第21話 体育祭編③ マイベストフレンド
次の種目は、私が出場する借り人競争だ。
入場後、待機列に並んでいると、観客席から聞き覚えのある声がした。
「お嬢様―!!」
「……」
なんだか無性に嫌な予感がする。
見ると、観客席の一番目立つ場所に陣取った安井が、飛び跳ねながら手を振っていた。
(うわぁ!?)
思わず叫びそうになったのを必死でこらえる。
安井の席には、折りたたみではない、本格的なテーブルとイスのセットが置かれていた。どうやって運び込んだんだ。地面にはパラソルらしきものも転がっている。
そして、彼は首から高級そうなカメラをかけていた。いかにもやる気満々の保護者、といった様子で恥ずかしい。
(もしかして写真撮る気?)
羞恥に震える私をよそに競技が始まる。
安井の問い詰め方を考えていたせいか、あっという間に私の番となった。
『位置についてー。よーい、ドン!』
ピストルの発砲音とともに走り出す。
すぐにお題の紙が置かれたテーブルへとたどり着いた。目の前にあった一枚をひっくり返す。
「うえ」
お題を見た瞬間、私は固まった。
「……」
――恐れていた事態が起きてしまった。
誰だよこのお題考えたやつ、と怒鳴り散らしたかったが、そんなことをしている暇はない。
周囲を見渡すと、すでに他の選手はお目当ての人物めがけて走っている。いつまでもお題の紙とにらめっこしているのは私だけだ。
『D団頑張れー』
「……」
くっ、こんな私にも応援してくれる人がいるのか……! 皆の期待を裏切るわけにはいかない。
――仕方ない、こうなったら最終手段だ。
「安井―!!」
私は観客席に向けて大声で叫ぶ。
「はい、お嬢様。安井はここに」
観客席とグラウンドの境に張られていたロープを、安井は軽々と乗り越える。
差し出された手を、私はしっかりと掴んだ。
こんなにも安井の存在が頼もしく思えたのは、生まれて初めてのことだった。
◇◇◇
私と安井は二位でゴールした。
一位とはごくわずかの差。体育祭が好きじゃないとは言ったけど、少し悔しい。
「それじゃあ、お題を確認しますね」
審判係の生徒にお題の紙を渡す。
「D団の神崎さんのお題は――へ? 『一番仲の良い異性』?」
審判係は困惑した様子で、私と安井の顔を交互に見る。
――そう、私のお題は「一番仲の良い異性」。
最初に見た時は正直、頭おかしいんじゃないの? と感じた。誰もが異性と楽しくおしゃべりできると思うなよ、と怒りすら覚える。
これを考えたやつはたぶん人の心がない。
私も一応、市之瀬君や巴君とはそこそこ話せる。
だけど市之瀬君に声をかけるのはなんだか恐れ多かった。逆に巴君は、選んだら調子に乗りそうだから嫌だ。
よって、選ばれたのは安井でした。彼は使用人とはいえ、私が中学生の頃からの付き合いだし、遠慮なくものを言える。
「えっと、彼は私の執事の安井です。これでも一番の仲良しです」
「そうなんです! お嬢様は、普段はツンツンしていますが、本当はわたくしのことが大好きなんですよぉ。ね、お嬢様」
「え、ええ」
審判係は少し悩んだようだが、最終的にはOKが出た。
「D団、お題クリアです」
私の二位が確定する。応援席からは歓声が上がった。
「あー、もう戻っていいよ」
「えぇ、用が済んだらお払い箱!? わたくしのことは遊びだったというんですか!? お嬢様ってば冷酷~」
「誤解されるようなこと言わない!」
確かに仲は良い。仲は良い、が……ちょっとうざい。
「ところで、そのでっかいカメラ何?」
「これですか? 実は旦那様から、お嬢様の活躍をしっかりと収めるように仰せつかっておりまして」
「お父さんが!?」
やる気満々だったのは、安井ではなくお父さんだったのか。




