夏休みに彼女とデートせよ④
その日、奏汰はそわそわしていた。
なんせ今日は梨央と水族館デートの日だ。
藤志朗の妨害があるのではないかと不安だったが、梨央に今海外でバカンス中と絵葉書が届いたそうなので、それはなさそうだ。
自分の中で一番おしゃれに思える服を着て、外にでる。
出る間際になぜか母親に「小春ちゃんによろしく」と言われたが、そこについては適当に返事をした。
外に出ると、暑い風がもわっと体を包み込む。
今日も気温はかなり高くなるようだ。
空は青く、雲一つない快晴だ。
待ち合わせ場所はカフェにした。
前のようにナンパ男がいたらたまらない。
カフェに入ると、やはり梨央は本を読んでいた。
「ごめん、待たせちゃったな」
デートには男の方が早く着いておくべしと雑誌かネット記事に書いてあったので、10分前には着くようにしたのだが、それでは遅かったようだ。
「ここのコーヒーが美味しいと聞いていたので、飲みながら読書しようとかなり早めに来てしまいました」
腕時計を見せながら「待ち合わせ10分前なので、間に合ってますよ」と優しい笑顔で言った。
今日はベージュの半袖ワンピースにカーディガン、歩きやすそうな可愛らしいサンダルを履いている。
奏汰もアイスコーヒーを頼んで、今日の予定を確認し、カフェを出た。
「暑いですね」
梨央が白い日傘を開いた。
今日も30度を超えそうだ。
「ほんとに。今日は最高気温が33度くらいまでなるらしいよ」
「そうなんですか。しっかり水分を摂らないといけないですね」
大真面目な顔で水をどこで買うか梨央は考えている。
「水族館の中は涼しいから大丈夫」
奏汰がそういうと「そっか。今から水族館に行くんだもんね」と言って恥ずかしそうにうつむいた。
恥ずかしがる仕草もかわいい。
水族館に着くと、チケットを購入する。
ここは奏汰が払った。
どこぞの記事にデートは男性がスマートに払うとポイントが高いと書いてあった。
高校生には痛い出費だが、これで世界が救えるなら安いものだ。
「そんな支払ってもらって申し訳ないです」と梨央はかなり恐縮していたが、あとでお茶を奢ってもらうことで納得してくれた。
「すごーい」
梨央の目がキラキラと輝いている。
水槽がトンネル状になっていて、中を歩くことが出来る。
頭の上をエイや魚たちが泳いでいくのを見ては追いかけて、スマホで写真を撮っている。
エスカレーターでどんどん上へあがり、日本に生息する魚たちをみたり、ゴマフアザラシやカマイルカなどに手を振って梨央は楽しそうに過ごしている。
学校ではいつもクールで冷静という感じだが、やっぱり普通の女の子だ。
建物の真ん中にある大きな水槽が見えた時は大興奮で「観て!ジンベイザメ!」といつもなら出ないような声の大きさではしゃいでいた。
「ここ来るのは初めて?」
「・・・はい。私は中3の途中でこっちにきたんだけど、あまり上手に友達出来なかったから出かけたりとしたことなくて・・・」
少し寂しそうに梨央がうつむいた。
「じゃあ思いっきり楽しまないと」
奏汰がそう声をかけると梨央は「うん」と嬉しそうに笑った。
その後、少し休憩しようとカフェに入って、ジンベエザメソフトを並んで食べた。
梨央はどうやって食べるか悩みながらも、パクっと食べてニコリと笑った。
「楽しい?」
「うん、すごく楽しいよ」
「それは良かった」
奏汰もパクっとソフトクリームを食べると、甘いクリームが口の中で解けて気持ちいい。
「私、こっちに来て良かった」
「ん?」
「正直転校した時は全然知らない土地ですし、両親と姉と離れて祖母の家に来たから不安でいっぱいだったんです」
「そうなんだね。ご家族と離れると不安だよね」
梨央は苦笑いしただけで何も言わなかったが、親の都合でなく子供一人だけが転校してくるなんてよほどの何かがあったのだろうと思った。
気にはなるが、相手が話してこない限り聞くべきではないだろう。
「俺も大久保さんが転校してきてくれてよかった。おかげで俺の成績学年3位だし」
そう言って笑うと、「役立ってて良かった」と梨央も笑った。
その後はイルカの食事をみて、お土産も見に行った。
キーホルダーをイルカかジンベエザメにするか迷ったり、ジンベエザメのヌイグルミを買うかどうかで10分以上本気で悩んでいた。
そんな姿を見ながら、奏汰は本当はこんなに表情が豊かでクールとは程遠いように見えるのに、どうして学校ではクールで誰とも関わろうとしないのか気になった。
もしかしたら転校した理由と関係あるのかもしれない。
そんなことを考えていると、「お待たせ」と梨央が駆け寄ってきた。
「あれ?ぬいぐるみ買わなかったの?」
「うん。ちょっと高かったので。これで満足」
そう言って梨央はジンベエザメのキーホルダーをゆらゆら揺らした。
外に出ると、まだまだ暑かったが、日が傾いて少しだけ暗い。
「じゃ、帰ろか」
奏汰が梨央にそう声をかけると、少しうつむいて返事をしない。
「もう少しどこかいく?」
奏汰がそういうと、梨央は嬉しそうに頷いた。
「じゃあ観覧車でも行くか」
梨央を見ると、嬉しそうにコクコク頷いている。
子供みたいだ。
めちゃくちゃベタなデートコースで恥ずかしい気もするが、梨央の足取りは軽くてよほど乗りたいのだろう。
(喜んでくれてよかった)
「私の顔に何かついてます?」
「ううん、ついてない、ついてない」
「よかった。じゃあ急いでいきましょ」
「おぅ」
観覧車に小走りで向かう梨央を追いかけた。




