第二部エピローグ
「お前達、よく頑張ったな」
ある日の昼休み、五十嵐先輩に言われた通り、紬と二人で伊藤先生にプレゼントの詳細を聞きに行った時のこと。開口一番、褒められた。
「あのポスターを見たときはヒヤヒヤしたが、その後の演説は見事だった。こういう才能もあったんだな」
えへえへ、そんなことないですよぉー。もう、先生ってばぁー。
俺は内心喜んだ。小さい俺がドンドコ小躍りしている。
「それで先生、五十嵐先輩から伊藤先生にプレゼントを預けてあると伺ったのですが……」
それに比べ、紬さんは冷静に誉め言葉を受け流していた。……イッツクール。
「ああ、そうだそうだ。プレゼントはこれだ!」
ドサッと机の上に置かれたのは、古いノートパソコンだった。
「生徒会でもう使わなくなった物を、お前達トポ部に譲るそうだ。これで論文でも書けってよ。相変わらず真面目な奴だ」
先生はニコニコ顔で俺達に渡してくる。しかし……なぁ?
「先生、パソコン貰っても置く部室が無いじゃないですか」
そもそも俺達は部室を奪還するために立候補したのだ。よく考えたら全くの敗北だ。
「部室なら元からあるだろ。ほら」
そう言うと先生は鍵を投げてくる。
「談話室はあそこの部屋よりもっと広い場所を見つけたから、あの部屋はお前たちにくれてやるってよ」
なんだと!! 五十嵐先輩のニヤケ面が目に浮かぶ。……ぐぬぬ、喜ぶべきなのに釈然としない。ぐぬー! なんか悔しいー!
俺が独り悶えていると、隣では紬が静かに立ち尽くしていた。……紬さん?
「そうですか……。では、私はみんなの居場所を守れたのですね……」
紬の声が嗚咽交じりになる。先生はその様子をみて頭をガシガシ掻いていた。
「だから言っただろ? よく頑張ったって」
紬は珍しく、泣いた。職員室中から拍手が湧き起こる。
俺は紬を抱き寄せた。拒否られた。
「まあというわけだ。早く連中にも教えてやれ」
伊藤先生は乱暴に俺達を職員室から追い出した。俺と紬で目を合わせる。
「きっと紬が泣き出したから気まずくなったんだ」
「……それは申し訳ないことをしました」
「みんなに連絡しよう。今日の放課後、部室前に集合って」
「では兄さん、お願いします」
おう! これは部長特権だ。嬉しい知らせを、いの一番に知らせることができる。
俺は皆にメッセージを送った。
放課後、部室前にはトポ部全員が集合していた。
「早くっ、早くっ、部室っ、部室っ」
「パーティー、パーティー、お菓子っ、お菓子っ」
大竹さんと星君が急かしてくる。うるせー!
いつの間にか全員、購買で好きなお菓子を山ほど買い込んでいた。おやつは三百円までって言ったでしょ!
「パーティーもやるけど、メンタルマップの検証をまだしてないわ。今日はそれをやりましょう」
「ええー、今日くらいはみんなで遊ぼうぜ。せっかくのお祝いなんだしさ」
雪白さんが真面目に活動を提案し、星君が負けじと応戦する。……やめとけ、睨まれるぞ……ほらぁ。
俺はそんな騒がしい連中を背後に、ガチャリと鍵を開けた。約二週間ぶりの部室だ。
「やりましたわー!! わたくしたちの勝利です!!」
「イヤッホー!! 俺の城だぜー!!!」
二人の馬鹿がはしゃぎ倒していた。その後ろで湯田さんが首を傾げている。
「小夜さんどうしました?」
紬が尋ねると、湯田さんはゆっくりこちらを向いた。
「何だか、以前より気が明るくなりました。所々、輝いて見えます」
湯田さんは不思議なことを言った。それに星君が反応する。
「それ、きっと神様だよ! この部屋に、役割を持った神様が生まれたんだ!」
「そうかもしれません。生まれたというより宿ったという方が正しいですが」
二人であちら側の世界の話をしている。でも神様か……紬もキラキラしてるし、きっと紬が呼びよせたんだな。
俺は妙な納得をしてしまった。
「それより、ティーセットを持って来ていませんわ! 今日はお茶会できません」
「明日持ってくればいいじゃない。私も読みかけの本、持ってこよっと」
「では自分はトレーニング用の木刀を置きましょう」
「なら俺は冷蔵庫が欲しい! 部費で買おうぜ」
「それなら僕はコーヒーマシンが良いな」
「せっかく神様が宿ったのです。入り口に豪華な表札を掲げましょう」
六家の面々が我がままを言い始めた。……これだから金持ちは。
「まずはパソコンの設置とネット環境の確認だ。他の電子機器はその後」
俺が部長らしく皆を窘める。部長らしく……良い響き!
「ホワイトボードも欲しいですね。話し合ったことをまとめるのに良さそうです」
紬も必要なものを言い始める。
「そもそも、部費っていくら出てるの?」
雪白さんが俺に尋ねた。俺はおもむろに、生徒会の名が印字された封筒を取り出す。
中から百円玉が数枚、こぼれ落ちた。
「今年度の予算は、三百円です」
トポフィリア研究部の部室は、静まり返った。




