第23話 体育祭編⑤ 迷探偵いろは
その後の体育祭の様子は、ダイジェストでお送りしよう。
うっかり気を抜いた瞬間の表情を隠し撮りされ、安井とバトルしたり。
騎馬戦での桃ちゃんの気迫に、敵どころか味方までビビってしまったり。
軍団対抗リレーでは、最下位でバトンを受け取ったマリアが、脅威の五人抜きを見せてトップに躍り出たり。
そのせいで危うく逆転されそうになったけど、私が所属するD団はどうにか優勝することができた。
私は体育祭の勝ち負けなんてあまり気にしていなかったけれど、飛び上がって喜んでいる市之瀬君を見ていると、素直にうれしいな、と思えた。
◇◇◇
帰りのホームルームが終了すると、教室が一気に騒がしくなる。
「いいかお前ら。打ち上げが楽しみなのはわかるけど、あんまり羽目外すんじゃないぞー」
原先生の忠告もどこ吹く風だ。まあ、浮かれるのも今日だけだろう。
「ねぇ、記念にプリ撮りに行こー」
「あ、いいね!」
うちのクラスの打ち上げ場所はお好み焼き屋だった。
予約は六時半からのため、クラスメイトの中にはゲーセンやカフェなどで時間を潰す子もいるようだ。
「神崎も打ち上げ来るだろう?」
私が帰り支度をしていると、市之瀬君に声をかけられた。
実行委員は後片付けがあるため、ギリギリまで学校に残るという。
「ごめん、私は欠席。今日はお父さんが久しぶりに帰ってくるから」
「えっ、そうなのか?」
本当は明日戻る予定だったらしいが、安井から私の活躍? を聞いて会いたくなったという。今夜は焼肉だ。
「そうか、来ないのか……」
「市之瀬君は私の分も楽しんできてね。せっかくの打ち上げなんだからさ」
「……ああ」
私の気のせいかもしれないが、市之瀬君の表情はどこか残念そうに見えた。隣の席なんだから、話そうと思えばいつでも話せるはずなのに。LIMEも交換したし。
「なあ、神崎。一つ聞いてもいいか?」
「な、なんでしょう」
市之瀬君の声が真剣な響きを帯び、私も思わす居住まいを正す。
「借り人競争の話なんだけどさ。執事の安井さん――もしあの人がいなかったら、神崎は誰を選んでいた?」
「えっ……」
まさか借り人競争のことが再び話題になるとは。
あの時は市之瀬君と巴君、どちらも選べなかったから安井を選んだのだ。
競技後、巴君にはすねられたが、市之瀬君からは何も言われなかった。だから気にしていないと思っていたのに。
――もしも安井がいなかったら、か。
そうなると、話しかけやすい巴君の方だろう。でも、それを市之瀬君に言うのも気が引ける。
「ごめん、わかんない」
「……そうか」
私が曖昧に言葉を濁すと、市之瀬君は何とも形容しがたい微妙な表情を浮かべた。困っているような、安心しているような、そんな顔。
二人の間に気まずい空気が流れる。
「悪い、変な事聞いたな。忘れてくれ。それじゃ、俺はもう行くから」
「ううん、大丈夫。また来週ね」
市之瀬君が教室を出て行ってからも、私はしばらくの間、彼の問いについて考えていた。
気がつくと、教室にはもう私しかいない。
そこでようやく、ある一つの可能性に思い当たる。
借り人競争のお題「一番仲の良い異性」を考えたのは市之瀬君で、彼はこのお題を私に引かせたかった。
そして、なぜ彼がこんなことをしたのかというと――おそらく市之瀬君は、私を誰かとくっつけたかったのではないだろうか。
しかし、肝心の相手がわからない。
打ち上げに来てほしそうだったということは同じクラスだが、市之瀬君以外の男子とは全然話したことがないのだ。
……うーん、やっぱりなんか違う気がする。
私には名探偵の役目は務まりそうになかった。




