ピンチ!彼女の心を取り戻せ!⑤
誕生日会がきっかけなのか、今では学校でも読書が好きなクラスの女子と話をしたりしている。
小春は、私だけの特権だったのにとふてくされながらも梨央とよく話していた。
(平和だな・・・)
奏汰はそんな女子たちを見ながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。
もうすぐ冬がやってくる。
奏汰の高校は、高2の11月に修学旅行にいくことになっている。
本来は高3で行くのでは?と思うが、一応進学校なので高3は受験に集中するために早めに行くことになっているのだ。
「楽しみだなぁ~修学旅行」
誠は嬉しそうに話しかけるが、奏汰は浮かない顔だ。
「あれ?奏汰は修学旅行楽しみじゃないのか?」
「・・・楽しみなわけないだろ」
「なんで?」
陰キャで友達が少ない人間にとって修学旅行は様々な攻略すべきイベントがあり、旅行に行くというより戦場の赴くような気持ちだ。
最大の難関は、行く前にある。
それは班決めだ。
誠が同じクラスだったら問題なかったが、違うクラスなので、このクラス内でグループを作らねばならない。
そのグループこそ修学旅行を楽しめるかどうかのカギだ。
気の合わない奴といけば、2泊3日の地獄が待っているわけである。
それだけではない。
バスや飛行機などの座席も重要だ。
前後に陽キャが乗ったりすれば、うるさくなり、それに巻き込まれないように寝たふりなどしなければならない。
またホテルや旅館などの宿泊施設で同室のグループも気を付けなければならない。
基本は2班が同室で寝ることになる。
そのもう1つの班が陽キャの集団で、好きな人告白大会なんてされた日には寝れやしない。
とにかく、修学旅行というのは陰キャにとっては、楽しみと思うにはハードルが高いイベントなのだ。
そのようなことを誠に伝えると「お前は考えすぎ」といって少し引かれてしまった。
「それに、お前友達いるじゃん。藤沢と大久保」
「男がいねーだろ」
「お前が女になったらどうかしらん」
誠がふざけてくる。
「なれるかー」とつっこみつつ、内心ではため息をついた。
(修学旅行なんてどうなることやら・・・)
翌日のHRで修学旅行が沖縄に決まったと担任から話が合った。
沖縄と聞いて、クラス中が盛り上がっている。
お調子もんが「なんくるないさ~」と言っているのが聞こえる。
「それで明日のLHRで班決めなど修学旅行について決めていくからな」
担任から戦いの始まりを告げる一言が放たれた。
奏汰は憂鬱な気持ちもなりながら、ため息をついた。
「なんでこうなったかなぁ・・・」
翌日奏汰は黒板を見ながら、つぶやいた。
C班 藤堂藤志朗、岡野真治、市川奏汰、大久保梨央、藤沢小春
「濃すぎるだろ・・・」
岡野真治は、クラスで一番明るくテンションが高い。
奏汰が苦手とするタイプだ。
なぜこうなったのかというと、昨今のいじめ問題など複雑化している人間関係を考えると、公平に班を決めるべきだという担任の考えで、くじ引きで決まったのだ。
自分の運の悪さに辟易する。
修学旅行が地獄への旅に思えてくる。
梨央が班にいることだけが、唯一の救いだ。
ぶるぶると携帯が震えて開いてみると、“同じ班で良かった”と梨央からメッセージが来ている。
(本当に良かった・・・)
そう思っていると、「市川!」と小春がやってきた。
「どうした?」
「明日班行動の内容決めるから」
「え?何それ?」
「自由行動の内容を決めて、担任に提出しないといけないでしょ?さっさと話し合って決めないと」
「明日じゃなくてもいいだろ」
「だーめ、私行きたいところたくさんあるんだから、練りに練った計画で楽しまないとね」
奏汰は始まる前から、この後どうなるか想像して頭が痛くなった。
家に帰ると、ベッドに寝転んで天井を見上げる。
梨央のことが好きだと自覚してからも、変わらず普通に接してはいる。
でも、世界のためにも、自分の為にも行動すべきな気はしている。
どう考えてもいい雰囲気だし、告白するなら、今がチャンスな気がするのだ。
幸運は前髪のなんちゃらというし、機を逃してはならない。
ぼんやりとそんなことを考えていると、パソコンがカタカタと動き出す。
「ですよね」
奏汰はパソコンの画面をのぞき込んだ。
“修学旅行で告白せよ!”
「修学旅行で告白・・・」
考えただけで顔が熱くなってくる。
“時はきた”
「武将かよ」
カタカタと文字が打たれる。
“あのバカも告白するつもりだぞ”
「バカって藤志朗のことか。あいつのやりそうなことだ」
“私からの最後の指令だ”
「最後・・・」
“修学旅行で告白して彼女の心を手に入れろ”
そう表示されて、いつものようにパソコンは切れた。




