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第52話 皆への報告

 翌日、学校にて。


 昨夜LIME(ライム)でも報告はしていたが、あらためてマリアにお礼を言いに行った。


「ずっとじれったいな、って思っていたのよ」


 彼女は、まるで自分のことみたいに喜んでくれた。


「私一人じゃ自分の気持ちに向き合うことはできなかったと思う。目を覚ますことができたのは皆のおかげだよ」


「背中を押した甲斐があったというものね」

 

 マリアは目尻に浮かんだ涙をぬぐう。完全に保護者目線だ。


「これは盛大にお祝いしなくちゃね」


「え、いいよわざわざ」


「そうです、全っ然めでたくありません!」 


 ひどく憤慨した様子で桃ちゃんが現れた。

 いつもならマリアの言葉を全肯定するはずの彼女が、今日はハンカチを握りしめて震えている。

 

 桃ちゃんは悔しそうに地団太を踏んだ。廊下を行く生徒たちが、何事かと振り返る。


「きいぃっ。わたしの先輩が、男なんかに奪われるなんて!」


「奪われるって……」


「同感だ。珍しく気が合うじゃねえか」


 今度は巴君まで現れた。

 光を失った瞳が、恨めしげに私を責め立てている。


「ひどいじゃないっすか。市之瀬のことは別に好きじゃない、って言ってたくせに」


 うっ。これはかなり怒っているかもしれない。


「ご、ごめんね」

 

 お前の話は聞きたくない、と言わんばかりに巴君はそっぽを向いてしまう。


 巴君には申し訳ないことをしてしまったな。もっと早く自分の本音を認めていれば、彼を突き放すこともできたのに。

 

 ……結局、傷つけてしまうことには変わりないのか。


 巴君とは対照的に、桃ちゃんはあっさりと現実を受け入れたようだ。私の手を握ると、潤んだ瞳で見上げてくる。


「せんぱぁい。たとえ彼氏ができたとしても、これからもわたしと一緒に遊んでくださいね」


「うん、もちろん」


「やった! その言葉、忘れないでくださいね」


 とろけるような甘い笑み。桃ちゃんは本当にかわいいなあ。


 チラチラとこちらの様子を窺っていた巴君も、遠慮がちに手をあげる。


「それならおれも――」


「お前はダメだ」


「!?」


 まさか清隆君までやって来るとは。


 清隆君は私と巴君の間に割って入ると、きっぱりと告げる。


「いろはは俺の彼女になったんだ。他の男を近づけるわけにはいかない」


 ――こんなに冷たい目をした清隆君、初めて見た。


 私はゴクリと喉を鳴らす。


 清隆君と巴君は何度も火花を散らしていた。あの時は理由がわかっていなかったが、ずっと私を巡って争っていたのだ。


 ……自分で言って恥ずかしくなってきた。少女漫画のヒロインなんて、私の柄じゃないのに。


 いけない、突っ込んでいる場合ではなかった。


「……」

 

 巴君はもまた、殺意のこもった視線で清隆君を睨みつけている。そのうち殴りかかるんじゃないか、とはらはらしてしまうほどだ。喧嘩になったら清隆君に勝ち目はない。


 だけど、清隆君は一歩も怯まなかった。瞬きすらせずに、真正面から巴君の怒りを受け止めている。


「……っ!!」


 やがて、勝ち目がないことを悟ったのだろう。

 巴君は苦しそうに顔を歪めると、逃げるように去ってしまった。


「……ふぅ。さすがにビビったな」


 清隆君がそっと息を吐く。

 必死に恐怖を押し殺していたのだろう。平静を装っていはいるが、顔が青ざめていた。

 それでも、もう大丈夫だから、と私を気にかけてくれる。


 しかし私は、どんどん小さくなっていく巴君の背中から目が離せなかった。

 この前みたいに自暴自棄になってしまうのでは、と思うと心配だ。でも、私には彼を追いかける資格はない。

 

 そんな私の肩を、マリアは力強く叩いた。


「安心して。彼のことは私が気にかけておくわ」


 これでも陸上部の部長なんだから、とマリアは軽くウインクをする。彼女の隣では、桃ちゃんもうんうんと頷いていた。


「あいつ、最近は真面目に練習しているんですよ」

 

 その後二人から聞いた話では、巴君は真面目に学校に通い、今まで以上に部活に打ち込んでいるらしい。

 きっともう、彼は大丈夫だ。

次回、最終回です!

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