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第二部六話

 全員が部室から出たことを確認し、施錠して職員室へ向かおうと歩き始めると、なぜか全員ゾロゾロついてくる。……なんだよ。

「もう帰って大丈夫だよ?」

「いえ、部活の今後の方針を決めるのなら、大事なことなので付いていかないと」

「そうですわね、わたくしたちの今後のことですもの」

「俺と小夜は、入部届を貰わないといけないしね」

「あ、結局二人とも入部してくれるんだ」

「渡部さんが入部するのでしたら、私達二人も入って差し支えないかと思いまして」

 ほーん。よく分からんが、皆やる気になってくれて良かった。これからはこの八人で活動していくのか……。三人で始まった活動も、随分大きくなったもんだ。

 ちょっとした感慨に浸りながら職員室の扉を開けると、伊藤先生は女子生徒と何やら相談事をしていた。

 声を掛けるタイミングを見計らっていると、伊藤先生がこちらへ気が付く。

「すまん、トポ部の奴らがゾロゾロ来やがった。ちょっとだけ時間貰っていいか」

「はい、大丈夫です」

 伊藤先生に手招きされ、全員で向かう。なぜか女子生徒を包囲するようになってしまった。職員室中の視線が集まってくる。……なんか恥ずかしいな。

「お前ら全員で来るな。狭いだろうが。で、なんだ? なんかやらかしたのか?」

「いえ、湯田さんと星君が正式に入部したいそうなので入部届が欲しいのと、今後の活動方針で相談がありまして」

「ああそうか。今、他の相談事をしていてな。悪いが廊下で待っていてもらえるか?」

 伊藤先生は入部届を渡しながら女子生徒を気遣った。

「いえ、先にそちらの相談事をしていただいて構いませんよ。私のは急ぎではないので」

 女子生徒の申し出に俺達一同は安堵していたが、伊藤先生は怪訝な表情を浮かべている。なんだろう。都合が悪いことでもあるのだろうか。

「申し遅れました。私、生徒会副会長で二年一組の五十嵐葵と申します。今度の生徒会長選挙に立候補する予定なので、お見知りおきください」

 五十嵐先輩は丁寧に挨拶をしてくれた。品行方正を絵にかいたような印象を受ける人だった。

「初めまして、トポフィリア研究部部長の相田司です」

 俺も先輩を見習って、丁寧に挨拶してみた。すると、隣にいた紬が突然前に出る。……紬さん?どうされました?

「代表の相田紬です」

 あらまあ! この子は何を言い出すのかしら。部長がいるんだから代表はいらんだろ。

 すると今度は大竹さんも身を乗り出す。

「リーダーの大竹華恋ですわ!」

 ちょっ、ん?

「では、主将の室井武尊です」

「んじゃ、キャプテンの渡部弘人です」

「それでしたら、座長の湯田小夜です」

「えっ……じゃ、じゃあ、団長の星時彦です。ヨロシク!」

「皆、馬鹿ばっかりね…………。総長の雪白六花です」

 うん。こいつら全員、自分が一番上だと思ってやがる。こうなったら仕方がない。……誰が一番上か、ここでハッキリさせてやらぁ!

 俺は少年マンガの如くバトルをスタンバっていると、伊藤先生の盛大なため息が聞こえて来た。

「……で、部長。相談ってのはなんだ?」

「あっはい」

 おふざけは程々に、俺達は先生に向き直った。五十嵐先輩は口元を押さえて笑っている。楽しいですか?

「テスト明けの活動について考えていたんですけど、なかなか候補が決まらなくて。皆の普段の放課後から、研究に使えそうなことを探してみたんですが……」

「なるほどな……。そもそもお前ら、トポフィリア研究の手法をちゃんと把握しているか? こういった学術的なテーマを扱う場合、まずは先行研究を調べて、ある程度理論や手法を叩き込んでから自分たちの活動に落とし込む。その面倒な部分を無視していては、いつまで経ってもまともな活動はできないぞ」

 俺達は全員、返す言葉もなく黙ってしまった。なるほど、知識があるだけではなく、それを活用する方法も学ばないといけないのか。勉強になるなー。

「とは言っても、楽しい活動を通して学ぶのも悪いことじゃない。論文講読は追々やるとして、まずは単純に、外を歩いてみろ」

「この前のような案内をそれぞれでやるんですか?」

「いや、今回の場合は既に活動目的が決まっているから、より具体的に成果が残るようにしたい。誰かに町を案内してもらって、案内される場所について行く前と後でどう思ったか記録して比べろ。ただ歩いて帰るより、何が変わったか確かめられるだろ。あとはお前らで考えろ」

 ふむ。相変わらず分かりやすいようで全く分からない。すぐに答えを言わないのは教師の性なのだろう。まったくもう。

「じゃあ先生、案内してください」

「嫌だ」

「この前は引率してくれたじゃないですか!」

「そもそもあれは休日出勤だったんだ! もう部活になったんだから、自分達でやれ」

 いや、普通は部活になったからこそ引率が必要だと思うのだが……。

 どうしたもんかと考えていると、五十嵐先輩が口元に笑みを残したまま手を挙げた。

「それでしたら、私がご案内しましょうか。町の古い建物や通りでしたら、いくつかご紹介できますよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 俺は申し出に素直に喜んだが、伊藤先生は先程よりも一層怪訝な表情を浮かべている。……なんだろう、嫉妬してるのか?

「じゃあ具体的なことはテスト明けに決めるということでよろしいでしょうか。我々は旧生徒談話室で活動しておりますので」

「はーい、じゃあテストが終わったら行きますねー」

 なんて優しい先輩なんだろう。この優しさ、雪白さんは見習うべきだ。絶対に。

 俺達は先生と先輩にお礼を言うと、帰路についた。


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