文化祭で彼女との距離を縮めよ②
「藤沢、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
授業が終わり、掃除の時間となり、それぞれがバラバラと担当のところへ別れていく。
少し人が減ったところで、奏汰は箒で床を掃きながら、さり気なく小春に近づいた。
「何?」
「藤沢が脚本兼演出監督やったよな?」
「そうだよ。一回やってみたかったんだよね~」
「その脚本なんだけど、オーロラ姫ってさ、王子様の、その、あれで目覚めるだろ?」
「キスのことかい?」
今1番聞きたくない声が聞こえる。
「藤志朗」
藤志朗がカッコつけて立っている。
「もちろん、キスシーンはあるよね?」
「そりゃ、目覚めのシーンだからね」
藤志朗が勝ち誇った顔でこちらを見てくる。
「当たり前やけど、フリだからね。本当にしたら、私の拳が黙ってないよ」
小春の発言に藤志朗はぶるっと震えた。
腰が引けながらも「まぁでも事故ってこともあるからね」と藤志朗はフッと笑って去っていった。
(藤志朗のやろう。あれは何かす気だな)
怒りに身を任せそうになるのを堪えて、奏汰は箒を必死に振り続けた。
それからしばらくして本格的な練習が開始された。
「じゃまずは台本持ったままでいいから始めるよ」
小春の一言で練習が始まった。
そこからは焼きそば以上の地獄が待っていた。
梨央はさすがというべきか、一度やれば頭に入っていくようで、1週間も経てば立派な王子となっていた。
そして腹立たしいことに藤志朗もその辺りは上手い。
(それに比べて・・・)
「市川!もう練習始めて一週間なのに、何でセリフが言えないのよ!」
「そう言われても…これでも割と頑張ってるんだけど」
奏汰にとってセリフを覚え、演じるなんて経験のないことで、台本を読むだけで精一杯だ。
梨央は心配そうな顔をしてくれているが、藤志朗はバカにしたような顔でこちらを見ている。
(あいつ・・・)
「市川!居残りで練習ね。他の皆は大丈夫。また明日」
お疲れ、とみんなが帰って行く。
梨央は何か言いたそうに、こちらに来ようとしたが、藤志朗に促されて、帰って行った。
「どうなんだ?マレフィセントは」
「・・・最悪」
部活終わりの誠まことは笑いながら、「まぁ頑張れ」と肩を叩いてくる。
「俺らのクラスみたいに展示だったら良かったのにな」
「ほんと、それ。演技より何よりイヤなのは藤志朗にバカにされることだけどな」
藤志朗のバカにしたような嫌味な笑顔が浮かぶ。
「しかも居残り練習もあるし」
「マジで?それは大変だな」
「監督が藤沢だからな」
「それはご愁傷様」
「最優秀賞をとるって張り切ってるよ」
「まぁそれはそれとして、本気で取り組まないとやばいんじゃないか?ダサいとこばかり見せてたら、藤志朗にとられてしまうぞ」
「とられてしまうって、梨央は別に」
「梨央?お前らそんな関係なのか」
誠がにやにやした顔で見てくる。
「ち、ちげーよ!大久保は別に俺のもんじゃねーし」
「ほーう、そうですか。まぁいいけど、このまま藤志朗のペースになったら最悪だぞ。キスシーンも防がないといけないしな」
「キスシーン・・・」
王子様役の梨央とオーロラ姫役の藤志朗のキスシーンが思い浮かんで、ムカムカしてくる。
「とにかく上手くやれよ」
誠に言われて、もう何回目かわからないため息をついた。
正直、劇なんてどうでもいい。
形になればいいと思ってはいるが、藤志朗に負けっぱなしもなんだか悔しい。
「俺は梨央みたいに天才型じゃないからな・・・」
翌朝、奏汰は早起きをして、台本を片手に愛犬のきなこと散歩に出た。
「きなこ、付き合ってくれるか?」
きなこは嬉しそうに尻尾を振っている。
ベンチに紐を括り付けると、きなこを座らせる。
家で練習したいところだが、家だと間違いなく寝てしまいそうなので、公園でセリフを覚えるだけでもしようとやってきた。
朝も早いので、誰もいない。
スーッと息を吸うと、腹を決めてセリフを読み始める。
「16歳の誕生日の日没前に?・・・針で指を付き、永遠に・・この世から消えてしまうだろう・・・」
「これで永遠の眠りについた。ハハハハハ」
きなこはきょとんとした顔でこちらを見ている。
「俺の役、相当性格悪いな・・・」
「そうだね」
後ろから聞いたことある声がする。
振り返ると、梨央が立っていた。




