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(19)大冒険の終わり

〇原子力潜水艦「かみかぜ」ブリッジ

東亜共和国艦隊がアメリカ海軍に曳航されていく映像をブリッジで見ていたら、

「我々の出番はここまでだ」 

ぽんっとオレの肩をたたいて大泉さんが言った。


「とんでもないことに巻き込んでしまって済まなかったね」

そういって頭まで下げてくれた。オレは慌てて、

「とんでもありません! 元はと言えばちくとオレが無理やり乗り込んだからで・・・」

と言ったら、

「でも、君たちが乗り込んでくれたおかげで、我々は損害ゼロで済んだ」

「オレたち、と言うよりちくですけどね」

「でも君が通訳してくれなかったら、我々には通じなかったろう?」

「まぁ、そうですけど・・・でも、戦闘は正直ちょっと怖かったです」

「我々だって同じさ。ボルデメの千早も、F35の反町も、そして中野艦長だって、実戦は初めだったからね。・・・本当は戦うことなく、政治で解決できればいいんだが」

「そうですね、本当にそう思います」


「ところで、我々のミッションは君たちを無事に送り届けるまでなんだが、あの大洞窟まで乗せて行けばいいかな?」

「はい、お願いしてもいいですか」


大泉さんからも中野艦長からも、大洞窟までの2時間、部屋で休んでいていいと言われたのだけど、ちくと一緒にブリッジに居続けさせてもらった。ちくは相変わらず戦術卓の上で丸くなっている。


今更だけど、戦術卓って、結構重要な装置だよね。そんなところに寝っ転がっていていいんだろうか・・・というそぶりで大泉さんを振り返ってみたら、眉を上げ、肩をすぼめて、いいんじゃないの、って感じの返事だった。


中野艦長からは労をねぎらわれるかのようにずっとなでなでされ、他の乗組員の人たちも代わる代わるやってきてお礼やらお別れやらのあいさつをちくと交わして、さすさすしていってくれた。その間、ちくは気持ちよさそうに丸まっていた。


そうそう、ボルデメと「かみかぜ」の攻撃システムのリンクが切れた件。たかだか10やそこらの敵とのリンクを取ったくらいで演算処理オーバーになるようでは使い物にならないと若井さんが激怒していた。


本当に演算処理能力を超えたのか、ただの不具合なのかはわからないけど、若井さんは艦内の衛星電話で本省?だかメーカーさんだかに、今この瞬間にも敵が攻めてきたらどうするのだ、もっと緊張感を持て、大津ボルデメのリンクシステムを大至急見直せ、と怒鳴っていた。大泉さんの言うように、日本を守ることに関しては熱い人だ。


いよいよ下船と言うとき、オレは大泉さんに聞いてみた。

「吉田山の入り口には中継棟が建つみたいなことを言ってましたけど、あの地下トンネルはどうなるんでしょうか? 埋められちゃうんですか?」


「どうだろうなぁ。八瀬君も見た通り、如意ケ岳直下の地底湖にもかなりの量の、しかも高濃度のレアアースが確認できている。もし、地底湖でも採掘するとなれば、近さから言ってもボルデメを拡張して採掘と輸送の拠点にするんじゃないかな。作業員が出入りするにも、採掘したレアアースを搬出するにも吉田山は遠いしね」


「ですよね。でも埋められちゃったら残念だなぁ。またみなさんに会いに来たかったのに」

「東亜共和国側とのけりが付いたからね、我々も地底湖にはもうあまり行かないんじゃないかな。さすがの音無も舞鶴から海中洞窟を通って如意ケ岳まで毎回無傷で行くのはしんどいと言ってたし」


大空洞で浮上して、ゴムボートを降ろし、大泉さんがオレとちくを岸まで送ってくれた。ゴムボートに乗る前、オレとちくの見送りに「かみかぜ」の上に出てきた中野艦長や若井さんたちとの写真を撮ってくれると音無さんが言った。


「え、写真なんかいいんですか!」

極秘潜水艦で極秘任務中のみなさんと写真て・・・さすがにマズいのでは思って聞いたら、

「いいの、いいの、広報に使うわけじゃないんだし、これ私物のスマホだし」

私物のスマホを潜水艦に持ち込んでいいのかという次の疑問も浮かんだけど、そこまで言ったら皆さんの気持ちに水を差してしまうので、ありがたく写真に納まることにした。


写真はその場ですぐにエアドロップしてくれたのだが、音無さんから、

「八瀬君、くれぐれもSNSとかに上げないでね~」

と釘を刺された。


「もし、SNSで未確認潜水艦!とか広まったら、犯人は八瀬君だな」

中野艦長が真顔で言う。


「そうなったら、今度は本当に逮捕だよ」

若井さんが追い打ちを掛ける。


「その時はさすがに私でもかばいきれないなぁ」

と大泉さんがニヤニヤしながら言った。


岸でオレたちを降ろして、「かみかぜ」に戻るためボートを発進させた大泉さんは、何かを思い出したようにすぐにUターンしてきて、オレに名刺を渡し、こう言った。

「そのアドレスに空メールを送っておいてよ、非番になったら千早たちも連れて京都に遊びに行くから連絡させてもらうよ」

「ありがとうございます。ちくわがもしまた、東亜共和国の潜水艦が!みたいなことを言った時もすぐに連絡しますね」

「あぁ、頼むよ」


ボートが戻り、大泉さんは手を振りながら艦内に降りて行った。そして、「かみかぜ」はまたゆっくりと潜航していった。


オレは、この半日の出来事を振り返りながら、しばらく地底湖を眺めていた。

今朝4時に吉田山から地下道に入って、潜水艦に乗り込むことになって、最先端テクノロジーを駆使した戦争を目の当たりにして・・・ものすごい密度の濃い半日だった。これまでのオレの人生で、こんなにすごい半日なんてあったろうか・・・。


ふと見たら、ちくは足元に丸まっていた。ちくにとっても大冒険だったから、さすがに疲れたのかな。色んな能力も使ったみたいだし。


「さ、ちく。遅くなる前に帰ろうか!」

ちくは、眠そうに頭をもたげ、うにゃあと一鳴きした。


ちくの大冒険の翌日、ハナちゃんが帰ってきて、ちくとオレはいつもの生活に戻った。と同時にちくは喋らなくなってしまった。いやもちろん、にゃあとは鳴くのだ。けどそれが言葉ではなく、猫のにゃあなのだ。

ちくは、昔のフツーのちくに戻ってしまった。


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