第二部七話
テスト期間中の談話室開放は、ある意味大盛況だった。
ある意味とはどういう意味か。つまり、トポ部以外、談話室を覗くだけ覗いて、誰も中に入らなかったのだ。
連日、談話室の前には人だかりができていた。しかし皆、入口の隙間から中を覗き込んでいるだけで、誰も入ろうとしない。まるで修学旅行で浮かれた男子が女子風呂を覗いているかのような状態だった。覗かれる身としては、非常に落ち着かない。
「あの、ここ開けておきますので、ご自由にどうぞ」
見かねた俺は、入り口が閉まっているから入りにくいのかと思い、開けっ放しにしてみた。すると今度は見物人が増えていった。入れ代わり立ち代わり、次々と生徒がやって来ては、「すげー」だの「初めて見たかも」だの呟きながら、中を覗いて去っていく。中等部の生徒までいた。……え、この人たち何なの?
「だから、どうせ誰も来ないって言ったでしょう?」
雪白さんが勝ち誇ったように呟く。……もしかして皆、雪白さんが怖くて中に入れないのか? 皆さん! この人こんなんですが、ツンデレなだけなんです! デレるとちゃんと可愛いんです! ……滅多にデレませんが。長い目で見てやってください!
俺は入り口を見ながら、ツンデレっ子「雪白六花」の魅力を心の中で叫んだ。俺と目が合った生徒は、「ヒエッ」といって逃げていった。
「……雪白さんが追い出したんでしょ」
「失礼ね。私はそんなことしないわ」
「でも他に理由が思いつかない……」
「……本当に失礼ね」
雪白さんがこちらを睨む。ほらぁ、そういうことするから誤解されるんだよー。
「まあこの結果は予想できたよね」
俺と雪白さんがじゃれ合う横で、渡部君がノートを広げながら吐き捨てる。やっぱり雪白さんのせいか。
「彼らはただの物見遊山で来ているだけで、どうせ入ってこれない。僕らは部室と変わらず使用できる。最高じゃないか」
うーん、物見遊山する意味が分からないが、これは渡部君の思惑通りだったということなのだろうか。室井君や星君、湯田さんの反応を見ても、特に気にしている様子はない。紬は相変わらずマイペースに勉強している。
「そんなことより、わたくしに勉強を教えてくださいませ」
結構真剣に考えていたところに、大竹さんが必死の形相で訴えてくる。……なんか怖い。
面倒だが見捨てるわけにもいかず、結局勉強を教えることになった。皆それぞれ自分の勉強もあるので、特進クラスの俺、雪白さん、渡部君のローテーションで大竹さんの面倒を見ることにした。
しかしこの子、マジで勉強が苦手なんだな。何が分からないか分からないとか言っている。暗記系くらい自分で何とかできるだろうに……。それにしても、先月の部活動案内では、あの大量の部活動の内容をほぼ把握していた。頭が悪いわけではなく、頭の使い方が悪いのだろう。
俺はまず、何に躓いているのか把握するため、学習内容の全体像が俯瞰できる図を描いた。
「今やってる単元はここ。そしてこれから、こういう勉強をしていく」
俺は描いた図の上をなぞり、学習するルートを示してやる。
「最終的にこういう問題を解けるようになりたいから、その前提になる知識を身に付けるために、こういう順番で学習するようになってる。ここまでお分かり?」
「は、はい……」
「んじゃ、この図あげるから、このガイドに沿って問題を解いて。分からないことがあったらまた質問して」
程よく突き放し、自分で考えさせる。結局、人が何かを身に付けるには、自分で考えて行動するしかないのだ。
…………ああ、そうか。伊藤先生はそのために部活動の説明を曖昧にしてるのか。
「なんか悔しいな」
思わず声に出てしまった。
「ご、ごめんなさい……」
なぜか大竹さんがビビってる。……この感じ、新鮮でいいね!
俺はわざと咳払いしてみた。
「ゴホンッ」
「ヒィッ」
おほっ……イイね!
「ヴホンッ」
「ヒィッ」
……ふふっ、最高……。
思わず頬が緩んだところで、後頭部をベシッと叩かれた。振り返ると、雪白さんが心底呆れたような、冷たい顔でこちらを見ている。
「追い出されたいの?」
…………ごめんなさい。
やっぱり雪白さんが怖くて皆入ってこれないんだな。……俺はそう確信した。




