第19話 体育祭編① あの子は太陽
授業中、私はチラッと窓の外に視線を向ける。
心まで重くなりそうな、どんよりとした曇り空。梅雨といっても名ばかりで、全然雨なんて降りやしない。
「はぁ……」
私はこっそりとため息をついた。
ここ最近、学校全体に浮ついた雰囲気が漂っている。
理由は明白。陽キャが好きな二大学校行事の片割れ、体育祭の日が近づいてきているからだ(ちなみに、もう一つは文化祭)。
未来ヶ丘高校の体育祭は六月の下旬に開催される。
チームは縦割りで、クラスごとの振り分け。たとえば私は2年D組なので、D団だ。
入学から日が経ちある程度仲良くなってきたところで、さらに絆を深めよう、という魂胆らしい。
クラスメイトたちは当日の髪型について相談したり、打ち上げの計画を立てたりとうきうきしているが、私はいまいち乗り切れない。
あまり馴染めていないというのもあるが、そもそも体育祭が好きじゃないのだ。
特に苦手なのは応援のノリ。熱くなって叫ぶ、という行為がもう無理。私はスポーツ観戦をする時も静かに見ているタイプだった。
おまけに、競技決めの日に風邪で休んでしまった結果、私の出場種目は借り人競争になってしまった。お題に「友達」とか出たらどうしよう。コミュ障にはつらい。
放課後になると、市之瀬君はそそくさと荷物をまとめ始める。彼は体育祭の実行委員だった。おそらくは今日も集会があるのだろう。
委員になってからの市之瀬君はどこか生き生きとしていた。運営なんて、私には面倒な役回りとしか思えないのだが……。
「部活もあるのに大変だね」
私が声をかけると、市之瀬君は白い歯を見せて笑う。
「まあな。でも、楽しいから」
「楽しい?」
「ああ。それに、俺は何事にも全力で取り組むようにしているんだ。最高の思い出を作り上げるためなら努力は惜しまない。絵を描くのと少し似ているかな」
六月のじめっとした空気を吹き飛ばすかのような、晴れやかな笑顔。やはり私には、市之瀬君は眩しすぎる。
◇◇◇
「せんぱーい、一緒に帰りませんかぁ?」
「何言ってんだ、センパイはおれと帰るんだよ」
「はいはい。三人で帰りましょうね」
その後、私は教室まで迎えに来た桃ちゃん(最近名前呼びになった)&巴君と一緒に帰ることにした。
「桃ちゃんって1年D組だよね。じゃあ同じチームだ」
「えへへ、嬉しいです。一緒におしゃべりしましょうね」
話を聞く限り、桃ちゃんもあまり体育祭が好きではなさそうだ。仲間がいて少し安心した。
「ちぇっ。おれもセンパイと同じチームが良かったなあ」
「巴君、体育祭来るの?」
「むしろなんで来ないと思ったんですか。不良は卒業したんだから、学校行事だってちゃんと出ますよ。センパイにかっこいいところ見せたいし」
「へぇ、そうなんだ」
「反応薄くないですか? 傷つきますよおれ」
聞くと、巴君は100m走に出場するらしい。市之瀬君と一緒だ。
「というか、いつの間に双葉のこと名前で呼ぶようになったんです? おれのことも京介くんって呼んでいいですよ」
「いや、男の子を名前呼びするのはちょっと恥ずかしいし……」
「チッ」
こら、舌打ちするんじゃない。
昇降口を出ると、見覚えのある二人がグラウンドにいるのを発見した。
「あ、市之瀬君とマリアだ」
「マリア様!? え、どこ? どこですか!?」
どうやらマリアも体育祭の実行委員らしい。大きな荷物を持った二人は、楽しそうに会話しながら歩いていく。
かつてマリアは、市之瀬君といると楽だ、と話していた。幼馴染だから当然かもしれないが、市之瀬君もまた、マリアといる時が一番自然体に見える。
「やっぱり市之瀬君とマリアはお似合いだなあ」
「え、いろは先輩本気で言ってます? この世にマリア様と釣り合う男なんていませんよ」
桃ちゃんは相当なマリア信者のようだ。ドン引きするような目を向けられてしまう。
「そんなにおかしいかなぁ」
私が首をひねると、巴君が食い気味に加勢してきた。
「いやお似合いっす。めっちゃお似合い。センパイよくわかってる」
「はぁ? てめえ、目ぇ腐ってんのか。お前の意見は聞いてねぇんだよ」
「んだと、センパイの感想を否定する気か!?」
「あーはいはい、喧嘩しない喧嘩しない」
残念ながら、この二人の意見は両極端すぎて参考にならないかも。




