↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
57/64

第二部三十七話

 それからは酷い時間だった。俺達と選挙管理委員会の間で、互いの主張を押し付け合うばかりの大混乱だった。伊藤先生が仲裁に入り、なんとか場が収まった。

 結果を言おう。

 俺達の抗議は認められなかった。渡部君の言う通り、抗議は規定で定められておらず、受け入れ態勢も無いとのことで、そもそも受け付けてもらえなかった。何とも頭の固い学校である。五十嵐先輩は「ここも変えなくちゃね」と言っていた。

 疑義を示した教職員は、山府義塾出身の、それはそれは愛校心が強い御仁だそうな。俺はそいつの授業を受ける際、何らかの形で復讐してやると誓った。紬を傷つけた報いだ。

 再選挙の結果、五十嵐先輩が生徒会長になった。演説では紬の意思を継ぐと力強く訴えていた。この学校は紬の思惑通り、少しずつ変わっていっている。

 あの日、放課後に呼び出してきた五十嵐先輩の用件は何だったのか。再選挙のゴタゴタで有耶無耶になってしまい、今となっては分からないが、生徒会長になった先輩は俺達に、プレゼントをくれた。

「この学校の新しい道を示してくれた紬さんに敬意を表して、あなた達にプレゼントを贈ったわ。詳細は伊藤先生から聞いて」

 生徒会長就任のお祝いに訪ねたところ、五十嵐先輩はそう言ってウインクした。ちょっとだけ素敵だと思ってしまった。……秘密だよ?

 何はともあれ、こうして俺達の闘いは幕を閉じた。正味四日間の短期決戦だった。

「番長になり損ねました」

 選挙が終わって数日経ったある日の放課後、紬と二人で廊下を歩いていると、紬は思い出したようにポツリと呟いた。

「番長じゃなくて生徒会長な」

 きっと物凄く悔しかったに違いない。でも俺は、当たり障りのない返ししかできなかった。あの紬が気落ちしている。どう励ましたものか……。

 元気になる言葉百選を頭の中で作っていると、紬は気を取り直したように上を見上げた。

「今回のことで、はっきり分かりました。私の居場所は生徒会室ではなく、あの部室なんだって。それに気付けたので、むしろ無効になって良かったのかもしれません。みんなとの絆が深まった気がします」

 紬さぁん……。なんて健気なんだ。そしてなんて可愛いんだ。俺は一生、紬を守ると誓うよ。

 君の人生に幸あれ。

 俺は紬の頭をワシワシ撫でてやる。髪が滅茶苦茶になるからやめろと怒られてしまった。

「そういえば一つ、報告があります」

 突然の報告宣言。何だろう。……彼氏ができたとかは止めてくれよ。

 ドッキドキで紬に向き直ると、ニコッとキュートな笑顔を向けてくる。……いと死ぬ。

「もしかしたら私、トポったかもしれません!」

「へ?」

「生徒会長になって、皆が集まる部室に行けなくなるって思った瞬間、凄く凄く寂しかったんです。あの部室ではもうみんな集まらないんだって。これって、部室が恋しかったってことですよね?」

「んー? それはトポったって言えるのか?」

「だって部室が恋しかったんですよ! つまり、部室に愛着が湧いていた。トポフィリアの完成です!」

 紬は嬉しそうにスキップしている。可愛い。まあ、何はともあれ元気になったなら良かったよ……。

 この春からずっと目標にしてきたものを手に入れた紬さんは、キラキラ輝いていた。

 いつのまにか俺達は、本館の階段まで来ていた。上ろうとすると、上の階から男女の話し声が聞こえてくる。カップルか?リア充爆発四散しろ。

 俺が呪いの言葉を心の中で叫んでいると、カップルの会話から聞きなれた名前が出てきた。

「この前の生徒会長選挙さ、あの外部入学の紬ちゃんて子、凄かったよね。あれって記録とかに残らないの?」

「んー、生徒会長として実働してないなら、記録には残らないんじゃないか?」

「じゃあ幻の生徒会長じゃん! カッコいい!」

 紬を見ると、口がニマニマしている。うんうん。嬉しいんだね。

「俺はそっちより、その兄の方がヤバいと思う」

 ……ん?

「六家全員集めた部活作って、その上、幻の生徒会長まで擁する組織を束ねてるんだぜ。実質もう裏番じゃん」

 ……おい、やめろ。

「あの感じだと生徒会長も今後、頭が上がらないんだろうな……。俺達も相田司には気を付けた方が良いかもな」

 なんでそうなる! 俺は普通のごく一般のどこにでもいるただの生徒だ!

 早く階段を上がって抗議しようと踏み出したその時、紬が俺の袖を引っ張った。

「兄さん」

「なんだい?」

「一人だけで裏番にならないでください」

 ……ごめんなさい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。