ピンチ!彼女の心を取り戻せ!④
梨央は少しずつ元に戻っていった。
とはいえ、いじめの原因になっていた奴が近くにいるせいか完全復活とはいかないようだ。
教室でも少しビクビクしているように見える。
「行ってこいよ」
誠は小さな紙切れを出した。
「これは?」
メモには二駅先の私立の女子高と名前が書かれている。
「敵の名前と居場所だ」
「敵って…」
「大久保のこと笑顔にしたいんだろ?二度と近寄って来ないように言ってこい」
「ありがとう。…ってなんで、お前知ってるんだよ」
「俺にわからないことなんてないんだよ」
誠はそういうとニヤリと笑って去っていった。
「ここか」
校門の前に立っていると、男子が来ることがないせいか目立っている。
下校する女子達にチラチラみられて恥ずかしい。
ここで声なんてかけようもんなら逮捕される気がする。
どこかに隠れようかと思ってキョロキョロしていると後ろから肩を叩かれた。
(ヤバいー)
「あんた何してんの?」
振り返ると小春が立っていた。
「ふ、藤沢…」
ホッとして思わずしゃがみ込んだ。
「女子高の前で何してんのよ」
小春に事情を説明すると、「バカねぇ」とため息をつかれた。
「私が聞いてあげるわよ、名前は?」
メモを渡すと、下校中の女子何人かに声をかけに行った。
「なんかロクでもない子みたいね」
梨央をいじめていた黒澤舞美は、前の高校を素行不良で停学になりそうなところを転校してきたらしい。
父親がそれなりの金持ちで、今通っている私立高校の理事長と仲が良いため転校できたようだ。
学校を休むことも多く、来ても遅刻が多いらしい。
「今日は学校に来てないみたい。近くのゲーセンでよく見るらしいから行ってみましょ」
小春に連れられて、ゲームセンターに向かう。
思ったより広い。
「二手に分かれて探そ」
「いや、藤沢は顔わからないだろ?」
「同じ高校の制服の子見つけたら連絡する」
スマホを振ると、小春は奥に向かってサッと歩いていった。
本当に小春の行動力には驚かされる。
(友達思いのいい奴だよなぁ)
キョロキョロと探していると、ゲームの音の隙間からふと何か声が聞こえた。
「やめてください」
(どこから聞こえるんだ)
非常階段に続く扉が少し開いている。
そっと開けて、階段に出る。
声は上の方から聞こえてくる。
だんだんと声がハッキリ聞こえてくる。
「早く金出せよ!」「お金はありません」と揉めている声がする。
しかも脅しているのは、あの女だ。
周りに取り巻きの男女数人がいる。
誰か大人を呼ばなければと離れようとした時、「何見てんだ、てめー」と男の声が響く。
やばいと急いで引き返すが、足がもたれる。
あっという間に追いつかれてしまった。
「お前、大久保といた奴だろ」
黒澤はそういうと笑いながら近づいてきた。
「つまらなさそうな男」
うるせーよと言い返したいが恐怖と焦りで声が出ない。
「あんた、なんで大久保なんかといるの?」
「別にいいだろ…」
「あんな反応なくてつまらない奴のどこがいいわけ?」
梨央は大人しくて、人と仲良くするのは得意ではない。
でも、勉強を一生懸命教えてくれたり、出来るようになったことを喜んでくれたり、意外と走るのが苦手だったり、イタズラっぽく笑う顔が可愛くて…
「お前にはわかんねぇよ、梨央の良さは」
「なにそれ」と取り巻き達と揶揄うように笑ってくる。
「お前らが何しようが勝手だけど、もう二度と梨央に近づかないでくれ」
少し声が震えてカッコ悪い。
でも言いたい事は言えた。
「お前、立場わかってる?」
複数人相手に喧嘩で勝てるほどもちろん強くはない。
ボコボコにされるか…
覚悟を決めた時、非常ドアがバン!と開いた。
「お、奏汰。ここにいたか」
「誠…!」
誠はスマホで様子を撮りながら、「奏汰、汗かきすぎな」そう言って笑った。
「てめー何撮ってんだ!」
取り巻きの1人が誠のスマホに手を伸ばした。
「警察呼んだわよ」
小春もやってきて、舞美達を睨みつけた。
「スマホの動画、見せられたくなかったら、二度と梨央に近づいて来ないで」
舞美達が悔しそうに逃げていく。
お金を取られそうになった女の子は「ありがとうございました」と頭を下げて帰っていった。
「警察は?」
「呼んでない」
「はぁぁ、疲れた」
へなへなとその場に座り込んだ。
「やるじゃん」
小春に肩を突かれた。
梨央は相変わらず休み時間は一人で本を読んでいる。
目に光が戻ってきているようだ。
小春にも謝罪していて、小春は泣きながら元に戻って良かったと梨央を抱きしめていた。
そして予定通り、小春の誕生日会が行われた。
クラスの何人かの女子と部活の子たち、梨央と誠まことも呼ばれて、小春の家で盛大に行われた。
梨央は初めて話す人たちに少しおどおどしていたが、時間と共に普通に話せるようになっている。
「良かった。梨央ちゃんが馴染んでくれて」
「藤沢、大久保のためにこの会開いたのか?」
「ち、違うわよ。私が祝ってほしかっただけ」
小春は「ふん」とそっぽを向いてオレンジジュースをぐっと飲み干した。
「本当に良い奴すぎ」
「何よ」
「ほら、これ」
奏汰はコンビニの袋を差し出した。
「またチョコ?誕生日プレゼントくらい別のもの・・・」
コンビニの袋には小包は入っている。
「これって?」
「開けてみ」
小包の中には髪留めが入っている。
「部活の時、髪くくるからどうとかって言ってただろ?」
「・・・ありがと」
小さな声で小春が言った。
「え?聞こえないなー」
そう言って奏汰がからかうと、大きな声で「ありがとうって言ってんの」と言って、恥ずかしそうにみんなの輪に入っていった。
その様子を梨央は寂しそうな顔で見ていた。




