第27話 水族館編① デート!?
終業式も目前に迫り、学校全体にだらけきった空気が流れている。
そんな中、期末テストの結果が返却された。
現代文八十点、数学七十二点、英語八十五点……全体的にいつもより十点くらい高い。四月から続けてきた勉強の成果が、ようやく表に出てきたようだ。
「神崎、どうだった?」
「んー、まあまあかな」
市之瀬君に探りを入れられたが、はぐらかす。いつもより良い結果とはいえ、人に自慢できるほどではない。
一方の市之瀬君は、愉快そうに笑いながら答案を見せてきた。
「俺、今回は全然ダメだった。見ろよ、この数字」
「うわぁ……」
目にした瞬間、私の顔が引きつる。
市之瀬君は気分が乗った時と乗らない時の差が激しい。特に今回はオール一桁。追試の対象です。
こういう時、笑うべきなのか突っ込むべきなのか……。
「こんな点数久々に見たな。逆にテンション上がるな」
「笑いごとじゃないよ市之瀬君。追試に合格できなかったら夏休み補修だよ」
「え」
現実に引き戻されたかのように、市之瀬君の笑顔が固まった。
「補修になったら水族館にも行けないからね」
「なん、だと……?」
市之瀬君はガタガタと震え出すと、すがりつくように私の肩を掴んだ。
「頼む神崎、勉強を教えてくれ!!」
ぶんぶんと私の体が揺らされる。
頼ってくれるのはありがたいが、この悲惨な成績では、私だと荷が重い。後でマリアに協力を仰ごう。
それにしても市之瀬君たら、そんなにも水族館ダブルデートを楽しみにしているんだ。
デートって二人きりの方が楽しくない?
私には彼の考えがよくわからなかった。
◇◇◇
発端は一週間ほど前。
「ねえ、いろは。夏休みに水族館へ行かない? 福引でチケットを入手したの」
期末テストが終了した日。マリアが私の教室にやってきて、そう告げたのだ。
夏休み、か。
正直、七月八月はあまり外に出たくないんだよね。どこに行っても人が多いし、そもそも暑すぎる。
だけど、水族館というのは素敵な響きだ。最近は忙しくてなかなか行けていなかったし。
何よりも、友達からの誘いだ。
「いいね、行きたい」
私が承諾すると、マリアは小さくガッツポーズを作った。おちゃめな仕草がかわいい。
「よかった。いろはが来るって聞いたら、きっと清隆も喜ぶわ」
「うん?」
清隆――ということは、市之瀬君も来るってこと? うそでしょ?
「ちょっと待って、二人きりじゃないの!? え、二人の邪魔しちゃ悪いよ」
市之瀬君がいるのなら話は変わってくる。彼とマリアの仲を応援する者として、デートの妨害をするわけにはいかない。
しかし、マリアは首を横に振る。
「邪魔なんて思わないわ。私も清隆も、あなたと一緒に遊びたかったの。それに、清隆とばかり出かけるのも飽き飽きしていたところだし」
マリアの言葉に嘘はなさそうだ。
「うーん……でもなあ」
「それに、残りの一人はいろはに選んでもらいたいの」
マリアがポケットから取り出したチケットは、四人分あった。
「……ほう」
なるほど、理解した。
――これはつまり、ダブルデートというやつでは!?
え、何その恋愛上級者っぽい響き!
私は混乱した。恋人どころか好きな人もできたことがない私にとって、リア充っぽい単語は、憧れよりも恐怖の対象である。
「どう? それなら大丈夫そう?」
「あ……そのぉ……」
マリアは期待のまなざしでこちらを見ている。
うまいこと断る口実が思いつかず、私はおとなしく頷くしかなかった。
こうなったら腹をくくるしかない。肝心のもう一人は――そうだなあ。
「……じゃあ安井を連れていきます」
困った時は安井だ。気まずい空気も、底抜けに明るい彼がいればなんとかなるだろう。
その後、私は廊下で、市之瀬君とマリアがこそこそと会話している姿を見かけた。
『どうだ、神崎は来てくれそうか?』
『ばっちりよ。せっかくお膳立てしてあげたんだから、この機会にしっかり仲を深めるのよ』
『ああ。わかっている。いつもすまないな』
何を話しているのかはよく聞き取れなかったけど、二人の顔が近くてドキドキする。
やっぱり美形同士のカップルは絵になるなあ。




