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第二部二十九話

 翌日、六月四日、木曜日

 今日の校門には、昨日の少女は見当たらなかった。

 SNSでの拡散などで騒ぎになり過ぎたのか、挨拶は自粛しているようだ。

 今日こそ少女の顔を覚えようと楽しみに登校した者にとっては、残念な朝だった。

 しかし、昇降口へ入ると状況が一変する。

 昨日の掲示板に、新しいポスターが貼ってあったのだ。

 昨日同様、二年生候補者のポスターを囲むように、ヤンキーのポスターが貼られていた。

 昨日と違うのは、やたらと種類が多いことだった。

 二種類や三種類程度ではない。恐らく二十種類近くのポスターが貼ってある。

 それが百枚ほど、ランダムに貼ってあるので目が回りそうだ。一枚一枚写真のポーズも違う。

 そして面白いことに、書いてある文言が昨日と異なっていた。


『六家? なにそれ、菓子メーカー? そんなことよりよぉ、俺達の山府、創らねぇ?』


『俺の代で、この喧嘩は終わりにする。 革命じゃボケェ!』


『会津を倒す? 馬鹿言ってんじゃねぇ、俺達が目指すのは、もっとでっけえ事だろ?』


『六家? おいおい、どこのどいつか知らねぇが、俺の縄張りにそんなちんけな括りはいらねぇんだよ!』


『俺に指図していいのは、お袋だけだ』


『てめぇ、どこ高だ。 なにぃ、山府義塾ぅ? 知らねえなぁ!』


『売られた喧嘩は、買う主義でな。歯ぁ食いしばれやオラァ!』


『先輩。てっぺんの座り心地はどうですか。明日から俺が座るんで』


『文句があんなら、俺に言え。てめぇの居場所くらい、てめぇで決めろ』


『全員まとめて来いや。名前覚えっからよ』


『喧嘩上等。遅刻厳禁。根性入れなおすんで夜露死苦』


『この学校、俺が締める。戸締まりの話じゃねぇ』


『才能を活かす? そんなのあたりまえじゃねぇか。わざわざ言うことじゃねえ』


『伝統も良いけどよぉ、一票貸しな。退屈しねぇ学校にしてやる』


『俺達の部室に手ぇ出したからには、やられる覚悟できてんだろうなぁ!』


『俺達が勝ったら部室は返してもらう。てめぇの小せぇ企みなんか、ぶっ潰してやる!』


『誇りってのはな、誰かの後ろに隠れることじゃねえ。テメーらの小せぇ誇りなんざ、吹けば飛ぶレベルの埃だぜ』


『てめえらの六家に依存した腐った根性、俺が叩き直してやるよ』


『俺についてこい。……投票所までな』


 滅茶苦茶に煽り散らかしてるポスターばかりが並んでいた。

 そしてやはり、その隅にはお決まりの文句が小さく書かれている。


『六家は相田紬さんを応援しています。相田さんに清き一票を』


 これには、多くの生徒が戸惑っていた。見方によっては、六家に喧嘩を売っているように見えるポスターなのに、六家が応援している。

 他にも、山府義塾そのものへ喧嘩を売っているようにも、そして大量の番長が中央の二年生候補者を煽っているように見えなくもない。これは相田紬から、六家や山府義塾、そして五十嵐葵への宣戦布告だと受け取った者もいた。


「ん? 六家を馬鹿にする内容なのに六家が応援してるの?」

「というか、俺達義塾生も煽られてないか?」

「学校を馬鹿にするとは、許せんな」

「この子、外部入学生の子でしょ? そんな子に山府義塾の何が分かるの?」

「やはり外部入学生など入れるべきではないのだ、山府の伝統が穢れる」

「伝統より新しいことしたいって言ってるのかな」

「この部室云々はなんの話をしてるの?」

「番長やるな。先輩に喧嘩売ってるぞ」

「いや、セリフ見ると喧嘩買ってる側じゃね?」

「ここまで来ると面白いのを通り越して、訳が分からないね」

「明日の演説何話すんだろ」

「散々煽ってるからな。暴動が起きなければいいが……」

「でもこっちの真面目なポスターより、このふざけたポスターの方が好きかも」

「わかる。選挙なんて面倒なだけだと思ってたけど、ここまでされたら逆に楽しみだよね」

「どっちにしろ喧嘩する気、満々ってことだな」

「やべー、明日の選挙楽しみだわ」


 掲示板の前には瞬く間に人だかりができた。皆、今のうちだからと一生懸命に写真を撮っている。

 俺と紬は、群衆に見付からないよう離れたところで様子を見ていた。

「まさか撮った写真全種類使うとは思いませんでした」

「紬が可愛くて、削れなかったんだ」

「はいはい……。兄さん、やっぱりああいうの作るの上手ですよね」

「へっ、よせやい……。照れるじゃねーか」

「はいはい……。でも狙い通り、賛否両論になってますね。皆さん、私に翻弄されてます」

「あそこまで煽って大丈夫か? さすがに身の危険を感じるくらい怒ってる人がいるのは看過できないぞ?」

「大丈夫ではないかもしれませんが、あのくらいやらないとこの学校の生徒は目が覚めません。革命を起こすのです。無傷ではいられませんよ」

「これからの学校生活にも影響が出そうだって言ってるんだけど」

「……大丈夫です。明日でひっくり返します」

「そうか……。お兄ちゃん、全力で守るからな!」

「ええ……。ありがとうございます」


 三十分くらい様子を眺め、そろそろ切り上げようとしたとき、背後に気配を感じた。しまった、紬の居場所がバレた……!

 緊張の面持ちで振り返ると、そこには五十嵐先輩が立っていた。普段以上にニコニコしている。

「あなた達、なかなか面白いことするわね。昨日から、私のポスターが埋もれてしまっているわ」

「一番目立つように、センターに置いてますよ?」

「紬さん、私はあなたがこの学校の現状を分かっているとは思えないのだけれど」

「入学したばかりですので。でも一つだけ、ハッキリ言える事実があります」

「……一応聞いてあげる」

「この学校は良くも悪くも、六家に依存しすぎです。そのせいでいろいろな方向に悪影響が出ている」

 紬の発言を聞いた先輩は、目を見開いた。普段の優しい先輩の顔は、そこにはなかった。

「なかなか本質を突いた発言ね。今日の昼休み、一緒にお昼を食べましょう。明日の勝負の前に、私の考えも、是非聞いて欲しいわ」

「わかりました。ではこちらは兄さんを連れて行きます」

「じゃあこっちも応援演説してくれる人を連れて行くわ。楽しみにしてる」

 そう言うと先輩は、やはり颯爽と廊下を歩いていくのだった。

「……大丈夫か? 五十嵐先輩、俺らを籠絡する気だぞ?」

「だから兄さんを連れて行くんです。私達が話している間、外側からの視点で情報を整理してください」

「そういうの苦手なんだけど」

「知ってます。だから連れて行くんです」

 最後の言葉の意味が分からないが、話を切り上げると紬は自分の教室へ帰っていった。昼休み……。早退しよっかな。


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