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世界を救うために君を落とします  作者: 月丘 翠
作戦《6》文化祭で彼女との距離を縮めよ!
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文化祭で彼女との距離を縮めよ③

「どうしてここに?」


奏汰が驚いて尋ねると、梨央はきなこを撫でながら隣に座った。


「前に一緒に走る練習したでしょ?それからなんだか早起きが習慣になっちゃって、たまに散歩してるの。きなこちゃんにも会えたらいいなとか思って」


そういえば、以前体育会のリレーの練習を一緒にしていた。

きなこは久しぶりに梨央に会えて嬉しそうに尻尾を振っている。


(俺にも会いたかったりして・・・)


なんて変に熱くなる頬をぺちっと叩いた。

梨央は不思議そうな顔をして、フッと微笑んだ。

爽やかな風が吹き抜けていく。


「台本?」

梨央が俺の手元を覗き込んだ。

「あぁ、うん」

「練習してるんだ」

「まぁ・・覚えるの苦手だから人より時間かけな仕方ないかなって。ハハハ」


「じゃあ、一緒にやろっか」


「え?」


「早くやらないと学校行く時間になっちゃうよ?」

梨央に引っ張られて立ち上がる。


「じゃあ、ここから」

梨央に指差されたページから練習を始める。


「奏汰、セリフ飛んでるよ?」

「あ、ごめん。えっと」

不意に奏汰と呼ばれてドキドキしてしまう。

早起きは三文の徳というが、本当に得することもあるようだ。



「君は誰だ?」

王様が見たこともない魔女に尋ねた。

「我は魔女のマレフィセントだ。おやおや、姫が生まれたようだが、私はこのパーティに呼ばれてはいないねぇ」

マレフィセントは、王様を睨みつけた。

「それはすまなかった。君もぜひとも楽しんでおくれ」

「それはありがい。パーティに来たからには私も何か姫にプレゼントをしなければ・・・。そうだ、これにしよう。姫は16歳の誕生日の日没前に針で指を付き、永遠この世から消えてしまうだろう」

「なんてことを!」

「我を仲間外れにした罰だ。ハハハハ」

マレフィセントは奇妙な笑い声を出すと、去っていってしまった。


「いいじゃない!めちゃくちゃよくなってる」

小春は立ち上がると、「私が居残り練習付き合ったからね」と自画自賛している。

梨央の方をみると、下の方でグッドと手でサインをしてくれている。

この1週間梨央と早朝練習した結果だ。


「じゃあ、ここからは王子が姫と出会うシーンいくよ」

オーロラ姫(藤志朗)がお花を摘んで遊んでいる。

そこに王子様(梨央)が現れる。


「そこにいる美しい姫君。名前は?」

「私の名前はオーロラ姫です」

「なんと美しい」


王子がオーロラ姫の前で膝をつき、手を伸ばす。

オーロラ姫がその手に手を重ね、王子が手にキスをする・・・。

少しずつ梨央の唇が、藤志朗の手に近づいていく。


ガシャアアアン!


教室の外から大きな音がして、慌てて廊下をみると、窓ガラスが割れて野球ボールが転がっている。


「誰!?危ないわね!」

小春が窓の外を見たが、誰もいないようだ。


その後は、教師が来て片づけをしたりして、練習どころではなくなってしまった。


(このボール・・・)


奏汰は転がっている野球ボールを拾って、バレないようにポケットに入れた。


その後も練習の日々は続き、いよいよ明日が本番となった。


家庭科部監修の衣装合わせも行ったのだが、マレフィセントの角の再現度まで高く、文化祭以降のニックネームはしばらく角ババアとか鬼ババとかだろうなと想像して奏汰は少しだけテンションが下がった。


「梨央ちゃん、これ着てみて」

梨央は王子様の服装を着ても美しく似合っている。


「変かな・・?」

梨央が照れたようにこっそり聞いてきた。

「似合ってますよ、王子様」

小さな声で奏汰が答えると、「ありがと」梨央は満足そうに笑った。


そして腹立たしいことに藤志朗も綺麗に姫の衣装をきこなしていた。

化粧も女子たちにしてもらって、少し美人に見えてしまって気分が悪い。

藤志朗ファンがキャーキャー言っている中、どや顔でこちらを見てくる。


(身長180の姫のどこがかわいいねん)


本当は声に出して言いたいが、マレフィセントの恰好ではバカにし返されるのがおちだ。

「梨央ちゃん、この冠なんだけど」

クラスの子と梨央が普通に話している。

小春の存在も大きいが、文化祭の準備を通じて少しずつクラスの子たちとも打ち解けてきているようだ。

少し笑いながら話すところも見られたりして、少し悲しいような、嬉しいような奏汰は複雑な気持ちで見ていた。



「リハーサルするよ」

小春の一声で最後の練習に入った。

練習も順調に終わり、流れは完璧だった。

ただ、最後の目覚めのシーンは、「こういうのは、本番一発勝負がいい」という小春の提案で最後まで一度も練習はされなかった。

おかげで練習中は奏汰の心は穏やかだったが、藤志朗の「練習しなかったらミスするかもな」と含みをもたせた言い方に角でも指してやろうかという気持ちになった。


「さぁじゃあ今日はこれで練習終わり!明日はよろしく」

小春の一言でそれぞれ解散していく。

「やっと終わる・・・」

奏汰はため息をつくと角を外した。

「お疲れ」

梨央が冠を外しながら、にこりと微笑んだ。

疲れが吹き飛ぶ笑顔だ。


「あの、文化祭なんだけど、劇が終わった後に・・・」

梨央が言い終わらないうちに「お疲れ」と藤志朗が間に入って来る。


「藤志朗・・・!」


藤志朗に邪魔だと言おうとした時「市川、ちょっとここのセリフ確認したいんだけど」と小春がやってきて、その隙に梨央が藤志朗に促されて教室の外へ出ていく。

梨央は困った顔をしながら、手に持ったスマホを指差した。


(スマホ?)


そしてそのまま梨央はみえなくなった。

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