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世界を救うために君を落とします  作者: 月丘 翠
作戦《6》文化祭で彼女との距離を縮めよ!
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文化祭で彼女との距離を縮めよ④

「市川、聞いてるの?」


小春が不機嫌そうにこちらを見ている。

帰ろうとしたところに呼び止められたが、梨央からの連絡を早く見たくて頭に入ってこない。


「聞いてる。で、なんだっけ?セリフ?」

「そ、そうじゃない!ちょっと話があるのよ」

「話?」


「劇が終わった後なんだけど、一緒に店回らない?」


「いやいや、なんで俺?藤沢は他に友達いるだろ?」

「それはそうだけど、市川が劇を頑張ってるからご褒美」

「なんだよ、それ」

「で、どうなのよ?私とは行きたくないってこと?」

「そんなことはないけど…」


「行こうか」


「は?」

振り返ると誠が立っている。


「お前が藤沢と回ったら、俺一人になるだろ。一緒に回ろうぜ」

「篠崎、あんた」

「困るのか?俺がいたら」

「別にそんなことは・・・」

「じゃあ決まりな。俺と奏汰と藤沢で行こう。3組のたこ焼き上手いらしいからそれは絶対買おな」

誠は勝手に話を進めると、「ほら、マレフィセント、帰るぞ」と教室を出た。



家に着いて鞄を置くと、スマホが震えた。

梨央からメッセージが来ている。


“今日はお疲れ様。明日の文化祭なんだけど、劇が終わった後に一緒にお店まわりたいんだけど、どうかな?”


嬉しいお誘いだが、少し前に約束してしまったのを思い出した。


(あの時、藤堂が止めなかったら・・・!)


「くそ!」

枕を壁に投げつけた。




「え、こんなにいるの?」


奏汰は本番前に舞台袖から観客をみて、思わず声を上げた。

体育館にはかなりたくさんの人が座っている。


「梨央も藤堂君も人気あるからね」

小春は当然でしょという顔で、準備の確認を進めていく。


「聞いてねぇよ」


奏汰が緊張を和らげるため、体育館裏で深呼吸をしてみる。

セリフを思い出そうとするが、緊張のせいなのかこんがらがってくる。


「えっと、16の誕生日が、誕生日に・・・、えーっと」


「マレフィセントがそんな不安げな顔しちゃだめだよ」


振り返ると、梨央が王子様の恰好で立っている。


「結構人がいるみたいだね」

「あぁ。あんなにいるとは思わなかったから、緊張するわ」

「大丈夫。練習の通りにすればいいんだよ」

「だよな」

頭ではわかっているが、緊張で手に汗をかいて仕方ない。


「マレフィセントに魔法をかけてしんぜよう」

「え?」

梨央がふざけて王子の剣を魔法のように振ると、「観客が全てかぼちゃにみえて緊張しなくなーる」と言ってにこっと笑った。

「これで大丈夫!自信もってやろ?」

「あぁ。腹くくってやるしかないな」

「そうだよ。頑張ろう」


梨央がまっすぐこちらを見ている。

可愛らしい唇が目に入った。

“王子様との目覚めのキス・・・”


「あ、あのさ、梨央」

「ん?」

「最後のシーンなんだけど・・・」

「目覚めのシーン?」

「・・・気をつけてな」

「気を付ける?」

「藤堂が何してくるかわからないし」

「それは大丈夫」

梨央は手でオッケーマークを作ると、意味深な笑顔を浮かべて舞台袖に向かった。


「それでは、次の演目は眠れる森の美女です。男女の逆転劇をお楽しみください」

ナレーションが流れて、城でのパーティシーンから始まる。


妖精たちが順番にオーロラ姫にプレゼントをささげていく。

いよいよマレフィセントの出番だ。

小春が頷き、息を吸い込むと、奏汰は舞台に出た。

その瞬間、笑いが生まれる。

完全に出オチだ。


「我は魔女のマレフィセントだ。おやおや、姫が生まれたようだが、私はこのパーティに呼ばれてはいないねぇ」


何とか最初のセリフは問題なく言えた。

そこからは流れるように問題なく進んでいく。


登場シーンを終えて、舞台からはけると、入れ替わりでオーロラ姫が出ていく。

奏汰のマレフィセントとは違い、なぜか「綺麗」と舞台から感嘆の声が漏れている。

舞台裏で梨央と目が合うと、上手くできてたよというように頷いてくれた。


やがて、オーロラ姫と王子様の出会いのシーンにうつっていく。

オーロラ姫がお花を摘んで遊んでいる。

そこに王子様が現れる。


「そこにいる美しい姫君。名前は?」

「私の名前はオーロラ姫です」

「なんと美しい」


王子がオーロラ姫の前で膝をつき、手を伸ばす。

オーロラ姫がその手に手を重ね、王子が手にキスを・・・と思ったら、そのまま立ち上がり、王子様は握手をした。

藤志朗は驚いたようだったが、そのまま笑顔で演じきった。


そしてオーロラ姫が16歳になり、糸車に指をさすシーンとなる。

「これはなあに?初めて見るわ」

「そうかい、そうかい。さわってみるかい?」

おばあさんに化けたマレフィセントにそそのかされて、オーロラ姫は糸車に触れ、誤って針をつきさしてしまう。

ばたりとオーロラ姫が倒れる。


(このまま寝てくれてたらいいのに)


そう思いながら、奏汰は「上手くいったぞ!」と言いながら高笑いをした。


そしていよいよ、眠っているオーロラ姫を王子様が見つけるシーンに入っていく。

一旦幕を引いて、その間に場面変更を行っていく。

バタバタと大道具係などが動く中、藤志朗がにやにやしている。

「藤志朗、お前・・・」

そう言おうとすると、小春に呼び止められた。


「なんだよ、俺は藤志朗に話が」

「それはいいから。最後の場面は変更するから、市川も出てもらうで」

「いや、どういうことだよ」

奏汰が言い返す時間もなく、幕が開いた。


「オーロラ姫、呪いのせいで永遠の眠りについてしまったのですね」

王子がそっとオーロラ姫の頬を撫でる。

「なんと嘆かわしい・・・」



「俺、ほんとに出るの?」

「いいから、ほら登場シーンだよ。梨央に合わせて話せばいいから」

小春にドンと背中をおされて、マレフィセントが舞台に飛び出した。

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