第11話 私のお母さん
帰宅後にリビングでくつろいでいると、安井が段ボール箱を持ってきた。
「お嬢様、奥様から荷物が届きましたよ」
「お母さんから?」
私の父は会社経営者で、母は女優。
二人とも仕事が忙しく、普段はそれぞれ都内で一人暮らしをしている。
自宅にはほとんど帰ってこないものの、娘に申し訳ない、という気持ちはあるらしい。時々こうして贈り物を届けてくれるのだ。
お父さんは、紅茶やお菓子などの食料品が多い。
一方、お母さんは――
「うーん、またか」
中を開けると、服が何着か入っていた。
どれもレースやフリルをふんだんに重ねた、ガーリーなものばかり。完全にお母さんの趣味だ。
お母さんは昔から、かわいらしい服装に憧れていたらしい。
しかし、彼女はどちらかというと綺麗めの顔立ちだ。イメージに合わないから、という理由であまり着せてもらえなかったという。
自分が着れなかった分娘には好きな服を着せてあげたい、という親心なのか、お母さんはたくさん服を買ってくれる。
でも、お母さんには大きな問題があった――私の好みを全然把握していない、という点だ。
私だって、女の子らしい服が似合う子になりたかった。
だけど、鏡は毎日嫌というほど見ている。どうしても服に申し訳ない、という気持ちになるのだ。
こういうのは、双葉さんみたいなふわふわした子の方が似合うだろう。
「せっかくもらったけど、これは着ないかなあ」
私の言葉に、安井は残念そうな声を上げる。
「えー、もったいないですよぉ。一回だけでも着てみたらどうです? 案外似合うかもしれませんよ」
「……」
安井の言うことにも一理ある。
服を着たらなんだかイメージと違った、なんてことはよくあるが、その逆も存在するだろう。
「……まあ、ちょっとだけならいいかな」
試着のため、自分の部屋へ行く。
しかし、すぐに戻ってくる羽目になった。
「どうでした?」
「全っ然ダメ!! 全部Sサイズだったんだけどこれ!」
「おやまあ」
背中のチャックが閉まらなかった時の、なんとも言えない絶望感よ。
お母さんってば、私の身長を知らないのでは?
そもそも、服って贈り物に向かないと思う。
メーカーごとに微妙に大きさが違ったりするし、試着なしに買うのはリスキーすぎる。
残念ながら、やっぱりこの服たちはお蔵入りだ。
気を取り直して、おやつの時間にする。
「お嬢様は芸能界に入ろうと考えたことはないんですか?」
淹れたての紅茶を運びながら、安井が尋ねてくる。
「あー」
私の胸に苦いものが込み上げてくる。
お母さんと同じ道に進もうと思ったことは? ――これはよく聞かれる質問だった。
答えは断然ノーだ。
だって、私はお母さんに全然似てない。
私が須合あやめの娘だと知った途端、ほぼ全員が、先日の悪役女子みたいに仰天してしまう。
彼らの気持ちは痛いくらいにわかる。私が一番信じられないくらいだ。
お母さんは私にも芸能界入りしてほしいみたいだが、ネットでなんて言われるかわかったもんじゃない。「須合あやめの娘ブッサwww」なんて叩かれるに決まっている。
「あ、でも、物心つく前に何回かドラマに出たことがあるらしいよ」
「そうなんですか? なんて作品です? 検索します」
「絶対に教えない」
お父さんの反対もあり、私は芸能界から完全に距離を置くことになった。ほんとお父さんには感謝しかない。
そういえばお母さんは、私が幼稚園児くらいの頃、SNSにモザイクなしで私の写真を載せていたこともあった。
これもお父さんが止めてくれたけど……美人で演技もうまいが、うちのお母さんは少し残念な人だった。
そしてこの数か月後、お母さんがきっかけで私は大きなトラブルに巻き込まれるのだが――詳細を語るのはもう少し待ってほしい。




