第二話
入学二日目の放課後。
俺は正面玄関で、妹と学校の初デートが始まるのを待っていた。
昨日から何度も考えているが、この付き添い、必要か?
ちなみに、クラスでは今日もボッチだった。……辛いよー。
「お待たせしましたわ!」
ぶつくさと不平不満を述べていたところへ、大竹さんが元気よく現れた。紬も一緒だ。
大竹さんは手に校内案内図を持っている。広げた紙には、いくつかの場所が赤い線で結ばれていた。
「本日のために、山府義塾の魅力を余すことなく味わえるコースを考えてまいりました」
「一晩で?」
「紬さんを必ず山府義塾に惚れさせると、お約束しましたもの」
……どうしよう。この仲人、確実に俺より本気だ。
当事者の学校は、今日も何も知らずに静かに建っている。
ぼぉくぅ、しょうかぁい、いらなぁい。
俺は山府義塾君の心の声を代弁してあげた。
「その前に、華恋さん。確認があります」
紬が神妙な面持ちで発言する。
「なんですの?」
「山府義塾さんは、入学試験で私を試しました」
「ええ。お二人は、記念すべき外部入学生ですもの」
「一方だけが相手を試すのは、対等なお付き合いではありません」
紬は真剣な顔で、それっぽいことを言った。
「ですから今日、私も山府義塾さんを試験します」
デートのはずが、いきなり学校が試される展開になる。……こういう、デートで男を試す女性、いるよね。俺は山府義塾君に同情した。デートの経験はないが。
「なるほど。筋は通っていますわね」
「通ってるか?」
「望むところです。山府義塾に、不合格となる要素などありませんもの!」
大竹さんは自信満々に胸を張る。
「華恋さんが、学校の代わりに答えるんですか?」
「当然です! わたくしは学校代表ですので!」
仲人だった大竹さんは、学校代表に昇格した。秀吉もビックリの出世速度だ。
「公平に判定します」
「結構です。必ずや合格を勝ち取ってみせますわ!」
いつの間にか少年漫画のバトル展開になった。山府義塾君との熱い友情でも見せてくれるのだろうか。地味に楽しみだ。
「それでは、最初の試験会場へ参りましょう!」
「デートコースじゃなかったのか?」
「どちらでも同じですわ!」
大竹さんは意気揚々と歩きだした。
最初に連れてこられたのは、武道館だった。
正面玄関から本館を回り込み、渡り廊下を抜けた先に、校舎とは別の大きな建物がある。
入口へ近付くにつれ、床を踏み込む音と、腹の底に響くような掛け声が聞こえてきた。
「中で戦争でもしてる?」
「稽古ですわ!」
大竹さんが扉を開ける。
広い剣道場では、防具を着けた生徒たちが竹刀を打ち合っていた。隣の柔道場からは、何人もの生徒が一斉に受け身を取る音が響いてくる。
入口のガラス棚には、優勝旗やトロフィーが隙間なく並んでいた。
「山府義塾は、全国でも有数の武道強豪校です」
大竹さんが、我が事のように胸を張った。
「剣道、柔道、弓道を始め、多くの武道系部活動が全国大会へ出場しています」
「華恋さんも、何か武道をしているんですか?」
「わたくしは、応援を専門としております」
「やってないんだな」
「強さを理解することと、自ら戦うことは別ですわ」
大竹さんは華麗に言い切った。戦ってもいないのに、全国を制したような顔をしている。
「紬さんは、入る部活動を決めていますの?」
「まだです」
「お兄様も?」
「昨日入学したばかりだからな」
「では早めに決めた方がよろしいですわ。山府義塾では、全生徒が必ず部活に所属する決まりですもの」
そういえば昨日のホームルームでそんなことを説明していた気がする。自分のボッチ事件ですっかり忘れていた。
「必ず?」
「はい。文武不岐が山府義塾の校是です。勉強も部活も、両方全力を尽くすのが、義塾生の務めですわ」
山府義塾君との交際二日目にして、なかなか束縛の強い相手である。……あ、まだ付き合ってないんだっけ?
「武道部でなければいけないんですか?」
「他の運動部でも、文化部でも構いません。十月には、運動部も文化部も関係なく、全校で参加する会山戦もありますわ」
「会山戦?」
「姉妹校の会津義塾と、六日間にわたって行う学校対抗行事です。文化祭や体育祭、学問祭、部活対抗戦といった分野で、宿敵会津をぶちのめすのですわ!」
なかなか怖いことを言う女子高生がここにいる。
ぼぉくぅ、あいづぅ、ぶちのめぇすぅ。
山府義塾君もやる気満々である。
「学校行事として重すぎないか?」
「それだけ大切なのです!」
山府義塾君にはライバルがいる。付き合い始める前から、相手のキャラと年間予定が濃すぎる。
「いかがです、紬さん。これほど頼もしい学校は、他にありませんでしょう?」
「強いことは分かりました」
「では、合格ですわね!」
「ですが、強いのは山府義塾さんではなく、生徒の皆さんでは?」
大竹さんの笑顔が止まった。心なしか、山府義塾君も静かになっている。だいじょうぶ?
「学校が竹刀を持つわけではないですよね」
「それは、そうですけれど……」
「私は、山府義塾さんについて聞いています」
学校代表、最初の難問である。頑張れ、大竹さん。
「生徒も含めて、学校ですわ!」
大竹さんは少し考えたあと、力強く答えた。
「建物だけが学校なのではありません。ここで学ぶ生徒も、教える先生方も、全員で山府義塾を作っているのです!」
「なるほど」
紬が頷いた。納得したのか?
「恋愛指南書には、相手の家族を知ると書いてありました」
「でしたら、生徒や先生方が山府義塾の家族に当たりますわね」
「家族、多すぎない?」
「歴史ある学校ですもの」
歴史の問題ではないと思う。歴代の家族全員に挨拶していたら、それだけで卒業できそうだ。
「次は、生徒の皆さんを知りたいです」
「承知しました。ちょうど次の場所なら、山府義塾で過ごす生徒たちの姿も見られますわ」
「次はどこですか?」
「学生食堂です!」
武道の次は食事だった。山府義塾君の振り幅は、かなり大きい。
学生食堂は放課後だというのに、多くの生徒で賑わっていた。
運動着姿の生徒が多い。部活動が始まる前に、腹ごしらえをしているらしい。
「初デートで食堂か」
ま、山府義塾君にはオシャレなレストランなんか予約できないだろう。俺はどうかって? ほら、俺は未成年だから……ね?
俺は無機物を馬鹿にした。そんな俺の小さな優越感も知らず、大竹さんが言い訳を始める。
「紬さんの『お付き合いの手順』には、一緒に食事をするとありましたでしょう? 学校とお食事といったら、学食だと思いましたの」
食券販売機の前まで移動すると、大竹さんは迷わずトマトアスパラガスカレーのボタンを押した。呪文みたいな名前のカレーである。
「おすすめはこちらです。わたくしも、中等部へ入学した日に初めて食べましたわ」
「思い出の味なんですね」
「三年間、まったく変わっておりませんわ」
「それ、褒めてる?」
「最初から完成されているのです!」
三人分の食券を買い、窓際の席へ座った。
トマトアスパラ(以下略)は具が大きく、量も多い。味も普通に美味しかった。学校への愛着はともかく、食堂への好感度なら爆上がりだ。悔しいが、料理上手な山府義塾君であった。
「華恋さんは、よくここで食べるんですか?」
「ええ。中等部の頃は、週に二度ほど、補習のある日に」
「補習前に腹ごしらえしてたのか」
「戦うには力が必要でしょう?」
「補習中、眠くなりそうです」
周囲からは、途切れることなく話し声が聞こえてきた。
隣の席では、中等部一年の頃に誰かが牛乳を盛大にこぼした話をしている。
少し離れた席では、去年の文化祭で作った看板が途中で倒れた話で盛り上がっていた。
どれも俺と紬の知らない出来事だった。
「皆さん、昔の話をしています」
「中等部から三年間、一緒に過ごしていますもの。この食堂だけでも、数え切れないほど思い出がありますわ」
「華恋さんにも?」
「もちろんです。こちらの窓際は、わたくしがよく使っている席ですの」
大竹さんが、少し得意そうに机を撫でた。
「一度、カレーを制服にこぼしましたわ」
「隣の席と大差ない思い出だな」
「わたくしは一度だけです!」
回数の問題らしい。きっと隣も、一度きりだぞ。
紬は、もう一度食堂を見回した。
「私は、その話に入れません」
「これから思い出を作ればよろしいのですわ」
大竹さんは、当たり前のように言った。
「紬さんは昨日から、山府義塾の生徒なのですから」
「これから……」
昔の話に入れないのは、俺も同じだった。だが、口に出せば兄妹まとめて世話を焼かれそうなので、黙っておいた。
紬は食べ終えると、俺と大竹さんのトレーまで重ねて立ち上がる。
「自分の分は自分で返すぞ」
「今日お付き合いいただいたお礼です」
なんて良い子なんだ。こんなレディに成長して、お兄ちゃん嬉しいよ。これは山府義塾君も惚れるはず。だろ?
俺は山府義塾君を睨んだ。……反応はない。相変わらずの木偶の坊だ。
隣を見ると、大竹さんが校内案内図を眺めてブツブツ言っている。まだデートを続けるつもりなのだろうか。
片付けを終えると、紬はいつの間に用意したのか、一通の封筒をテーブルへ置いた。
「贈り物です」
「誰に?」
「もちろん、山府義塾さんへ」
なんのこっちゃと思って見ていたが、あれか、恋愛指南書にあったやつ。
「まあ! 山府義塾への?」
「はい」
大竹さんは学校代表として、うやうやしく封筒を受け取った。封筒を開き、中の紙を広げると、目を見開いた。
「合格……!」
「何が?」
「山府義塾、一次試験合格ですわ!」
大竹さんが勢いよく立ち上がった。椅子が大きな音を立て、周囲の話し声が止まる。
「皆様、お聞きくださいませ! 山府義塾が、紬さんとの交際一次試験に合格しましたわ!」
食堂がざわめいた。やめろやめろ!
「学校が?」
「誰と交際?」
「一次試験?」
食堂中の視線を一身に浴びて、大竹さんが合格通知を見せびらかす。
「おいこら! やめろ! 声がでかい! あと発表するな!」
俺の必死の抵抗も虚しく、周りには人だかりができる。来るな!
大竹さんは合格通知を頭上へ掲げる。
「早速、校長先生へご報告してまいります!」
「待ってください」
紬が大竹さんを止めた。大竹さんはお預けされた犬のように、ソワソワしている。待て! 待てだぞー。
「一次試験に合格しただけです。試験は四次まであります」
どこぞの企業の就職試験のようだ。なかなか気難しい紬さんであった。
「では、まだ山府義塾には惚れていないと?」
「はい」
「即答ですわ!」
学校代表の初陣は、敗北に終わった。ドンマイ。でもまだ次があるよ。
試験がまだ続くと分かると、人だかりも解散した。「頑張れよー」とかいう人もいる。意外とノリがいい学校なのだろうか。
食堂を出たところで、紬がポツポツと総評を始めた。
「武道館では、生徒の皆さんが強いことは分かりました。食堂では、カレーが美味しいことと、華恋さんが学校を好きなことも分かりました」
「それだけですの?」
「はい」
紬さんは容赦がない。
「一日かけて何も進展していませんわ! 好感度が上がったのはカレーだけですの!」
「壁に耳を当てていたときよりは進んでるぞ。たぶん」
妹と学校の交際が進んだことを喜ぶべきなのか。世界のお兄ちゃん、答えを教えてくれ。
「では、次のデートコースを考えませんと」
大竹さんは無駄に前向きだった。
「まだデートを続けるのか?」
「当然ですわ。次こそ紬さんを――」
『一年生!』
突然、廊下の向こうで野太い声が炸裂した。
『部活が決まっていない一年生はいないか!』
……なまはげかな?
食堂へ入る前まで静かだった本館に、色とりどりの集団が流れ込んでくる。
道着。ユニフォーム。楽器。絵筆。なぜか巨大な天体模型を抱えた生徒までいる。
「なんだ、あれ」
「部活動勧誘ですわ」
「ずいぶん殺気立ってないか?」
「会山戦へ向けた戦力補強ですもの」
高校の部活動を、球団経営みたいに言わないでほしい。謎のイベント会山戦は、そんなに大事なのか。
剣道着の男子生徒が、俺の前で足を止めた。
「一年生だな。剣道の経験は?」
「ありません」
「そうか。悪かった」
あっさり去ろうとする。
「待ってください!」
なぜか紬が呼び止めた。
「兄さんには、集中力があります」
……紬さん?
剣道部員が振り返る。
「どのくらい?」
「私を十五年間、見守り続けています」
「それは集中力なのか?」
「継続年数の実績はあります」
剣道部員が俺を眺め、ニコリと笑った。
「長時間、集中できるんだな」
「いえ、そんなことないです」
「私が迷子になったときは、三時間捜してくれました」
近くを通りかかった陸上部員が止まった。
「三時間?」
「兄さんは途中で諦めません」
「……長距離、興味ない?」
「ありません」
「さらに兄さんには行動力もあります」
「やめろ、追加しなくていい」
「幼稚園のころ、私を泣かせた男子の家へ一人で話をしに行きました」
登山部員が止まった。
「度胸もあるのか」
「紬、もう俺を褒めるな」
「ですが、兄さんが正当に評価されていません」
「今まさに過大評価され始めてるんだよ!」
三つの部が俺を囲んだ。
「剣道なら集中力を生かせる」
「三時間動けるなら陸上だ」
「その度胸と行動力は登山向きだろ」
「「「本人の希望は?」」」
三人が俺を見る。
「帰宅部です」
「「「帰宅部は認められていないぞ!」」」
逃げ道まで塞がれた。
「お兄様、大人気ですわね」
こいつ、人が包囲されてるの見て楽しんでやがる!
「大竹さん! 見てないで助けてくれ!」
「わたくしは、紬さんと山府義塾の仲を取り持つ役目ですので」
「兄は業務の対象外か!」
しょうがない――!
俺は紬の腕をつかみ、三人の隙間を抜けた。
「あっ、待て!」
「妹も一年生だ!」
紬のせいで面倒なことになった。いくら妹大好きスマートガイな俺でも、逃げるしかない!
俺は紬を連れて走った。走って走って、走りまくった。そしてなぜか大竹さんも付いてくる! いや邪魔!
階段を下りれば運動部。廊下を曲がれば文化部。引き返した先では、合唱部が横一列になって校歌を歌っていた。
「完全に退路を断たれたぞ!」
「いい歌ですわね!」
「鑑賞してる場合か!」
俺達は合唱部を突っ切り、渡り廊下へ飛び出した。
渡り廊下から見える中庭では、数え切れないほどの部活動が新入生を呼び込んでいる。
旗を振る者。技を披露する者。作品を掲げる者。誰もが大声で、自分達の活動を語っていた。
「紬、止まるな!」
紬は中庭を凝視している。俺が腕を引いても、顔すらこちらへ向けなかった。
「皆さん、楽しそうです」
「今、それどころじゃないんだけど」
背後を振り返ると、追ってきた三人は、もう別の一年生を囲んでいた。切り替えが早い。
俺も足を止めた。紬は息を切らしながら、ゆっくり喋りだす。
「自分達の部活動の話をするときです。皆さん、本当に楽しそう」
紬に言われて中庭を見てみる。確かに、喧騒の中で、どの部も必死に声を張り上げていた。誰もが楽しそうに笑っていた。
柔道部員が、創立以来使われている古い道場を誇っている。
吹奏楽部員は、音楽室から見える夕日が一番綺麗だと言い張っている。音楽で勝負しろ。
美術部員は、旧校舎の壁についたペンキを歴代部員の伝統として紹介している。いや、あれはただの拭き忘れだろ。
「華恋さん」
「なんですの?」
「華恋さんは、学校を好きになるために、食堂へ通っていたんですか?」
「いいえ。補習の前にお腹が空いていただけですわ」
「じゃあ、あの席を特別な場所にしようと思って、座っていたわけではないと」
先ほど、愛おしそうに食堂の机を撫でていた大竹さんを思い出した。
「そんなことは考えておりませんでした。気づけば、いつもあの席に座るようになっていただけですわ」
紬は再び、中庭へ目を向けた。
「あの人達も、学校を好きになるために部活動をしているわけではありませんよね」
「そりゃそうだろ」
「でも、道場や音楽室を大切そうに話しています」
紬は中庭を見たまま黙った。やがて、小さく頷いてから口を開く。
「学校とラブラブ大作戦では、駄目なのかもしれません」
……紬が正気に戻った。ようやく、山府義塾君とは恋愛できないと気付いたか。
安心して声をかけようとした瞬間、隣で大竹さんが校内案内図を床に落とした。
「まだ一日目ですわ!」
そうだった。この人もだいぶ本気だった。
「期間の問題ではありません」
「遠距離恋愛でも、三日は頑張りますわよ!」
「距離の問題でもありません」
大竹さんも真剣だが、紬はもっと真剣だ。
「私は、恋愛指南書どおりに行動すれば、学校を好きになれると思っていました。でも華恋さんは、好きになるために食堂へ通ったわけではありません」
「そうですわね」
「好きになろうとしたのではなく、気づいたら好きになっていた」
風に乗って、吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。
「どうして人は、場所を好きになるのでしょう」
紬は髪をなびかせながら、静かに呟いた。
その疑問に、大竹さんも俺も答えられなかった。
「私も、いつか山府のどこかを、あの人達のように大切そうに、愛おしそうに語ってみたいです」
紬の瞳は、中庭の向こうに続く、山府の山並みを捉えていた。山肌に残る白い雪。昨日より暖かい今日。俺達がまだ知らない山府の春が、芽吹き始めている。
「結局、試験はどうしますの?」
紬と俺が感慨にふけっていたところに、大竹さんが割り込んできた。空気を読んで欲しい。
「中止します」
紬は即答した。大竹さんはよよよと大袈裟によろめく。
「学校代表として試験を突破し、交際を申し込む前に振られましたわ……」
「そんな仕組みだったのか……。大丈夫。たった二日、傷はまだ浅い」
俺は大竹さんを最大限に労わった。お疲れ様です。
「兄さん」
いきなり紬が俺に向き直った。何だか嫌な予感がする。
「部活動を作りましょう」
「おい、どうしてそうなる?」
「私は学校や山府の何を好きになるか分かりません。分からないので、もっといろいろなことをして学校や山府を体験したいです。どうせ部活動には入らないといけません。なら、自分で作ります」
「……それってどういう理屈? どこかの部活に入るのじゃ駄目なのか?」
「今ある部に入れば、道場や音楽室を好きになれるかもしれません。でも、それでは好きになる場所を先に決めることになります。私は、山府のどこを好きになれるのか、何を好きになるのか、これからじっくり探したいんです」
「……壮大で我がままだな」
「お兄様も入ってくださいますよね?」
いつの間にか復活した大竹さんが聞いてくる。……というか、なぜ勧誘側にいる?
「はい」
答えたのは俺ではなく、紬だった。勝手に返事をしないでほしい。
部活動勧誘から逃げ切ったはずの俺は、妹が作る正体不明の部活動に捕まった。
たぶん本日、最も厄介な勧誘だった。




