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世界を救うために君を落とします  作者: 月丘 翠
作戦《7》ピンチ!彼女の心を取り戻せ!
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ピンチ!彼女の心を取り戻せ!②


「梨央」


奏汰が図書室にいくと、いつもの席でいつもように静かに本を読んでいた。

でもやっぱり目は沈んでいて、色がないように見える。


「梨央」


もう一度声をかけてみても、本から視線を外さない。

奏汰は黙って隣の席に座る。

なんだか拒絶されそうで顔は見れそうにない。


「梨央がこれまでどんな辛いことがあったのかはわからない。正直今でどんな声掛けをしたらいいのかもわからない。でも…俺は隣にいるよ」


それだけ伝えると、鞄から本を取り出した。

ちらりと横を見るが、梨央の表情は変わらない。

ただ梨央は席を立つことはなく、黙って本を読み続けていた。

学校が閉まるチャイムの音がして、梨央は黙って片付けると立ち上がって、去っていく。


「また明日な」


奏汰がそういうと、一瞬立ち止まったように見えたが、そのまま梨央は帰って行った。


「きなこ、頼むな」

翌朝、奏汰は早起きすると、きなこを連れて散歩に出かけた。

早朝となると寒い。

きなこは寒さなんて関係ないと言った感じで、尻尾をふりふり上機嫌に歩いている。

いつもの公園につくと、きなこをベンチにつないだ。


「梨央、来るかな」


きなこを撫でながら聞いてみても、きなこは「?」という感じで首をかしげるだけだ。

30分ほど待っていたが、来る気配はなく、諦めて帰った。

きなこが、樹の影の方へ尻尾を強く振っていたことに奏汰は気づかなかった。


「おはよう」

奏汰が教室に入って挨拶すると、「ちょっと来て」とまたそのまま強引に小春に廊下に連れ出された。

「今度はなに?」

「梨央のことなんだけど、あれからずっと元気ないでしょ」

「・・・あぁ」

「梨央を元気づけようと思って」

「どうやって?」

「もうすぐ私の誕生日だからさ」

「藤沢の誕生日がどう関係するんだ?」

「まぁ聞いてよ。誕生日会を家で開くってことにして、梨央を家に呼んで、みんなで喋ったり、遊んだりしたら元気出るんじゃないかなって思って」


「・・・呼んでくると思うか?」


梨央は今日もひたすらに本を読んでいる。

誰とも話さないというオーラが出ている。


「・・・無理か」

「おそらくな」

「どうしたらまた笑ってくれるようになるんだろ」

うーん、と小春は考え込んでいる。


「・・・お前本当にいい奴だよな」

「いい奴?」

「大久保が元気になるように必死に考えてさ」


「当り前でしょ、友達なんだから」


「・・・そっか」

梨央のことをこれだけ考えてくれる友達がいる。

あの頃と違うのだと伝えたいが、言葉で伝えてもきっと届かないだろう。


それから毎日放課後は図書室へ行き、朝はきなこの散歩を兼ねて早朝に公園に行くようにした。

2週間ほど経っても、梨央の態度が軟化することはなかった。


「もうどうしたらいいんだよ!」

家に帰ると、ばふっとベッドに横になった。

さすがにあれだけ冷たい態度を取られると心が折れそうになる。

「もう早起きもしないし、図書室もいかない!」


大きな声を出すと、パソコンの電源が入る音がする。


「あー!もう、うるさい、うるさい!この状態でできることなんてねーよ」


カタカタと文字が打たれているような音がする。

奏汰は起き上がると、画面の方を見た。


“明日の朝6:00散歩に行け”と表示されている。


いつもと違う。

「ここに行けばいいのか?」

またカタカタと文字が打たれる。


“彼女の心を取り戻せ”


梨央の笑顔が思い出される。

もう一度だけでもあの笑顔を見たい。

傷ついた心を取り戻したい。


「了解」


奏汰は最後にもう1度だけ頑張ることにした。


翌朝も早起きすると、きなこを連れて散歩に出かけた。

「今日はよく冷えるな」

きなこと一緒に外に出る。

確実に冬が近づいてきている。

公園に着くと、いつものようにきなこをベンチに座らせる。

公園の時計台を見ると、6:00を指そうとしている。


(何が起きるんだろう?)


辺りをキョロキョロしていると、突然きなこが走り出し、リードが外れてどこまでも走っていく。

「きなこ!待て!」

追いかけると、公園を出ていく。

もう6:00になっている。

完全にいつもの散歩コースからそれるが、きなこをこのままほっておくわけにはいかない。


「くそっ」


奏汰はきなこを追いかけて走り始めた。

きなこは思ったより遠くには行っておらず、公園の近くにあるため池でワンワン吠えている。

きなこは普段全く吠えない。

どういうことだろうと奏汰が、池に近づくと、池の中で何かがバシャバシャと暴れている。

よく見ると、子猫が溺れているようだ。


「えぇ!ちょっと」

奏汰は辺りを見まわして、大きめの枝を見つけると池のぎりぎりふちまで行って手を伸ばす。

子猫もわかっているのか枝に掴まろうとするが、上手くつかめない。

どれくらい子猫がつかっていたのかわからないが、そう長くこのままではいられないだろう。

他に何か使えるものはないかと探すが、何も見つからない。


(これはもう行くしかないんだろうな・・・)


奏汰は覚悟を決めた。

この汚いため池がどれだけの深さかわからないし、そもそもどんな生き物が生息しているかもわからない。

恐怖でしかないが、このまま子猫を見捨てるわけにもいかない。

ぴゅーっと寒い風が吹いている。


(明日は風邪確定だな)


そう思いながら、英人が一歩を踏み出そうとしたら、「待って!!」と大きな声がした。

振り返ると、梨央が何かを持ってこっちへ向かってきていた。

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