修学旅行で告白せよ!④
小春は戸惑った様子でやってきた。
「すまん、呼び出して」
「いいけど・・・何?」
夕食を食べる前にホテルの中庭に小春を呼び出した。
周りに同じ学校のやつらもいない。
「あの藤沢、昨日のことなんだけど・・・」
そう言うと、小春は「やめて!」と言って、手を突き出して奏汰の話を止めた。
「聞きたくない・・・」
小春は少し目を潤ませて、下を向いた。
風が吹いてザワザワと木が揺れる音がする。
(藤沢を傷つけたいわけじゃない…けど)
小春がこちらをチラリと見て、そのあと自分の頬をパンパンと手でたたいた。
「ごめん。いいよ、聞く」
小春がまっすぐこちらを見た。
潤んだ瞳と少し赤くなった頬に胸がキュッと苦しくなる。
(でも、俺は―)
奏汰は深呼吸をした。
「まずは昨日言ってくれたこと、本当にありがとう。いつも藤沢には助けられてばかりで、1人になりそうな時も気にかけていつも声かけてくれて、本当に感謝してる」
「うん・・・」
「藤沢のこと大事な友達だと思ってる。藤沢が困った時は助けたいし、一緒にふざけるのも楽しい」
足を怪我した時も、梨央とすれ違った時も、他校の女子と戦った時もいつだって助けてくれた。
緊張することもなく、カッコつけたりもせず、自分らしく話すことができる。
藤沢には感謝してる。
「でも・・・やっぱり藤沢のことは大事な仲間としての好きで」
「・・・わかってた」
小春の瞳には涙が溢れそうな程溜まっている。
「それでも、やっぱりずっと好きだったから・・・ちゃんと伝えたかった」
ぽろっと涙がこぼれた。
「梨央が好きなんでしょ?」
奏汰は頷いた。
「ずっと見てたからわかってた」
「うん」
「もう早くどっか行って。こんなとこ見つかったら女の子を泣かしたって噂になるでしょ」
「・・・ありがとう」
奏汰が去ろうと歩き出すと、「市川!」と呼び止められた。
振り返ると、小春が涙をこぼしながら笑った。
「絶対いい女になって後悔させるから!」
夕食の時間になって、少し目をはらした小春はいつもより明るく、冗談を言いながら、たくさんご飯を食べていた。
誰にもなぜ目が腫れているのか聞かれたくないのだろう。
同じグループの人間は全員小春の様子がおかしいのはわかっていたが、何も言わずにいた。
特に、知ってか知らずか岡野は、そんな小春に合わせて冗談ばかりを言って笑わせていた。
空気の読めないうるさい奴と思っていたが、案外空気の読める奴なのかもしれない。
夕食を食べ終わり、奏汰は意を決して梨央に声をかけた。
「梨央、ちょっといい?」
「奏汰?」
少しみんなから離れた場所に行くと、改めて梨央に消灯後に時間をとってほしいことを伝えた。
「いいよ」
梨央は不思議そうな顔はしていたが、了承してくれた。
告白されるなんて夢にも思っていないのだろう。
「あの、私からもいい?」
奏汰が「いいよ」と返事をすると、戸惑いながら小春の様子がおかしいことの原因に心当たりがないかを聞いてきた。
「・・・心当たりはある。でもそれは藤沢が話すか決めることだから、俺からは話せない」
奏汰がそういうと、梨央は「そっか」と小さな声で返事をすると、「また後で」と去っていった。
時計は22時を指している。
22時半にホテル前の浜辺で梨央と約束している。
岡野のいびきが響いている。
(そろそろ抜け出すか―)
奏汰がそっとベッドから起きだして、部屋から出ると、視線を感じる。
振り返ると、藤志朗が立っていた。
「もう消灯を過ぎているが?」
「眠れないからちょっと散歩でもしょうかと思って」
「それなら一人は危ない、僕もついていこう」
「いや、俺は男だし大丈夫」
「そもそも消灯過ぎて出かけるのはルール違反だ」
藤志朗は何をしにいくのかをわかっているのか、絶対行かせないという雰囲気だ。
「おー、お二人さん何してるの?」
振り返ると、誠までもやってきた。
「いや、市川君が消灯後に部屋をでたもんだから心配で」
「ふーん、それは奏汰ダメだぞ。あ、藤志朗、頭になんかついてんぞ?」
誠はこっちに来いと藤志朗を呼び寄せ、思いっきり腕で首をホールドすると、「奏汰!早く行け!」そう声を上げた。
奏汰は手を合わせてお礼を伝えると、駆け出した。
遠くから教師の「お前達何してんだ!」と藤志朗と誠を叱責しているであろう声が聞こえた。
なんとか走り切って、約束の浜辺まできた。
すると、梨央はもう来ていて、海を眺めていた。
「奏汰」
「梨央、待たせてごめん」
「ううん。ほら見て、星と海がすごく綺麗だよ」
どこまでも遠くに広がる海を月明かりが照らしている。
星たちが瞬き、幻想的な雰囲気だ。
奏汰は梨央の隣に座った。
「梨央に言いたいことがあって・・・」
声が上ずりそうになる。
「うん」
梨央は海から奏汰へ視線を写した。
彼女の大きな瞳に自分が映っていた。




