夏休みに彼女とデートせよ③
花火大会当日はかなり人が多い。
この地域で1,2を争う規模の花火大会なので当然だ。
気慣れない浴衣に戸惑いつつ、待ち合わせ場所に向かった。
「よっ」
待ち合わせ場所につくと、誠しかいない。
「藤沢と大久保さんは?」
「まだ。ナンパとかされてるんじゃないかー?藤沢はまだしも、大久保はあれだけの美人だからな」
「誰がまだしもやって?」
振り返ると、小春が怒りに震えた表情で立っている。
梨央は前に見せてもらった浴衣で来ている。
浴衣姿もさることながら、照れているのかほんのりピンクに染まった顔が可愛らしい。
「まぁまぁ藤沢。とりあえず会場へ向かおうぜ。な?」
そう言って、なんとか会場に向かいだしたものの、近づけば近づくほどかなりの人だ。
「こりゃはぐれそうだな」
そう誠が言っている内に、人の流れに巻き込まれて梨央が離れそうになる。
(あ・・・)
奏汰はそう思った瞬間、手を伸ばして、梨央の手を掴んだ。
ぐっと引き寄せる。
思ったより力が入っていたのか、ぽすっと奏汰の胸の中に梨央が収まった。
「ご、ごめん」
「いえ、助けてくださいってありがとうございます」
辺りを見回すと、誠と小春は少し先のところで手を振って待っている。
「あのさ、またはぐれそうになったら困るから、大久保さんのどこかを掴ませてもらってもええかな?鞄でもいいし」
奏汰がそういうと、梨央はぎゅっと手を握り返した。
「・・・これでいい」
奏汰も手を優しく握り返すと、誠と小春の元へ向かった。
「なんかお前ら顔赤いけど?」
「うるさい、人混みで暑かったんだよ」
その後、なんとか会場に辿り着き、花火の打ちあがる時間を待っていた。
事前に小春が買ってきてくれたサイダーが渇いた喉にしみる。
「もうすぐだね。楽しみ」
「うん、楽しみだね」
小春と梨央も楽しみにしているようだ。
ひゅ~・・・・
花火が高く上がっていく独特な音が聞こえる。
そして、ドーンという大きな音共に夜空に大輪の菊の花びらが咲いた。
美しい花火があがっては消えていく。
その一つ一つに梨央は驚いたり、喜んだり、表情を変えて楽しんでいる。
「お前は何を見てんだよ」
誠に言われて少し恥ずかしくなったが、梨央の横顔はやっぱり美しくて横目で見てしまう。
そして最後の花火が上がっていく。
大きな花火がこちらを見下ろしている。
梨央を見ると、梨央もこちらをみている。
梨央の唇が動く。
“たのしいね”
奏汰は頷いた。
花火大会が終わると、特に予定もない。
奏汰は家の中で1日だらだらと過ごしていた。
夏休みの宿題はあるが、宿題なんて間に合うかどうかぎりぎりの日から始めて、スリルを味わうのが醍醐味だ。
そう思っているのに、今目の前には小春がいる。
「あのさ、藤沢はどうしてうちに来たんだよ?」
「どうせ夏休みの宿題やってないだろうなと思って、優しさで来てやったのよ」
「いや、別にちゃんとやるから大丈夫ですけど」
「じゃあ今どこまで出来てるわけ?」
「・・・ゼロです」
「ほら、やっぱり」
ドアがガチャっと開いて、母親がコーヒーとお菓子を持ってくる。
「おい、母さん!」
「小春ちゃん、助かるわ~。この子なんか頼んないから」
「任せといてください」
奏汰を無視して二人で会話をして、母親は「またね」と出ていった。
「さぁ、はやく宿題やるよ」
小春に促されて、仕方なく宿題を始めた。
なんとなくやり始めると、最近勉強を頑張ったせいか解けることも多く、気づいたら集中して問題を解いていた。
「ふぅ・・・」
時計を見ると、15時になっている。
どうやら2時間ほど集中していたらしい。
「ちょっと休憩しないか?」
小春に声をかけると、「そうだね」とコーヒーとお菓子を食べ始めた。
コーヒーはすっかりぬるくなっていた。
「藤沢はさ、小学校の時から結構友達いるだろ?」
「まぁあんたよりは多いかな」
「・・・そんな友達の多い藤沢がなんで俺のこと気にかけてくれるんだ?」
「気にかけてなんか!」
「だって、小学校の時、遠足で俺だけ一人で飯食ってたら声かけてくれたし、グループ学習の時も声かけてくれただろ?中学校になってからは誠がいたからそんなことはなかったけど、クラス離れても廊下で話したり、今みたいに気にかけてくれるから何でかなぁってふと思ってさ」
「べ、別に、そんなん友達だったら普通じゃない?」
小春の顔が赤くなっているように見える。
「藤沢は俺の友達か、まぁ確かにそうなのかもな」
そう言って奏汰が小春を見ると、「・・・友達なんかじゃない」と小さく呟いた。
「え?」
「もううるさい!」
小春はそのまま荷物をまとめて帰ってしまった。
その後は、帰って行く小春の様子がおかしかったようで、母親が怒ってきて散々だった。
「ちょっと、奏汰!あんた小春ちゃんに何したの!」
「いや、友達だって言ったら怒って帰った」
母親は一瞬呆れ顔でこちらを見たと思ったら、思いっきり頭をどつかれた。
「ホンマあんたはあほやな」
母は怒ると関西弁で怒る。
母は子供の頃関西にいたので、つい出てしまうらしいが、これが結構怖い。
「いや、俺は…」
奏汰の言い訳など耳を貸さず、怒りの足取りでドカドカと部屋を出ていった。
「痛いなぁ~・・・もう。今日は厄日だな・・・」
ベッドに横になると、母親の「あんた一人やねんからエアコン切りや」という声が下から聞こえてきた。




