文化祭で彼女との距離を縮めよ④
「市川、聞いてるの?」
小春が不機嫌そうにこちらを見ている。
帰ろうとしたところに呼び止められたが、梨央からの連絡を早く見たくて頭に入ってこない。
「聞いてる。で、なんだっけ?セリフ?」
「そ、そうじゃない!ちょっと話があるのよ」
「話?」
「劇が終わった後なんだけど、一緒に店回らない?」
「いやいや、なんで俺?藤沢は他に友達いるだろ?」
「それはそうだけど、市川が劇を頑張ってるからご褒美」
「なんだよ、それ」
「で、どうなのよ?私とは行きたくないってこと?」
「そんなことはないけど…」
「行こうか」
「は?」
振り返ると誠が立っている。
「お前が藤沢と回ったら、俺一人になるだろ。一緒に回ろうぜ」
「篠崎、あんた」
「困るのか?俺がいたら」
「別にそんなことは・・・」
「じゃあ決まりな。俺と奏汰と藤沢で行こう。3組のたこ焼き上手いらしいからそれは絶対買おな」
誠は勝手に話を進めると、「ほら、マレフィセント、帰るぞ」と教室を出た。
家に着いて鞄を置くと、スマホが震えた。
梨央からメッセージが来ている。
“今日はお疲れ様。明日の文化祭なんだけど、劇が終わった後に一緒にお店まわりたいんだけど、どうかな?”
嬉しいお誘いだが、少し前に約束してしまったのを思い出した。
(あの時、藤堂が止めなかったら・・・!)
「くそ!」
枕を壁に投げつけた。
「え、こんなにいるの?」
奏汰は本番前に舞台袖から観客をみて、思わず声を上げた。
体育館にはかなりたくさんの人が座っている。
「梨央も藤堂君も人気あるからね」
小春は当然でしょという顔で、準備の確認を進めていく。
「聞いてねぇよ」
奏汰が緊張を和らげるため、体育館裏で深呼吸をしてみる。
セリフを思い出そうとするが、緊張のせいなのかこんがらがってくる。
「えっと、16の誕生日が、誕生日に・・・、えーっと」
「マレフィセントがそんな不安げな顔しちゃだめだよ」
振り返ると、梨央が王子様の恰好で立っている。
「結構人がいるみたいだね」
「あぁ。あんなにいるとは思わなかったから、緊張するわ」
「大丈夫。練習の通りにすればいいんだよ」
「だよな」
頭ではわかっているが、緊張で手に汗をかいて仕方ない。
「マレフィセントに魔法をかけてしんぜよう」
「え?」
梨央がふざけて王子の剣を魔法のように振ると、「観客が全てかぼちゃにみえて緊張しなくなーる」と言ってにこっと笑った。
「これで大丈夫!自信もってやろ?」
「あぁ。腹くくってやるしかないな」
「そうだよ。頑張ろう」
梨央がまっすぐこちらを見ている。
可愛らしい唇が目に入った。
“王子様との目覚めのキス・・・”
「あ、あのさ、梨央」
「ん?」
「最後のシーンなんだけど・・・」
「目覚めのシーン?」
「・・・気をつけてな」
「気を付ける?」
「藤堂が何してくるかわからないし」
「それは大丈夫」
梨央は手でオッケーマークを作ると、意味深な笑顔を浮かべて舞台袖に向かった。
「それでは、次の演目は眠れる森の美女です。男女の逆転劇をお楽しみください」
ナレーションが流れて、城でのパーティシーンから始まる。
妖精たちが順番にオーロラ姫にプレゼントをささげていく。
いよいよマレフィセントの出番だ。
小春が頷き、息を吸い込むと、奏汰は舞台に出た。
その瞬間、笑いが生まれる。
完全に出オチだ。
「我は魔女のマレフィセントだ。おやおや、姫が生まれたようだが、私はこのパーティに呼ばれてはいないねぇ」
何とか最初のセリフは問題なく言えた。
そこからは流れるように問題なく進んでいく。
登場シーンを終えて、舞台からはけると、入れ替わりでオーロラ姫が出ていく。
奏汰のマレフィセントとは違い、なぜか「綺麗」と舞台から感嘆の声が漏れている。
舞台裏で梨央と目が合うと、上手くできてたよというように頷いてくれた。
やがて、オーロラ姫と王子様の出会いのシーンにうつっていく。
オーロラ姫がお花を摘んで遊んでいる。
そこに王子様が現れる。
「そこにいる美しい姫君。名前は?」
「私の名前はオーロラ姫です」
「なんと美しい」
王子がオーロラ姫の前で膝をつき、手を伸ばす。
オーロラ姫がその手に手を重ね、王子が手にキスを・・・と思ったら、そのまま立ち上がり、王子様は握手をした。
藤志朗は驚いたようだったが、そのまま笑顔で演じきった。
そしてオーロラ姫が16歳になり、糸車に指をさすシーンとなる。
「これはなあに?初めて見るわ」
「そうかい、そうかい。さわってみるかい?」
おばあさんに化けたマレフィセントにそそのかされて、オーロラ姫は糸車に触れ、誤って針をつきさしてしまう。
ばたりとオーロラ姫が倒れる。
(このまま寝てくれてたらいいのに)
そう思いながら、奏汰は「上手くいったぞ!」と言いながら高笑いをした。
そしていよいよ、眠っているオーロラ姫を王子様が見つけるシーンに入っていく。
一旦幕を引いて、その間に場面変更を行っていく。
バタバタと大道具係などが動く中、藤志朗がにやにやしている。
「藤志朗、お前・・・」
そう言おうとすると、小春に呼び止められた。
「なんだよ、俺は藤志朗に話が」
「それはいいから。最後の場面は変更するから、市川も出てもらうで」
「いや、どういうことだよ」
奏汰が言い返す時間もなく、幕が開いた。
「オーロラ姫、呪いのせいで永遠の眠りについてしまったのですね」
王子がそっとオーロラ姫の頬を撫でる。
「なんと嘆かわしい・・・」
「俺、ほんとに出るの?」
「いいから、ほら登場シーンだよ。梨央に合わせて話せばいいから」
小春にドンと背中をおされて、マレフィセントが舞台に飛び出した。




