61話暗殺
エレイド家の屋敷居間
「このバカ息子が!!」
エレイド家当主ヘンゲル・エレイド。彼は並ならぬ才能を発揮し当代で最高幹部に登った実績を持っている。彼には珍しく憤慨していた。その理由は簡単で自分の息子が勝てる相手にも関わらず決闘で負けて帰って来たのだ。
「おめおめと逃げ帰りおって!!この恥さらしが!!」
そう言って、自分の息子であるリーオを殴る。鍛えられた肉体から放たれた拳は威力がありリーオは尻を地面につける。
「ですが父上!おれもまさかあいつがあんな魔術を使うなんて知らなかったんです!!」
殴られた頬をさすりながら涙目で訴える。
「言い訳なんぞ聞きたくない!!」
そんな息子に怒鳴りつけてヘンゲルは顎に手を当てる。
「こうなったら、なんとしても意向を取り戻さなくては・・・」
子供がやった決闘とはいえ負けた子を持つ貴族は大して力が無いと思われてしまう。かつて、貴族である魔術士が平民の魔術士との決闘で敗れそのせいで当時の教皇はその貴族を没落させたほどだ。ましてや、最高幹部を狙う貴族は多々いる。その息子が負けたとなれば格好のエサになる。そうなる前に何か手を打たなくてはならない。
「お前を倒した奴の名前は?」
ヘンゲルはリーオを見て負かした相手の名前を聞く。
「ステロ・アーチェフェクトです・・・」
「アーチェフェクト?」
ヘンゲルは、名字を聞いて顔をしかめる。聞いたことがあるからだ。
「よりにもよってあいつらか。」
ヘンゲルが学生だった時にステロの母親に無理矢理言いよってその時のステロの父親に決闘で負けた過去がある。その当時を思い出しさらに、怒りを込み上げる。
「確か、あいつの母親は魔術省にいたな。」
彼は、自分の家名を守るのと自身の地位を上げるためにありとあらゆる策を使ってきた。女性を使った魅惑的な策であったり暗殺などの残虐な策でも躊躇いもなく使った。ヘンゲルにとっては英雄の子孫というのはちょっと面倒だな程度でしかない。
「さて、我が家名を貶した罪は命で払ってもらうか。」
その言葉にリーオは冷や汗を流す。自身の父親が簡単にヒトを殺すことを考えているのだ。
「しかし、いくらなんでもやり過ぎかと・・・」
「黙れこのクズが!元はと言えばお前が負けたせいでこうなっているのだ!!」
そう言われるとリーオを何も言えなくなってしまう。
「それに、これは他の貴族共の牽制になるのだ。」
「牽制ですか・・・?」
「あぁ。そのために、そいつらには見せしめになってもらう。」
リーオは、自分の父親が如何に恐ろしい者か再認識した。次に、失敗したら息子とはいえ容赦しないだろうと。
「リーオ。お前もう自分の部屋に戻って大人しくしとけ。」
「・・・・はい。」
返事をして、リーオは自身の部屋に戻っていく。リーオが居間から出ていったことを確認するとヘンゲルは執事を呼ぶ。
「今、依頼できる暗殺者はいるか?」
「はい、鴉の贄がございます。」
この世界には冒険者ギルド、商人ギルドのような表のギルドではなく暗殺、誘拐などの裏稼業を生業とする闇ギルドがある。鴉の贄はその闇ギルドでも主に暗殺を主流としている。実力は確かでこれまで暗殺してきた者は優に100は超える。
「そうか、だったらそいつらに依頼をしろ。」
「数はどれほどで?」
「2人だ。ステロ・アーチェフェクトとその母親だ。」
「かしこまりました。すぐに手配いたします。」
「いや、待て。母親の方は俺の方に連れて来い。」
ヘンゲルは命令を変えて母親を連れてくるように言う。
「はぁ?かしこまりました。」
執事は命令の変更に疑問を持ちながらも特に聞くことなく居間を後にする。そして、居間にはヘンゲル1人になった。
決闘の件から1週間がたち熱りが冷め普通の生活に戻っていた。
「では、先生。今日もありがとうございました。」
「あぁ。気おつけて帰れ。」
あたりはすっかり暗くなりうっすらと辺りが見えるほどだ。
(母さん、帰って来ているだろうな・・・)
いつもは母さんが帰って来る前に戻れるけど今日はいつもよりも修行が長引いてしまった。
(結局、『スカーレット・ソード』以外はうまく発動できないし・・・)
先生のことは母さんにも内緒にしている。だから、簡単に話すことができない。なんて言い訳しようか考えている内に家が見えてくる。
「あれ?ドアが開きぱっなしになってる・・・」
あの用心深い母さんらしくないことだ。こんなこと今までに見たことがなかった。僕は妙な不安に駆られて急いで家に入る。入ると家の中は荒れており棚に乗せてあった書類などが散らばっており食器も床に落ちて割れていた。
「母さん?」
僕は母さんを呼ぶ。しかし、部屋は沈黙したままだ。
「母さん!母さんどこ!!」
いくら、呼んでも返事は帰ってこない。
「ステロ・アーチェフェクトだな。」
突如、後ろから低い声が聞こえ振り向くと黒装束を着た2人がいた。
「誰だ、お前ら!!」
「死ぬ奴に言う名はない。」
黒装束の1が懐から短剣を取り出し僕めがけて素早く振り下ろす。体術などやったことのない僕に避けれるわけがない。僕は死を覚悟して目を瞑る。しかし、その短剣が僕に届くことはなかった。目を開けると短剣が僕にあたる直前で黒装束よりも黒い手が短剣を掴んでいた。
「やれやれ、どいつもこいつもやろうとすることは同じだな。」
聞き慣れた声が聞こえて手がある方に向くとそこには先生がいた。




