文化祭で彼女との距離を縮めよ①
「来月末に文化祭が行われる。何をするか今回のLHRで決めようと思う」
秋といえば文化祭だ。
奏汰は去年の文化祭を思い出してため息をついた。
去年奏汰のクラスでは、焼きそば屋をやった。
部活動をやっている奴らは部活の出し物にも顔を出さないといけないからと、なんとなく帰宅部に負担がよっていった。
陸上部とかバスケ部が文化祭で何やるんだよとは思うが、頼むと言われれば断れる立場ではない。
交代の奴は時間通りに来ない、客は並び続ける状況で、ひたすらに必死に焼きそばを作り続けただけで終わり、何も楽しくなかった。
今でもあの時の火傷の跡が残っていて忌々しい。
なので、帰宅部の奏汰にとって、この文化祭の出し物が何になるかは非常に重要な問題だ。
なんとか店は避けたい。
出来れば展示とかがいい。
もちろん意見を言える立場ではないので、心の中で神に祈るばかりだ。
「ただな、毎年学年の中で1クラスは演劇と決まっていてなぁー。先生、じゃんけんで負けたんだよな」
神などいない。
奏汰は1番ないなと思っていた選択肢しかないことに絶望した。
「先生、つまり私たちは劇をしなきゃいけないってことですか?」
誰かが質問すると、「そうなるな」と申し訳なさそうに担任は返事した。
教室はかなり騒がしくなり、誰もがやりたくない、どうするんだと声をあげている。
「決まったもんは決まったんだ。何の劇にするか決めるぞ」
担任に強めに言われ、渋々みんなは静かになった。
劇の演目ついては色々話が出されたが、誰もが知っていて、わかりやすいものがいいだろうと言うことで、白雪姫やシンデレラなどがあげられ、1番登場人物が少なくても済みそうな眠れる森の美女となった。
そしてただそれをやるだけでは、つまらないということで、男女逆に演じると言うことにまとまった。
あとは担当決めだ。
奏汰は大道具係とか大変そうなのに当てられるんだろうなぁとため息をつきながら、事の顛末を見守ることにした。
「まず主役のオーロラ姫誰がやる?」
「そりゃ藤堂くんよ」
誰かの一声で、オーロラ姫は藤志朗に決まった。
藤志朗も手をヒラヒラさせて乗り気のようだ。
「じゃあオーロラ姫は藤堂と、じゃあ王子役は?」
たくさんの女子が手をあげる。
忘れかけていたが、藤志朗はそれなりのイケメンでモテるのだ。
「大久保さんはどうかな?」
藤志朗がとんでもないことを言い始めた。
莉央は驚いた顔で首を横に振ったが、女子達が口々に「大久保さんなら仕方ないわ」「美男美女だものね」そう言って恨めしそうに莉央を見ている。
かなり心はざわめくが、美形の2人が主役なのは仕方ない。
そして何より今この場で俺が意見を言えるわけもない。
奏汰は予想通りに大道具係になった。
大道具で何か藤志朗の頭でもどつけないかならと考えていると、「マレフィセント役は市川でいいなー」と担任の声がする。
みんながこちらを見ている。
ぼんやりしてる間に誰かが奏汰の名前を出したらしい。
「いや、僕は大道具担当だし」
「大道具はみんなで作ればいいし、いけるだろ」
担任は呑気にそんなことを言ってくる。
「みんな部活もあって、練習に時間が避けないんだと。市川は委員会も部活もしてないし、時間あるだろ?」
本来ならこう言われれば、引き受けてしまうところだが、今回はそうはいかない。
舞台で、演技なんてごめんだ。
「まぁ、それはそうですけど、でも」
「さ、配役が決まったところで、他の分担をしようか」
奏汰の反論は担任の耳に入ることはなく、次の分担へと話が変わっていった。
「マレフィセント?」
帰り道に劇の話をしたら、誠はバカにしたように笑ってくる。
「流れ的に仕方なかったんだよ。ったく、めっちゃイヤなんだからな」
奏汰が軽く睨むと、「まぁまぁ」と誠は笑って受け流した。
「そんなことより、いいのかよ?藤堂の奴、絶対役をだしにして、色々やるぞ」
「そう言われても決まってしまったんだからしゃーないだろ」
奏汰はこれからどうなることやらと、この先の展開を想像してため息をついた。
家に着いて自室の扉を開けると、パソコンが立ち上がっている。
「でしょうね」
もう6回目となると何も思わない。
「次はなんだよ」とパソコンを覗き込むと、文字が表示される。
“文化祭で彼女との距離を縮めよ”
「マレフィセントが王子様とどうやって縮めるんだよ、」
ツッコミんでみるが、“お前ならできる”とだけ表示される。
「丸投げかよ、過去の自分に」
“このままだと彼女の唇はあのクソ野郎に奪われる”
「はぁああ?なんでそうなる?」
“オーロラ姫はどうして目覚めるんだ?”
眠れる森の美女の話は、オーロラ姫が誕生した時、妖精たちが様々なプレゼントをオーロラ姫に送るが、パーティに呼ばれなかった魔女のマレフィセントは怒り、オーロラ姫に16歳の誕生日に糸車に指をさして命落とす呪いにかける。やがて16歳になって、呪いによってやはり眠ってしまう。その呪いを解くのが王子様のキスという内容だ。
「それは王子様との…キス…?」
奏汰が答えた瞬間に、パソコンの電源が落ちた。
「マジかよ…」
奏汰は、布団にバフっと寝転んだ。




