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第24話 お父さんは心配性?

 帰宅後、お父さんと合流して焼肉店に向かう。

 久しぶりの、親子水入らずの時間。

 

 ただし、安井も一緒だ。

 彼はちゃっかりと一番高い肉を注文した。遠慮というものを知らないのかこいつは。


「いやー、お嬢様は体育祭で大活躍しましたよー」


 安井はトングで肉を焼きながら、口もせわしなく動かしていく。


「わたくしとお嬢様の絆の力で周囲の敵をバッタバッタとなぎ倒していった時の光景は、圧巻としか言いようがありませんでした……!」


「なるほど」


 存在しない記憶!


 お父さんは真剣に聞き入っているが、嘘だとわかっているのだろうか。


「いつもいろはの面倒を見てくれる安井君には、感謝しかないよ。ただ、お父さんとしては、学校内で友人を作ってほしいところだけどね」


「うっ」


 痛いところをつかれる。


 どうやらお父さんは、私が去年全く友達を作れなかったことに気づいていたようだ。でも、今年は違う。


「わ、私にも友達はいるんだから!」


 私はスマホを取り出すと、体育祭中に撮った写真をお父さんに見せる。


 私の隣で微笑むマリアを見て、お父さんは目を細めた。


「この子、どことなく雰囲気がお母さんに似ているなあ」


「あ、お父さんもそう思う?」


 二人は切れ長の瞳や高い鼻、薄い唇など、顔の特徴がよく似ている。長身で手足がすらりとしているところもそっくりだ。


 私はマリアのことを説明する。文武両道・才色兼備、何をやらせても優秀なハイスペック女子高生。

 話を聞き終えたお父さんは、「まるで芸能人みたいだな」と苦笑した。


「見た目が似ているだけじゃなくて、熱狂的なファンがいるところまで同じとはね」


 そこに、肉を頬張りながら安井が口をはさむ。


「そうなんですよぉ。奥様みたいに厄介なファンがついていて、お嬢様も一度だけ絡まれたことがあるんですよ」


「何?」


 お父さんの目に剣呑な光が宿る。一瞬にして彼の雰囲気が変化した。

 常に他者との厳しい競争に身を置き、時には非情な手段も選ばざるをえない、冷酷な経営者の顔。


 ……だから知られたくなかったんだよなあ。


「だ、大丈夫だよお父さん。あんなの全然大したことなかったよ」


 私は慌ててフォローに入る。確かに彼女たちにはムカついたけど、社会的に抹殺してほしいわけじゃない。


「いいか、いろは。何か困ったことがあったら、まずはお父さんに相談しなさい。お父さんには警察官や弁護士の知り合いがたくさんいるから、必ず力になれるだろう」


「う、うん」


 目がバッキバキで怖いよぉ。


 それにしても、弁護士はともかく、警察にまで知り合いがいるなんて。

 まさか、会社で何か悪いことをして警察のお世話になったんじゃ? そのお金で暮らしている私も同罪では?


 不安になって尋ねると、お父さんは吹き出した。いつもの優しい雰囲気が戻ってくる。


「いいや。刑事さんたちと知り合ったのは、仕事関係じゃない。お父さんが、お母さんのファンに脅迫された時にお世話になったんだ」


「脅迫? それって結婚を発表した時のこと?」


「うん」

 

 お父さんの会社のCMにお母さんが出演したことが、二人の出会いのきっかけだという。

 女優が社長と結婚、なんてよくある話だし、荒れるようなものだろうか。


 しかし、お父さんは首を横に振る。


「先程もちょっと話したけれど、お母さんには過激なファンが多くてね。たとえば、お母さんが恋愛ドラマに出るたびに、相手役の俳優が脅迫されたりしたんだよ。それがあまりにもひどかったから、事務所の方針で活動を自粛していた時期もあったくらいだ」


「うわあ、迷惑」


 お母さんに迷惑をかけて仕事の邪魔をするだなんて。そんなの、本当のファンとは言えない。


「そんなわけだから、結婚を発表した時はネットが荒れたんだ。お父さんへの殺害予告や、会社への誹謗中傷が書き込まれた。自宅にカミソリの刃が送り付けられたこともあったなあ」


「そんなことが……」


 二人が結ばれるまでには様々な障害があったようだ、

 とはいえ、大きな困難に直面したとしても、それをともに乗り越えていきたいと思える相手がいる。それってすごく素敵なことだ。


「まあ、お母さん本人はそこまで気にしていなかったようだけどね。デートにろくな変装もせず現れたり、お父さんがばっちり映り込んでいる写真をSNSに投稿してしまったり」


「えぇ? 芸能人としてそれでいいの?」


「彼女はほら、どこか浮世離れしているから」


「それで済ませていいのかなあ」


 お母さんに危機感がないのは昔からのことらしい。彼女らしいと言えばらしいが。


「とにかく。お父さんが言いたいのは、何か困ったことがあったらすぐに相談しなさいってこと」


「うん。ありがとう、お父さん。でも、本当に大丈夫だよ。この前絡まれた時だって、ちゃんと助けてくれた人がいたし」


「そうですよ。心配いりませんよ、旦那様」


 ほぼ一人で肉を平らげてしまった安井が、なぜか自信ありげに答えた。追加注文する気満々でメニュー表を手にしている。


「なんせお嬢様は今、二人の殿方から取り合いされているんです。彼らがお嬢様を守ってくれることでしょう」


「安井!? ちょっと、変なこと言わないでよ!」


「ほう……」


 一人は巴君として、もう一人は――まさか市之瀬君のこと!? そんな馬鹿な。


「……詳しく聞かせてもらおうか」

 

 お父さんは先程と同じような、物騒な雰囲気を醸し出している。


 ……これは誤解を解くのが大変そうだ。

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