ピンチ!彼女の心を取り戻せ!②
「梨央」
奏汰が図書室にいくと、いつもの席でいつもように静かに本を読んでいた。
でもやっぱり目は沈んでいて、色がないように見える。
「梨央」
もう一度声をかけてみても、本から視線を外さない。
奏汰は黙って隣の席に座る。
なんだか拒絶されそうで顔は見れそうにない。
「梨央がこれまでどんな辛いことがあったのかはわからない。正直今でどんな声掛けをしたらいいのかもわからない。でも…俺は隣にいるよ」
それだけ伝えると、鞄から本を取り出した。
ちらりと横を見るが、梨央の表情は変わらない。
ただ梨央は席を立つことはなく、黙って本を読み続けていた。
学校が閉まるチャイムの音がして、梨央は黙って片付けると立ち上がって、去っていく。
「また明日な」
奏汰がそういうと、一瞬立ち止まったように見えたが、そのまま梨央は帰って行った。
「きなこ、頼むな」
翌朝、奏汰は早起きすると、きなこを連れて散歩に出かけた。
早朝となると寒い。
きなこは寒さなんて関係ないと言った感じで、尻尾をふりふり上機嫌に歩いている。
いつもの公園につくと、きなこをベンチにつないだ。
「梨央、来るかな」
きなこを撫でながら聞いてみても、きなこは「?」という感じで首をかしげるだけだ。
30分ほど待っていたが、来る気配はなく、諦めて帰った。
きなこが、樹の影の方へ尻尾を強く振っていたことに奏汰は気づかなかった。
「おはよう」
奏汰が教室に入って挨拶すると、「ちょっと来て」とまたそのまま強引に小春に廊下に連れ出された。
「今度はなに?」
「梨央のことなんだけど、あれからずっと元気ないでしょ」
「・・・あぁ」
「梨央を元気づけようと思って」
「どうやって?」
「もうすぐ私の誕生日だからさ」
「藤沢の誕生日がどう関係するんだ?」
「まぁ聞いてよ。誕生日会を家で開くってことにして、梨央を家に呼んで、みんなで喋ったり、遊んだりしたら元気出るんじゃないかなって思って」
「・・・呼んでくると思うか?」
梨央は今日もひたすらに本を読んでいる。
誰とも話さないというオーラが出ている。
「・・・無理か」
「おそらくな」
「どうしたらまた笑ってくれるようになるんだろ」
うーん、と小春は考え込んでいる。
「・・・お前本当にいい奴だよな」
「いい奴?」
「大久保が元気になるように必死に考えてさ」
「当り前でしょ、友達なんだから」
「・・・そっか」
梨央のことをこれだけ考えてくれる友達がいる。
あの頃と違うのだと伝えたいが、言葉で伝えてもきっと届かないだろう。
それから毎日放課後は図書室へ行き、朝はきなこの散歩を兼ねて早朝に公園に行くようにした。
2週間ほど経っても、梨央の態度が軟化することはなかった。
「もうどうしたらいいんだよ!」
家に帰ると、ばふっとベッドに横になった。
さすがにあれだけ冷たい態度を取られると心が折れそうになる。
「もう早起きもしないし、図書室もいかない!」
大きな声を出すと、パソコンの電源が入る音がする。
「あー!もう、うるさい、うるさい!この状態でできることなんてねーよ」
カタカタと文字が打たれているような音がする。
奏汰は起き上がると、画面の方を見た。
“明日の朝6:00散歩に行け”と表示されている。
いつもと違う。
「ここに行けばいいのか?」
またカタカタと文字が打たれる。
“彼女の心を取り戻せ”
梨央の笑顔が思い出される。
もう一度だけでもあの笑顔を見たい。
傷ついた心を取り戻したい。
「了解」
奏汰は最後にもう1度だけ頑張ることにした。
翌朝も早起きすると、きなこを連れて散歩に出かけた。
「今日はよく冷えるな」
きなこと一緒に外に出る。
確実に冬が近づいてきている。
公園に着くと、いつものようにきなこをベンチに座らせる。
公園の時計台を見ると、6:00を指そうとしている。
(何が起きるんだろう?)
辺りをキョロキョロしていると、突然きなこが走り出し、リードが外れてどこまでも走っていく。
「きなこ!待て!」
追いかけると、公園を出ていく。
もう6:00になっている。
完全にいつもの散歩コースからそれるが、きなこをこのままほっておくわけにはいかない。
「くそっ」
奏汰はきなこを追いかけて走り始めた。
きなこは思ったより遠くには行っておらず、公園の近くにあるため池でワンワン吠えている。
きなこは普段全く吠えない。
どういうことだろうと奏汰が、池に近づくと、池の中で何かがバシャバシャと暴れている。
よく見ると、子猫が溺れているようだ。
「えぇ!ちょっと」
奏汰は辺りを見まわして、大きめの枝を見つけると池のぎりぎりふちまで行って手を伸ばす。
子猫もわかっているのか枝に掴まろうとするが、上手くつかめない。
どれくらい子猫がつかっていたのかわからないが、そう長くこのままではいられないだろう。
他に何か使えるものはないかと探すが、何も見つからない。
(これはもう行くしかないんだろうな・・・)
奏汰は覚悟を決めた。
この汚いため池がどれだけの深さかわからないし、そもそもどんな生き物が生息しているかもわからない。
恐怖でしかないが、このまま子猫を見捨てるわけにもいかない。
ぴゅーっと寒い風が吹いている。
(明日は風邪確定だな)
そう思いながら、英人が一歩を踏み出そうとしたら、「待って!!」と大きな声がした。
振り返ると、梨央が何かを持ってこっちへ向かってきていた。




