(18)終戦
〇原子力潜水艦「かみかぜ」ブリッジ
その時、まだ終わりじゃないよ、集中して、とでも言わんばかりに、
「「かみかぜ」、こちらボルデメ、唐級浮上する! 2時方向、距離1800!」
とかけるさん? めぐるさん?から報告が降りて来る。
「艦長!」
そう言って中野艦長を振り返る三上副長。
「油断するな、まだミサイルがあるぞ!」
「「あたご」の高山だ。唐級はこっちでフォローする」
「高山二佐。頼みます!」
「丘に戻ったらビール一杯だ、中野!」
掘削船は、沈没はしないまでも少し傾き、自走不能となったようだ。
〇大津ボルデメ管制室内
「めぐる、これ!」
そう言ってかけるが示したのは、イロハからのリアルタイム高精度映像。そこには駆逐艦甲板上のミサイル発射口が開口されていく様子が写っている。
「「かみかぜ」、ボルデメ! 敵駆逐艦1番艦VLS発射口開口!!」
「うぃ~、第2章の始まりかい」
とは「あたご」の高山艦長だ。
「ボルデメ、中野だ。SUMかSSMか?」
「両方と思われます!」
「ボルデメ、高山だ。こっちはフォロー無しでいい、今井がCIWSで撃ち落とす。攻撃リンクが切れてる「かみかぜ」のフォローだけよろしく! 頼むぜ、ビューティペア!」
と高山さんが言うと、一拍遅れてボルデメから返事があった。
「「あたご」、ボルデメ了解です。ご武運を!」
ビューティペアと呼ばれるのはあまり好きじゃないようだ。なんてことを思っていたら、聞いたことのない新しい声が飛びこんできた。
「ボルデメ、ファースト。すまん遅くなった、こちらF35の反町だ!」
●東亜共和国 民族解放軍 楊艦長 駆逐艦ブリッジ
自艦手前で自爆した魚雷の水柱を見ながら、楊艦長はもはやその意味するところを察する術も、思考する力さえも失っていた。
「砲雷長!SUM準備は!?」
と叫ぶ楊艦長を制するように、
「楊艦長、あの水柱は降伏せよという日本からの合図だ! 沈める気ならいつでも沈められる。それをあえて・・・」
と朱委員長が言った。
「黙れ!朱! この艦の艦長は私だ! 沈める気ならいつでも沈められるだと? だったらそうすればいいではないか! だが我らはまだここにいる! 動けなくとも攻撃は出来る! このままおめおめ白旗など上げられるか! 砲雷長! 「あたご」と潜水艦を仕留めてやる! SUM、1から4番発射!」
艦前方のミサイル発射口が開口し、4発のミサイルが轟音と白煙を上げて発射された。
「「あたご」めぇ、必ず一矢報いてやるぞ!」
飛んでいくミサイルを見つめながら、
「この戦闘、最早我らに勝機はない・・・」と呟いた朱には、白煙が白旗に見えた。
実際、「あたご」に向かった2発のミサイルは、着弾直前で2発とも爆発した。CIWSで落とされたのであろう。
残り2発は、海中に達する前に、どこからともなく現れたF35の対空ミサイルで撃墜された。
撃墜された破片が海に落ちていく様を呆然と見つめる楊と朱の目に、海中から4発のミサイル登ってくるのが映った。
「ハープーン・・・」
楊は呟くのがやっとだった。いや、仮に正気を保っていたとして、動けぬ本艦にあのミサイルをかわすすべはない。これで終わりだ、今度こそ終わりだ・・・不思議と恐怖はない。ただ朱は、向かってくるミサイルを見つめるだけだった。
「あぁ、今一度、王艦長の艦に乗りたかった」
そして、海中から発射されたハープーン4発は楊艦のCIWSをくぐり抜け、全て前方のSUM発射口に命中した、が、また爆発はしなかった! しかし、無弾頭とは言え、その衝撃で発射口は破壊され、次弾はとても打てそうな状態ではなかった。
「また、無弾頭・・・日本は一体、何を・・・」
力なく呟いて、楊艦長はその場にしゃがみ込んでしまった
その時、ブリッジにアメリカ海軍第7艦隊ジョージワシントンからのメッセージが流れた。
〇大津ボルデメ管制室内
「ボルデメ、ファースト。すまん遅くなった、こちらF35反町だ!」
そう言って会話に割り込んできたのは小松基地からスクランブルした第3航空団 第302飛行隊・飛行隊長、反町研一、二等空佐のF35だ(と後で大泉さんに聞いた)。
「ファースト、ボルデメ。ギリです! 敵駆逐艦にSUM発射兆候ありです! 「あたご」はCIWSで迎撃するそうなので「かみかぜ」の援護願います!」
「ファースト了解した! フューチャーと迎撃する!」
〇原子力潜水艦「かみかぜ」ブリッジ
「3番から6番、ハープーン(対艦ミサイル)準備できてるな?。目標敵駆逐艦」
この状況になっても中野艦長の声は冷静だ。だから他の人も落ち着いて対処出来ているのだろうか。
「艦長の作戦通りですね、いつでもどうぞ!」
伊藤魚雷員から、準備万端の返事が返ってくる!
「敵駆逐艦、SUM発射確認!」
ボルデメからの報告を聞き、うん、と頷き中野艦長が命令する。
「ハープーン発射。確認後、急速潜航!」
「艦長! 小松基地、反町二佐からです。SUMは任せろ、と」
永野さんという通信員が振り返って艦長に告げる。
「F35が来たか! 頼むぞ、反町っ!」
〇イージス艦「あたご」艦内
「高山艦長ッ、SUM来ます!」
新人レーダー担当の背後からコンソールを覗いていた杉副長が叫ぶ。
ブリッジ前では敵ミサイルをロックしたCIWSがうなりを上げて自動で追尾する!
「よし! 今井、落として見せろ! てッー!」
「てッー!」
「あたご」から発射されるCIWS。
ダララララララララララララララララララララララララララララララッ
と、物凄い掃射が始まり、撃墜される東亜共和国駆逐艦の対艦ミサイルSUM。
ブリッジ目前で閃光が走る!
「ふぃー、間一髪」
「まだだ、まだ来るかもしれん、気を抜くな、杉!」
〇F35コクピット
「未来、外すなよ」
「反町さんこそ、一発で大丈夫ですか? 予備のミサイル貸しましょか?」
「言ってろよ!」
ヘッドマウントシステムに映る「かみかぜ」に向かうSUMがボルデメによりロックオンされるのを確認する江田三等空佐。そしてミサイル発射!
「お先です!」
続いて、ロックオン、撃墜する反町隊長。
「ボルデメ、「かみかぜ」、ファーストだ。SUMは2基とも撃墜完了! 警戒を継続する」
「ファースト、ボルデメ。撃墜確認です! さすがですね」
「だろ、めぐる!」
「でも江田さんの方が早かったですね!^^/」
力なく左旋回しながらロングショットになる反町機。
〇原子力潜水艦「かみかぜ」ブリッジ
イロハからのリアルタイム映像を戦術卓で確認する中野艦長。「かみかぜ」から発射された4発のハープーン対艦ミサイルが白煙を上げて飛んでいく。
「ちくわちゃん、ハープーンをSUMの発射口の上に落とせるかい?」
と聞かれたちくは、うにゃ!と一鳴きした。
「任せてって言ってます」
ちくと中野艦長の会話には、最早通訳なんていらないのではないかと思ったけど、一応訳しておいた。
ハープーンが白煙を上げて敵駆逐艦を目指す。駆逐艦からCIWSが発射されるが当たらない! ちくの制御で微妙にふらふらするせいだろうか。そして・・・SUM発射口に着弾!
が、爆発はしなかった。こちらも弾頭を抜いてあったのだ。
しかし残りの発射口は衝撃でめちゃくちゃになってしまった様子が見てとれる。これでは次弾は発射できそうもない。
「艦長、オープン回線で米軍からです!」
と永野さんが艦長に報告し、艦内スピーカーに切り替える。
「東亜共和国艦隊に告ぐ。こちらはアメリカ海軍第7艦隊ジョージワシントン。直ちに攻撃を中止せよ。本戦闘が日本のEEZ領海内で行われていることは現在全世界にライブ中継されている。これ以上ミサイル一発、魚雷一本でも打った場合には第7艦隊が日米安全保障保条約に基づき、貴艦隊をせん滅するとともに、王都からの指令であることが判明した場合には、本国が当艦隊潜水艦部隊からの攻撃にさらされると覚悟されよ。繰り返す、貴艦隊の国際法違反の行動は全て、ライブ映像により全世界にリアルタイム配信されている。貴国首脳は全世界からの非難は免れないと覚悟せよ」
強烈なメッセージだった。
これ以上やるならアメリカが相手で共産党は恥をかくことになるぞというメッセージが効いたのか、それとも「かみかぜ」をはじめとする日本の精密無比な攻撃が効いたのか、東亜共和国側からはそれ以上更なる攻撃の予兆は見られなかった。
その後、自力航行できなくなった周級も浮上し、潜水艦2隻、駆逐艦2隻、掘削船はアメリカ第7艦隊に曳航され横須賀を目指すこととなった。実際には横須賀に到着するまでの間、日米亜の政府間協議が秘密裏に行われ、途中で東亜共和国側に引き渡すことになるのかもしれない。
だが、日本のEEZ内に無断侵入し、武力で以って日本の探査船や海上自衛隊を駆逐しようとしたが、自衛隊が専守防衛に徹したうえで、東亜共和国艦隊を無力化した結果、自力航行できなくなった艦船5隻が鹵獲され日本側に曳航されていく映像はインパクト絶大だった。ひゃっほう!しかも全世界にライブ中継だ!
1時間で終わった戦争。
誰も死ななかった戦争。
現場はやりました。あとはお願いしますよ、背広組さん!
日本的には、初の原潜である「かみかぜ」を白日の下にさらさずにことを収めることができたのは大きかった。
臨時ニュースでは海自の通常潜水艦、空自のF35、そしてアメリカ第7艦隊の結束によって東亜共和国の侵入を撃退したと繰り返し伝えていた。オレとしては「かみかぜ」と「ボルデメ」の凄さを多くの人に知って欲しかったけど、そんなことをしたら悪意のあるメディアに、痛くもない腹を探られることにもなりかねないから、これで良かったのかな。




