第14話 早すぎる再会
あの後、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったため、男子生徒とは慌ただしく別れてしまった。
もう喧嘩はしないと約束させたが、果たして守ってくれるだろうか。
クッキーをもらって以降交流が続いている双葉さんに、同学年に不良がいないか聞いてみると、
「それはたぶん、1年E組の巴京介ですね」
と教えてくれた。
あんなヤンキーは今まで見たことがないと思っていたが、やはり一年生だったようだ。
「入学式以降ほとんど学校に来てなくて、他校の不良と喧嘩を繰り返しているって噂です。ほんと、男って野蛮ですよねー」
どうやら彼女はあまり男子が好きではないらしい。市之瀬君にもすごい辛辣な対応だった。
ともかく、彼の名前と所属は把握できた。いつ登校するかはわからないけど、また怪我したら心配だし、時折は様子を見に行こうかな。
しかし、再会の時は思いのほか早く訪れた。
◇◇◇
「センパイ」
翌日の放課後。帰り支度をしていた私は、知らない男子生徒に声をかけられた。
「ええっと、どちら様ですか?」
人見知りの私は咄嗟に臨戦態勢を取ってしまう。
上級生の教室に堂々と入ってくるなんて、勇気がある一年生だ。
そんな私に、彼は困ったような笑みを浮かべる。
「やだなあ。おれですよ、おれ。昨日会ったばかりじゃないすか」
「昨日?」
私は男子生徒をまじまじと観察する。
整えられた黒髪と、ピシッと着こなした制服。愛想がよく、いかにも優等生といった雰囲気の好青年。
だけど、その瞳だけはどこか陰があって――
「え、もしかして巴君?」
「正解です。知っていたんですね、おれの名前」
巴君は満足そうな顔で頷く。
それにしても、昨日の今日で変わりすぎではないだろうか。
「どうしたの、その格好?」
「おれ、センパイの言葉で目が覚めたんです。だからそろそろ真面目に生きてみようかな、って」
「そうなんだ」
私の言葉は、思っていた以上に彼に響いたようだ。
特別うまいことを言ったつもりはなかったけれど、他人の些細な言動で喜んだり悲しんだりする、それが人間という生き物なのかもしれない。
巴君はどこかうれしそうに語る。
「うちの親は相変わらずおれのことなんて眼中にない感じでしたけど、担任は意外と喜んでくれました。ちゃんと登校しただけで、びっくりするくらい泣かれたんですよ」
「よかったじゃん」
確か彼のクラスの担任は、まだ二、三年目の若い女性だった。不良の相手は荷が重かったのだろう。
巴君は姿勢を正すと私に向き直る。とてもじゃないが、昨日まで不良だった人には見えない。
「あらためまして、一年の巴京介です。今後もよろしくお願いします」
「うん。私は神崎いろは。よろしくね」
「はい、いろはセンパイ!」
えっ、初手下の名前呼び!? 距離近くない!?
今現在、男子の中で一番よく話す市之瀬君ですら、苗字呼びだというのに? それともイマドキの子はこれが普通なのか?
「それで、ここからが大事な話なんですけど――」
ただでさえ混乱しているというのに、まるで追い打ちをかけるかのように巴君が顔を近づけてくる。
「ちょっと、近い近い!」
イスに座っているせいで逃げ場がない。
助けを求めて隣の席を見るが、残念ながら市之瀬君は今日、体調不良でお休みだ。
巴君は私の手を取ると、大真面目な表情でとんでもない爆弾発言をした。
「あなたに運命を感じました。おれと結婚してください」
「はあぁああああああああああ!?」
――もしかしてこの学校、変なやつしかいないのか?




