステロの目に希望が映る。
「先生、そいつどうするのですか?」
ステロは肩に担いだ黒装束を見ておれに聞く。
「こいつから、情報を聞き出す。きさまを殺そうとした奴の1人だ。何か知っているだろう。」
おれは、肩に担ぎながら倉庫へと足を向ける。ステロはそこで大人しくしてるよう言い含めたが自分の母親が危険なのにジッと待つことなんてできないと言い張り仕方なく連れていくことにした。倉庫に着き中に入ると中で寝ていたキリーを起こして倉庫の外に放りだしステロと共に待つよう言う。ここから先は子供には刺激が強すぎてしまうからだ。
「う・・・」
目が覚めて辺りを見渡すと知らない場所にいた。見た所、使われていない倉庫だろうか。手を動かそうとすると何かに後ろで縛られており身動きができない。足も見ると黒い鎖が巻きついている。
「何で、あたしはこんなとこに?」
確か、母親を依頼主に渡し子供は殺すという簡単な依頼だったはずだ。母親や家に帰った直後を襲い多少の抵抗はしたが眠らせて仲間が連れていき後は子供を殺すだけだったはずだ。
「そうか・・・あの時あの野郎に・・・」
そうだ。子供を見つけ殺そうとした時にあの野郎に邪魔されたんだ。全身、黒い鎧を身につけドラゴンの頭のような兜をつけていた騎士だった。依頼で何人かの騎士を殺してきたが、あんな不気味だと思った騎士は今まで見たことがなかった。そいつに仲間を1人殺され子供を殺すのは無理と判断して逃げ出したんだ。そして、気がついたら目の前にいてそこから記憶がない。もう1度辺りを見渡す。特に罠とか仕掛けられている様子には見えない。
「ようやく、起きたか。」
声のした方へ向くとあの時の騎士が立っていた。
「騎士様が、あんな子供の護衛に就いていたなんて聞いてなかったよ。」
「あいつは、おれの教え子だからな。」
あの子供は魔導学園に通っているはず。騎士学校の生徒なら教えるのはわかるが。魔導学園の生徒に騎士が教えることはあるだろうか。
「まぁ、おれのことはどうでもいい。今度はこちらから質問させてもらおう。」
来た。捕まっていたことを考えてくると予測ができていた。けど、だからといって全て話すわけにはいかない。例えどんな目にあったとしても。
「さて。まず、きさまが所属してるギルドについて教えろ。」
「犯されとしてもそれは言えないね。」
闇ギルドとはいえ仲間と依頼の情報はけっして漏らさない。これが、あたしたちギルドの鉄則。破ることは許されない。
「そうか。」
そう騎士は言うとどこからかナイフを取り出した。服を切り裂くためのものだろう。しかし、その予測は外れた。騎士はナイフを上に上げて。
思いっきり右足の小指を切り落とした。
「アァァァァァァァァァ!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
そのことだけで頭がいっぱいになる。あり得ない。いくら闇ギルドの一員だとしてもいきなり女をあたしを指を切るなんてそんな残酷なことすることができるなんて正義をかざしている騎士がしていいことではない。
「答える回数は指の数までだ。もし、余計なことを言った場合直ぐに切り取る。」
兜をして表情は見えないがおそらくとても残忍な顔をしてることだろう。
「さて、もう1度聞くぞ。きさまのギルドについて教えろ。」
とりあえずこの状況をどうにかしなくては。考えろ。考えんだあたし。この状況を打破するためには。
しかし、その考えはまた指を切られた痛みで考えられなくなる。
「さぁ、残り18本だ。」
ダメだ。考える隙も与えてくれない。
「たった助けて!誰かぁぁぁ!!
私は最後の抵抗として大声で助けを呼ぶ。こんな夜中でも声をあげれば誰か気づいてくれるはず。そうすれば・・・
「あぁ。大声を上げても無駄だぞ。音消しの結界をはっているからな。」
その希望も潰えてしまった。
「また、余計なことを言ったな。また、指を切らなければ。」
こいつには情というものがないのだろうか。そもそもこいつはヒトなのかさえ怪しい。音消しの結界なんて今まで聞いたことがないし、ヒトはここまで残忍になることなんてできるのだろうか。
「さぁ、選ばせてやろう。どの指がいい?」
その言葉はあたしには死神が笑っているように見えた。




