表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/54

第39話 不穏な気配

「ん?」

 

 休日。

 いつものようにベッドの上でスマホをいじっていた私は、気になる見出しを発見した。


『須合あやめ、娘の文化祭での私服ショットを大公開』


 週刊誌が提供しているネットニュースの、ごくありふれた記事。それなのに目を引いてしまうのは、話題になっているのが私のお母さんだからだ。

 

 記事に飛ぶと、プライベートとは思えないほどに芸能人オーラを放っているお母さんの写真が掲載されていた。見覚えのある、しかしどこか違和感のある一枚。

 

 それもそのはず、この写真は私と一緒に撮ったものだった。私が写っている部分が切り取られているため、この前見た時よりも縦長になっている。


「……」


 無性に嫌な予感がして、写真の出所であるお母さんの個人SNSを確認する。

 該当の投稿を見つけた瞬間、私は思わず天を仰いだ。

 

 お母さんの投稿には『久しぶりの娘とのツーショット♡』とあった。

 私の顔はスタンプで隠されているが、背景には「青雲祭」の垂れ幕が写り込んでいる。少し検索すれば高校名は簡単に特定できるだろう。


 コメント欄にはそのことを指摘する声もあるが、お母さんは気づいていないようだ。というか、いちいち見ていないのかもしれない。


 ――そうだった。お母さんはネットリテラシーがカスなのだ。


 私はすぐにお母さんへ電話をかけた。つながらない。もう一度かける。やはりつながらない。


「ああ、もう……!」


 焦燥感ばかりが募っていく。


『あら、いろはちゃんどうしたの?』


 三回目でようやくつながった。電話口からはお母さんの、のほほんとした声が聞こえてくる。


「どうしたの、じゃない! 写真よ、写真! SNSにあげたやつ!」


『写真? ああ、文化祭で撮ったやつかしら』


 事の重大さを理解していない、のんびりとした口調。私はついイライラしてしまった。


「あれ、すぐに消してほしいんだけど」


『えー? せっかくよく撮れていたのに』


「そういう問題じゃない! 私が特定されたら困るの」


『特定? できちゃうの? ……まあ、いろはちゃんがそこまで言うなら仕方ないわねえ。今撮影中だから、終わってから消すね』


「今すぐ消して! 早くしないと拡散しちゃうから」


『はぁい』


 わかってるのかいないのか。曖昧な返事とともに電話は切れてしまった。正直、これだけでは不安だ。ものすごく不安だ。

 

 私は次に、お父さんへも電話をかけた。


『どうしたんだ、いろは。お父さんの声が聞きたくなったかな?』


 こちらはなんと、一度目のコールで出てくれた。両極端だ。


 私が事情を説明すると、お父さんはしばしの沈黙の後、長い長いため息をついた。きっと電話口の向こうでは頭を抱えているのだろう。


『……わかった、この件はお父さんが何とかしよう。投稿を消せないか圧力をかけてみる。お前は何も心配しなくていい』


 ちょっと物騒な単語が聞こえてきた気もするが、お父さんに任せておけば大丈夫だろう。


   ◇◇◇


 お父さんの圧力のおかげか、一時間後にはSNSの投稿は削除されていた。

 

 しかし、一度流出した情報は完全にはなかったことにできない。

 念のためネットを巡回すると、問題の写真が匿名掲示板に転載されているのを発見した。


『須合あやめの娘って昔、赤ん坊の頃ドラマに出てたよね。かわいかったなあ』


 うわあ、早速私の話題が出ている。ドラマに出ていたことは黒歴史だ。できれば早く忘れてほしい。

 ちなみに赤ちゃんは誰でもかわいいと思う。


『へえ、もう高校生なんだ。時間がたつのは早いなあ。どんな感じに成長したんだろう』


『噂だと微妙な顔をしているって話だぞ。まあ、父親がアレだからなあ』


『そりゃあ「あの」須合あやめの前じゃ誰だって霞むでしょ』


「……」


 見なきゃよかった、と後悔の念が頭をよぎる。見ず知らずの人間に容姿をとやかく言われるのはあまり気分のいいものじゃない。


 だが、そんな暗い気持ちはすぐに吹き飛んだ。


『青雲祭ってことは、未来ヶ丘高校かな? K県の』


 驚きのあまりスマホを取り落としそうになった。

 

 いかん、もう特定されている。


『え、マジ? 近所じゃん。通勤中に須合あやめの娘とすれ違っていたかもしれないってこと? うわ、興奮してきた』


 画面をスライドする指先が震えている。手の平には汗までにじんでいた。


『須合あやめが出産したのって〇〇年だよね。ということは、今二年生か』


「なんでそんなこと書き込むんだバカ――!!」


 私は怒りでスマホを放り投げた。


 バカ!? バカなの!? そんなこと書き込んでなんのメリットがあるの?


 ベッドの上に転がったスマホの画面には、さらに恐ろしい書き込みが表示されていた。


『ちょうど仕事やめたばかりだし、暇つぶしに須合あやめの娘探しに行こっかなー』


『おいwww』


『事件だけは起こすなよwww』


「えっ……」


 もしかすると、ただの冗談かもしれない。でも、ネットにはバズるために手段を選ばない連中が山ほどいる。そんなやつらに目をつけられたら、私だけでなく他の生徒にまで迷惑がかかるかも。それだけは絶対に避けたい。

 

 とりあえず今日はもう遅いし、明日になったらもう一度お父さんに相談しよう。後は学校の先生にも報告した方がいいかな……。


 ――まずいことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ